本田と西野監督、逆風に晒されてきたふたりが結果を残した。写真:JMPA代表撮影(滝川敏之)

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組織的な崩しの再評価、自身への「守備的」評価のリベンジ――失地回復が西野監督のテーマだった

 苦渋の決断から怒涛の批判に晒され、西野朗監督は究極の逆境から、常識破りの強運を引き寄せて来た。

「本来なら代表を支えていくポジションなのに、非常に責任を感じる」

 技術委員長から監督に転身した際の弁である。当然である。ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督の失敗は、そのまま技術委員会の失策なのだから、速やかに代替案を用意するのが責務だった。Jリーグで散見されるように、GMが肩代わりというのは筋が違った。

 しかも代表メンバーの人選はノスタルジーに満ちて、時計の針を戻すような行為だった。しかしそれからの歩みは、意外なほど大胆で周到だった。初采配のガーナ戦では長谷部誠を軸とした3バックが機能せず、4-2-3-1に戻したスイス戦も低調に終わる。信じたメンバーで手応えを得られないまま、それでもパラグアイ戦で、ほぼ総入れ替えを敢行した。本番まで3試合しかない最終戦をバックアップだった選手のテストに使い、これが奏功し転機となった。この試合で先発が入れ替わり、香川真司、乾貴士、柴崎岳、昌子源が開幕戦のレギュラーに食い込んだ。

 率直にコロンビア戦は、開始早々の先制とカルロス・サンチェスの退場、さらには敵将ぺケルマン監督がキンテーロを早々と代え、故障が癒えず動けないハメス・ロドリゲスの投入など、相手の自滅的な要素が大き過ぎて評価が難しかった。だが同じスタメンを送り出したセネガル戦でも、日本はポゼッションで上回り、2度のビハインドを跳ね返した。
 
 ここで少なくとも監督交代劇の成否は明白になった。ハリルホジッチ前監督は「ポゼッションがすべてではない」と選手の距離間を詰めたショートパスを駆使した連動を嫌い、最終ラインからでも長いフィードでの裏狙いを半ば義務づけていた。実際に代表で縦パスへの意識が高まった大島僚太が評価を高める一方で、効果的にゲームを構築したかに見えた小林祐希などは、その後招集されていない。こうした流れの中で、香川も構想から外れて行った。

 おそらく西野監督のテーマは、失地回復だった。ポゼッションを肯定した組織的な崩しの再評価、さらには「守備的」というアトランタ五輪での評価へのリベンジ。そしてグループリーグ最終戦のギャンブルが成功すれば、強運は美しく完結するはずだった。
 
 6人のスタメン交代は、正しい判断だったと思う。全力を出し尽くしてのラウンド16では歴史を超えられない。夏のインターハイのような異次元の悪コンディションは、両チームの走行距離に如実に表われている。もちろん終盤の立ち止まってのボール回しの影響もあるが、どちらも計80匱紊忙澆泙辰討い襦B召裡伽錣犯罎戮討20卅宛絽困辰討り、走れない試合でトップ下が不在の影響もあり全体が間延び。ロングボールを駆使しカウンターを仕掛けるポーランドが流れを引き寄せ先制した。

 理詰めの戦略ではなかったが、強運だけは継続された。概して「他人任せ」の逃げの采配は墓穴を掘る。実際にコロンビアを追いかけるセネガルは、個で複数を剥がす脅威を与え続け、日本が長谷部を交代に送り込む前後にも2度の決定機を作り出している。あくまで自力で同点チャンスを追求しながらも他力を願う。現場と裏カード、どちらも可能性を追うのが常道だが、結局日本陣営はポーランドを刺激して2点目を食うリスクの方を怖れた。ここまで腹を括って強気に攻めて来た西野監督が「本意ではなかった」と繰り返す苦渋の決断だった。
 いつも日本列島は結果オーライで沸く。確かに西野監督の日本の長所を再認識させる挑戦は、半ば成功した。逆境が強運を呼び込むこれまでの経緯からすれば、選手たちの反発も見込めるベルギー戦も神風が吹く流れだが、立ちはだかる豪華タレント集団をコロンビアのように吹き飛ばす光景を想像するのは難しい。

文●加部 究(スポーツライター)