日本人の約4割が、“不眠”の悩みを抱えていると言われる。睡眠に問題があると、日中に眠気や倦怠感、集中できないなどの弊害が起きることから、いかに上質な睡眠をとれるかが大きな課題となっている。
 睡眠は年齢とともに短くなるとされ、本当に眠っている時間を脳波で測ると、平均で8時間以上なのは10代前半ぐらいまでで、70歳をすぎると6時間を切ることがほとんど。これは、老化現象の一つとして避け難い現象なのだ。

 「不眠状態が続くと、布団に入っても“また眠れないのでは…”と緊張して、ますます眠れなくなる悪循環に陥ってしまうことがあります。寝室が恐怖の場所にならないためには、あらゆる快眠法や、睡眠薬を使ってでも“眠る体験”をすることが大切になってきます」
 こう語るのは、都内で医療総合クリニックを営む久富茂樹院長だ。

 加えて、よく“一度飲んだらやめられなくなるのではないか”などと、どことなく服用に覚悟が必要なイメージの睡眠薬について、こう説明する。
 「近年は副作用が少ない薬の開発が進み、新しいタイプの睡眠薬も登場して、利用者も増えています。医療機関でも、入院患者が“眠れない”と訴えれば、すぐに処方してくれます。悩むような状況であれば、医師に相談するのもいいかもしれません」

 人が眠くなるときには、大きな二つの仕組みが働いている。
 一つは、脳を覚醒させる神経中枢が抑制されることで発生する眠気だ。この抑制は、起きていることでの疲れとともに、脳内に溜まってくる睡眠物質が睡眠中枢を刺激することによって起きると言われる。
 「もう一つは、体内時計の働きです。暗くなると脳の中央にある松果体という部位から、メラトニンと呼ばれるホルモンが放出され、体内時計の中枢を刺激して、体を休めるようにという指令が体に向けて出される。睡眠薬は、この二つの仕組みを助けることで眠気を作り出します」(同)

 具体的には、睡眠中枢に働くのが「ベンゾジアゼピン系受容体作動薬」と呼ばれる薬で、『マイスリー』、『レンドルミン』など種類も豊富にあり、睡眠薬としては最も多く使われているものだ。
 「中には処方箋がなくても薬局で買える薬があり、『ドリエル』などがそれにあたります。これは、風邪薬やアレルギーの治療薬を飲んだ際に眠りたくなるという副作用を、積極的に利用したものです。ただ、気軽に購入はできますが、常用すると効果が薄れてしまいます。使用が4週以上続くような人は、医師に相談した方がいいでしょう」(同)

 医療関係者は睡眠不足の影響について、こうも語る。
 「睡眠不足になると交感神経が優位になっている時間が長くなり、神経伝達物質のアドレナリンが大量に分泌されます。アドレナリンは心拍数を増やす上、血圧を上昇させて、動脈硬化を促進させてしまいます。つまり、血圧が高い人ほど睡眠薬に依存しているケースが多い傾向があるのです」
 血圧が高くて眠れない、もしくは眠れないから血圧が高くなる。そのために睡眠薬に頼るという流れは、決していいものではない。

 一方で睡眠薬は、いったん使い始めると徐々に効かなくなることもあり、一度効果が薄れてしまうと、どうしても強いものを服用し始める。そこからついには、睡眠薬の依存症に陥ってしまうことが多いという。
 「そうした場合、効果が切れてきたときに脳が薬を欲するようになります。かといって、急に薬をやめると今度は離脱症状が出てしまう。中には複数の医療機関からいくつも睡眠薬を処方され、フラフラになってしまう高齢者が少なくないといいます」(健康ライター)

 米心臓学会では、睡眠薬に依存している患者は、心臓発作のリスクが50%もアップするとの研究結果を発表している。なぜそうなるかの仕組みについてはまだ分かっていないが、大動脈瘤などのリスクも増加したという。