躍進するチームをもっとも複雑な思いで見つめているのは、試合に出られないベンチメンバーではないか。もちろん、勝利はうれしいに違いない。彼らもW杯のメンバーであり、活躍しているのはチームメイトだ。また、次の試合でチャンスが訪れるかもしれないのだから、必死に準備をしておく必要もある。

 本人もそんなことは百も承知だろう。それでも、いつもは明るい槙野智章の様子がちょっと違って見える。練習中や、試合中のベンチではふだんと変わらない。ただ、取材陣が待ち受けるミックスゾーンを通り過ぎるときの槙野からは、早く話を切り上げたい、という空気がビンビンに伝わってくる。

 それはそうだろう。でも、だからこそ彼に聞きたいことがある。

「(サブだからといって)心がけていることは別にないですよ。チームのためにやるだけですからね。特にいつもと変わりなく、やれることをやるだけです。(練習量を調整するための)個人トレーニングはやらないです。休むときは休むし、練習するときはする。メリハリを持ってやっています」

 槙野は練習後、汗をダラダラと流しながら話した。


キャンプ地カザンで、他の控えメンバーとともに汗を流す槙野智章

 セネガル戦が行なわれたエカテリンブルクから戻ったこの日、カザンの気温は一気に上昇。30度を超える炎天下の午前練習で、槙野は大きな声を出し、ミニゲームからPK練習までをこなしていた。

 そんな槙野に「試合に出たいのではないか」と、ストレートに聞いてみた。一瞬の逡巡があって、答えが発せられた。

「うーん。それは出たいですけど、監督が決めることですし、状況をしっかり理解して、俺にしかできないことをやらなくちゃいけない。これまで積み上げてきたものがありますので、そこは理解してやらなくちゃいけないと思います」

「俺にしかできないこと」とは何だろう。ピッチ内だけでなく、ピッチの外にもあるということだろうか。

「そうですね。別に意識はしてないですけど、グラウンドの上もそうですし、グラウンドから離れたところもそうです。試合に出ているメンバーだけがメンバーじゃないし、(セネガル戦で出場がなく)練習を今日もやっているメンバーもそうですし。出ていないメンバーは、やはり出たいという気持ちを持っています。それは監督、スタッフをはじめ、みんな見ている。練習の姿や態度を見せて、出ているメンバーに対しても刺激を与えないといけないし、それが選ばれた23人だと思うし……」

 ここまでの2試合、先発11人と途中出場の本田圭佑、岡崎慎司は同じ顔ぶれだ。これに加えてコロンビア戦では山口蛍、セネガル戦では宇佐美貴史が途中出場している。ディフェンダーの槙野には、そう簡単に出場機会が訪れるとは思えない。

 W杯直前に行なわれたスイス戦の先発メンバーのうち、ここまで出場がないのは槙野を含めて3人。他の2人、大島僚太と酒井高徳以上に、本大会でも最終ラインのひとりとして起用される可能性が高いと見られていただけに、悔しさはひとしおのはずだ。

 西野ジャパンが発足して代表チーム入りした森保一コーチから、10年以上前に聞いた話を思い出した。当時、U-19日本代表でなかなか試合に出られなくなっていた槙野について、森保コーチは「槙野だから乗り越えられると思ってね」と語っていた。強いメンタルに絶対の信頼を置いていることが伝わってきた。

 槙野が31歳になって初めてW杯にたどり着いたのは、高いレベルのパフォーマンスはもちろん、強いメンタルがあるからこそだ。

 主将の長谷部誠はこんな話をする。

「(コロンビア戦からセネガル戦は)中4日で、今回(セネガル戦からポーランド戦)も中3日あるので、出ている選手の疲労回復に関しては、そんなに問題ないと思います。気候もいまのところ、すごく暑いというわけではないので。次の試合はかなり暑そうですけど」

 そしてひと呼吸置くと、移動をうながす広報担当者を待たせて、あえてサブ組について触れ、こう続けた。

「ただ、試合に出ている選手だけじゃなくて、これまで出場機会がない選手たちから、やはり出たい、自分が出たらやるんだというのをすごく感じる。そういうものを引き出すのはやはり監督だと思うので。そのへんは監督も策士なので、考えているんじゃないですか」

 長谷部も確実に刺激を受けているのだ。チームが勝ち続けるためにサブ組の力が必要なのは、16強に進出した南アフリカW杯でも証明済み。彼らの頑張りにも期待したい。

◆オシムがセネガル戦を絶賛。「日本の強さはポーランドより上」>>

◆ベンチからの視点。宇佐美貴史は「勝ちにいくため」の役割を次こそ…>>