前半3分、コロンビアのMFカルロス・サンチェスが一発退場になり、日本にPKが与えられた。

「これがターニングポイントになる」

 ベンチにいた岡崎慎司は、そう思ったという。

 香川真司がボールを抱きかかえ、PKスポットに歩いていった。岡崎は祈るような気持ちで見ていた。そして、香川がPKを決めると、ベンチの全員が飛び出して喜んだ。

「PKになった瞬間は、すごく興奮した。相手がひとり退場ということもそうですし、真司のPKが決まって1点先制できた。

 その後、(人数が)11対10になって、相手が自分たちを焦らすようなプレッシャーを、あまりかけてこなかった。それが先制後、自分たちが落ち着けたひとつの要因だと思います」

 コロンビアは失点後、やや前がかりになって攻勢を強めた。ただ、裏に抜けたFWラダメル・ファルカオがシュートを放つなど何度かチャンスを作ったものの、基本的に攻撃は単発に終わった。これに、MFハメス・ロドリゲスが絡めば脅威となるが、その相手の”エース”はベンチにいた。

 それでも前半39分、日本はコロンビアにFKを決められて同点に追いつかれてしまう。

「(同点に)追いつかれたときは、FK自体、どうだったのかぁという感じだった。そもそも相手のファールなんじゃないかって思っていた。

(FKの際)壁はジャンプをしない、という話を(チーム内で)していたけど、まさか、あそこで(壁の)下を狙うというのはなかなかないんでね……。まあ、いいシュートだったし、仕方がないかなって思っていた。

 もともと、引き分けでもいいという試合でもあったので、このまま落ち着いてサッカーをやろう、という感じではありました」

 岡崎が言うには、同点に追いつかれても、ベンチでは動揺する気配はなかったという。攻撃はやや滞っていたが、数的優位のまま、まだ時間は十分にあったからだ。

 ハーフタイムに入って、キャプテンの長谷部誠を中心に「全体を押し上げていこう」と声がかかった。岡崎は、後ろに重心がいっているように見えたので、これで少しは攻撃が改善できるかな、と思っていた。

 ただ、攻撃が今ひとつ機能しなかったのは、全体の押し上げだけが問題ではない。遅攻については、ほとんど練習をしてきていなかったので、選手間の連係にズレが生じて、ミスが出た。

「遅攻については多少の問題を感じていたけど、(ベンチから見ていても)焦りはなかったです。もし後半、もっと速く、前に攻め急いでいたら、悪い結果になっていたと思う。結果論ですけど、あそこで焦らず後ろで回していくことで、何ともない時間でも相手はジリジリしていたし、こっちは『それでいい』みたいな感じでうまくやれていた」

 前任者であるヴァイッド・ハリルホジッチ監督だったら、きっとボールを前へ、さらに速く出すように指示されていただろう。だが、西野朗監督になって、ボールを支配しているときは、焦らずにボールを回す意識がチーム内で浸透していた。

「やっぱり、焦らずに(ボールを)回すとか、そういう時間が大事。11対10で相手がプレッシャーをかけてこないなか、(原口)元気や(柴崎)岳ら初めてW杯でプレーする選手も、余裕を持ってボールを受けていた。

 普通、元気とか、岳のポジションはかなりプレッシャーがかかってくるもの。そこに圧がかかっていない状況で、ゆっくりとボールを回す時間ができて、(選手たちに)気持ちの余裕が持てたのは大きかった」



コロンビア戦、「選手たちは落ち着いていた」と語る岡崎慎司

 後半41分、それまでベンチで試合を見守っていた岡崎にも出番がきた。足がつっていた大迫勇也と交代し、途中出場した。ピッチに入ると、日本は押し込まれていたが、不思議とやられる感じはなかった。

「最後、こっちのスローインなのに相手のものになったりして、結構危ないシーンがあった。今までだと、なんとなくそういうところでやられている感じがあったけど、みんな、(最後まで)体を張って守備をしていた。あれ(危ない時間)が、90分も続くともっとタフな試合になっていたと思う。

(ひとり人数が少ない状況で)コロンビアは数少ないチャンスを狙ってきたけど、そういうなかで勝ち切ったのは、すごく大きい」

 岡崎は、南アフリカW杯のデンマーク戦以来、8年ぶりにW杯の勝利をピッチで味わった。だが、勝利の余韻に浸っている余裕はない。岡崎の視線は、早くも次戦、6月24日のセネガル戦に向けられている。

「(コロンビア戦の勝利は)ポジティブな結果ですけど、これはこれで終わり。次の試合に向けて、特に変えることはないと思いますけど、今日は11対10という状況が最初の時間帯から続いていた。次のセネガル戦は、まったく違う試合になる。

 だから、しっかりと(気持ちを)切り替えて、今日やろうとしたことがもう一度、90分間通してできるかどうか。セネガルに対して、しっかりとやるべきことを(選手全員が)遂行しなければいけない」

 岡崎は笑みを見せることもなく、淡々とそう語った。

 コロンビア戦は勝ったが、まだ1勝しただけ。グループリーグ突破が決まったわけではない。岡崎もスタメン復帰を目指して、コンディションを整えていく必要がある。

 それでも、ブラジルW杯でコロンビアと戦った選手にとって、やはりこの勝利には特別な思いがあるようだ。

「試合の前の夜、みんなと4年前にコロンビアに負けた話をしていたんですよ。みんな、あの悔しい思いを忘れていない。あれから始まっていると思うし、今回コロンビアに勝って、また新たなスタートになる。そういう意味でも、大きな勝利だと思う」

 4年前のリベンジを果たして、日本代表は新たなスタートを切った。

 8年前の南アフリカW杯のように、勢いに乗って決勝トーナメントに進出し、新しい歴史を刻むことができるのか。次のセネガル戦は、日本にとっても、岡崎にとっても、非常に大事な試合になる。

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