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バーナードリーチ(1887-1979)は、香港生まれのイギリス人で、柳宗悦や濱田庄司らと共に日本の民藝運動に関わった工芸の作家として知られている。イギリスのスリップウェアなど、忘れかけられていた故郷の民陶を日本の陶芸家と共に見いだし、収集、再現に挑んだ陶芸家でもある。日本の地方民陶にもスポットを当てた民藝運動は、リーチのイギリスでのパイプを生かし海外民陶も同時並列的に発掘され広く紹介されたのである。




バーナードリーチ 墨絵花生図 1967年


今回ご紹介する作品は、日本との関係性も深い、バーナード・リーチの絵である。同じくイギリス出身で日本でもファンの多い陶芸家には、ルーシーリーがいる。1950年代、60年代という時代は、リーチの様に厚手の力強いものが出来たり、ルーシーの様な繊細な線のものが出来たりとまるで放射線の様に様々なスタイルが生まれていた。そんな時代でもあった。リーチは、作風こそ違えど、年の離れたこの女流作家に対し、確かな腕がある同郷の陶芸作家だと評価していたという話がある。今なお影響力のある二人のイギリス人作家の交流には、一抹の興味が湧くものである。

閑話休題、今回の作品の話に戻る。リーチらしい太めの伸びやかな線で描かれた花生は、実際にあるものだったのか、はたまた空想状の産物なのか、それを想像する事も楽しい。掛け軸としては、織部釉の施された陶器製の軸先や、グレーの表装、赤い一文字の筋などが非常にスタイリッシュなムードで、細部にもこだわりを感じさせる仕上がりである。表装自体が、絵が描かれた当時のものなのか、後年になってから誂えられたものなのかは、定かではないが。純日本的な掛け軸のイメージとは、趣を異にするリーチの掛け軸は、現代的なマンションの洋室空間にも違和感なくマッチする。季節に合わせて床の間の掛軸と花入れを設えるという日本人的行為に、そこまで馴染みがない若い人々にも受け入れやすい作品と言えるだろう。

リーチの絵の存在感、年号と作者のサイン、そして掛け軸のディテール。作品を構成する一つひとつの要素を味わい、全体を見通していく過程で、自分の頭の中にバーナード・リーチの生きた時代的な背景とこの作品との楽しい語らいが始まる。少し小難しい話ではあるが、民藝運動とは何だったのか、そして2018年の今、そのスタイルはどう消化され、どのような表現に移り変わっていっているのだろうか。たまには、穏やかな初夏の昼下がりに、そんな楽しい物思いにふける時間を持ってもいいだろう。そう思わせる掛け軸である。



≪ NAVIGATOR プロフィール:坂本大 ≫
1987年生、佐賀県唐津市出身。大学在学中にロンドンへ留学。大学卒業後、現代アートのギャラリー勤務を経て、現在、唐津焼の専門店「一番館」の東京支店にて、好きな焼き物に囲まれながら、GALERIE AZURマネージャーとして勤務している。

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