6月12日に行なわれたパラグアイ戦のスタメンを見て、「そんな余裕があるのか」と思った方は多かっただろう。ロシアW杯前最後のテストマッチで、西野朗監督は8日のスイス戦から先発メンバーをガラリと入れ替えたからだ。

 ここまでの選手起用から判断する限り、システムに関わらず先発出場が濃厚な川島永嗣、長友佑都、吉田麻也、槙野智章、長谷部誠、原口元気、大迫勇也といった選手の名前が、パラグアイ戦のスタメンにはなかった。基本的にはバックアッパーと考えられる選手たちが、4−2−3−1のフォーメーションに散らばっていった。
西野監督の意図はどこにあるのか?

 ガーナ戦で3バックにトライした理由として、指揮官は「W杯では色々な状況に対応する必要がある」と話してきた。コロンビア、セネガル、ポーランドとの戦いをシミュレーションすると、前監督が採用してきた4−3−3以外も準備しておくべきで、3バックや5バックも視野に入れるべきだ、との考えかたである。

 本来はボランチの長谷部をリベロで起用するといったように、選手の立ち位置を変えることで異なるシステムを成立させることはできる。一方で、選手の入れ替えによってシステムに変化をつけるケースもあるだろう。

 そのためには、バックアッパーの試合勘を呼び覚ましておかなければならない。5月中旬までJリーグを戦ってきた国内組も、気が付けば2週間以上も実戦から遠ざかっている。このままW杯を迎えたら、ゲーム勘やゲーム体力への不安が拭えない。「色々な状況に対応する」ためにも、スタメンの大幅な入れ替えは必要だったのだ。
果たして、興味深い化学反応が起こった。

 コンディションが整っていないために前2試合でスタメンから外れていた岡崎慎司、香川真司、乾貴士の3人は、コロンビア戦で先発に食い込んでもおかしくない。パラグアイ戦で岡崎が見せた守備の献身性は、チーム全体のディフェンスを安定させていた。トップ下のポジションで岡崎と呼吸を揃えた香川も、守備面でのハードワークが光っていた。

 2列目の左サイドで起用された乾も、彼ら2人に連動して前線からの守備を機能させた。2列目右サイドの武藤嘉紀も同様だ。

 チーム全体として守備を整理したことで、彼らが迷いなく動けたとも言える。ガーナ戦やスイス戦を受けて修正がはかられた、ということだ。

 パラグアイは南米予選で敗退しており、ロシアW杯には出場できない。試合に寄せる熱量が高かったとも言い難いが、それでも4対2の勝利は意味がある。3試合連続で先制点を許し、不要な反則をきっかけにミドルシュートを叩き込まれたのは反省材料だが、負の流れを断ち切ったのは確かだ。

 パラグアイ戦を受けて、西野監督はより多くの選択肢を持つことができた。序列が明確になっていないポジションは依然としてあるものの、消去法に基づいた決断を迫られることはなさそうだ。もちろんそれが、コロンビア戦の勝利を保証するわけではないのだが。