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「峠をこえたところで、気温は30度をこえた」という文章の中にある二つの『こえる』。「超える」と「越える」、どちらを使うのが正しいと思いますか? 本稿では、使い分けに迷う同音異義語「超える」と「越える」の違いについて解説します。

○■「超」と「越」が持つ意味

漢字というものは、その一字一字が意味を持っています。「超」と「越」について調べたところ、それぞれ以下のような意味を持っていることがわかりました。

「超」

ある一定の基準・数量・範囲を抜け出る。「超越・超過」

程度が特に極端なものである。「超満員」「超高層ビル」

「越」

ある地点・時の境をこえる。「越境・越冬」

物事の範囲・程度をこえる。「卓越・優越」

○■「超える」と「越える」の違い

「超」と「越」という漢字が持つ意味を見ると、かなり類似していることが分かります。ゆえに、言葉の専門家でもある放送現場でも、両者の使い分けに迷うことが多いと言います。それでも両者には、二つも違いがあるのです。

一つは、「超」は基準や数量を、「越」は地点や時をこえるという違いです。NHK放送文化研究所では、「超える」と「越える」を使い分ける基準について、「超」は「ある一定の数量・基準・限度などを上回る」場合に、「越」は「場所・時間・点などを過ぎて向こうへ行く」場合に用いるものとしています。

二つ目の違いは、どこに向かってこえるかにあります。「超」は「上回る・上を行く」のに対し、「越」は「向こう側やその先へ行く」ことに対して用いる言葉です。矢印で表すと、「超」は ↑ 、「越」は → というイメージになるでしょう。

両者の違いを踏まえると、冒頭の「峠をこえたところで、気温は30度をこえた」は、「峠を越えたところで、気温は30度を超えた」が正解になりますね。

○■「超える」の使い方と例文

ある一定の数量・基準・限度などを上回る( ↑ )場合に用いる。

・このプロジェクトには、5,000万円を超える資金を投下しています。

・今建設中のビルは、この街で一番高いビルを超える予定です。

・あと50人ほどで、定員を超えてしまいます。

・先月の残業が、100時間を超えてしまった。

「時間」なので「越える」の方が正しいように思えますが、残業時間を「ある範囲」と捉えると「超える」が正解です。ある一定の時間をオーバー(超過)していると考えると分かりやすいでしょう。

・今どきの新入社員のやる事は、私の理解を超えていて手に負えない。

・この製品の出来栄えは、想像をはるかに超えていた。

形では表せない「想像」や「理解」といったものに対しても「超える」を使います。

「超える」を用いた文章では、いずれも、「上回る」や「上を行く」という言葉に置き換えても不自然ではありません。

○■「越える」の使い方と例文

場所・時間・点などを過ぎて向こうへ行く( → )場合に用いる。

・この苦境を乗り越えれば、チームは更に強くなるだろう。

・部門間の垣根を越えて、このプロジェクトを成功させましょう。

・長年北海道にいたが、本州を越えて福岡に移動になった。

・その決断は、部長の権限を越えています。

「権限」は、場所や時間に関係のない言葉ですが、「越権行為」という言葉があることから、「越える」を用いるのが正解です。

「超える」と「越える」の違いについてお話ししましたが、まだまだ迷うケースもあると思います。どちらが正しいのか迷った時は、「越冬」「引っ越し」「超過」「超人」というように、熟語などから判断するのも一つの手かもしれませんね。誤った使い方で指摘されないよう、両者の違いをしっかりと押さえておきましょう。

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