6月5日、SUBARU(スバル)は会見を開き、完成検査時における新たな不正について発表した。吉永泰之社長(左)は、これまでの内部調査で把握できなかったことを「無念」と表現した(記者撮影)

いつになったら不正問題は収束するのだろうか。

自動車の出荷時に行う完成検査の際、燃費や排出ガスの測定で改ざんを行っていたSUBARU(スバル)。同社は6月5日夕方会見を開き、新たな不正が行われていたことが分かったと発表した。


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具体的には、群馬製作所(群馬県太田市)で新車の燃費と排ガスを抜き打ちで検査する際、法律で定めた速度を逸脱したのに、検査をやり直さずに有効なデータとして処理していた。また、試験をする部屋の湿度が基準から外れていたにもかかわらず、有効としたものもあった。2012年12月から5年間行われた抜き打ち検査6530件で、本来ならば再検査の必要があったデータが927件あることが判明した。

判明していない不正の動機

「本来は1件もあってはいけないんです、1件も。927件というのは、信じられない数値です」

会見で、品質保証担当の大崎篤常務執行役員は語気を強めた。再検査が必要な場合は、「ピーッ」という大きな音がするというが、それを無視してまでデータを取り込んだ検査員がいたということだ。動機について、スバル側は「これから調査を行うところで、まだわからない」とした。再検査の煩わしさだったのか、上司からのプレッシャーがあったのか。

いずれにせよ、ルールを守ることの教育を現場に徹底できていなかったことは、安全を謳う自動車メーカーにとっては致命的な状況だ。12月の再発防止策提出後は、新たな設備を導入し、指定の条件下以外で行われた検査結果は取り込めないように改善をしているという。


スバルの群馬製作所。完成検査の無資格検査問題に端を発し、不正が次々に明らかになっている(編集部撮影)

不正に関する同社の会見はこれで4回目だ。最初は2017年10月だった。群馬製作所で完成検査に無資格の検査員が従事していたことが発覚。日産自動車の完成検査問題を受けた社内調査が発端だった。調査の結果、正規の完成検査員のハンコを使い回す「代行押印」が1980年代には始まっていた可能性があることが明らかになる。完成検査員の資格取得時の社内試験で事前に答えを教えるといったずさんな運用も問題になった。

2017年12月に国土交通省に報告書が提出されて収束したかに見えたが、その直後、完成検査時の燃費・排ガスデータ測定において、データの改ざんが行われていた疑いが浮上した。2017年度末には決着をつけると言っていた社内調査は難航し、今年4月27日にようやく国交省に最終報告書が提出されたばかりだった。

社内調査では判明しなかった不正

しかし、6月5日、国交省による抜き打ち監査(5月14〜16日)では、社内調査で判明した事案以外の状況でも、不適切なデータを取り込んでいたことが明らかになった。

石井啓一国土交通相は、「4カ月も社内調査をしていたにもかかわらず新たなデータ書き換えが判明するということは、スバルの全容解明にかかわる姿勢に疑問を持たざるを得ない」とコメント。スバルに対し、徹底的な調査を行い、今後1カ月をメドに報告するように求めた。スバルは今後、不正の実態や原因について再調査を行う。

最初の不正発覚からすでに7カ月。スバルは再発防止策を発表し、企業風土改革に取り組んでいるはずだが、五月雨式に問題が発覚している。

「社内調査で数多の弁護士が(検査に携わる社員に)何度もヒアリングしても答えなかったのに、国交省にはこういうことがあった、と答えている。私としては非常に無念だ」。そう述べた吉永泰之社長の顔はこれまで以上に暗かった。吉永社長はこれまでの会見でも繰り返し「ちゃんとした会社にしたい。古い体質の会社から脱却し、社内の風土改革から進めていきたい」と述べ、新たに「正しい会社推進室」「コンプライアンス室」を創設し、自らが旗を振ると宣言してきた。

にもかかわらず、国交省の調査には不正を告発し、社内調査の弁護士には沈黙を続けた一部の社員がいるということは、彼らにそのメッセージがまるで届いていないことの証左だろう。吉永社長は「次にまた何かが出てこないかは自信がない」と吐露さえもした。経営層の思いに反するような形での不正発覚は、現場のトップに対する信頼の低さに加え、トップが現場を掌握できていない事態であることを物語っている。

経営と現場の溝をどう埋めるか

吉永社長は3月に発表された人事で、6月の株主総会後に代表取締役会長兼CEOに退く予定だったが、5日の会見に合わせて、CEOを退任し、代表権を返上することも発表した。CEOは新社長に就任する中村知美専務執行役員が務めることになる。


CEOを退任し、代表権を返上することになったスバルの吉永社長。不退転の覚悟で企業風土改革に取り組むが、そのハードルは決して低くない(記者撮影)

吉永社長は、5月の決算発表の場で、CEOにとどまることについて「CEOをやめることで、問題から逃げていると思われたくなかった」と語っていた。「(何度も不正を出していることで)信用できないと言われても仕方がない状況なので」(吉永社長)、今回方針を変えたという。完成検査不正を発端とした一連の問題、そして社内の風土改革についての業務に専念することになる。

5月の会見では「まだ仮称だが、『一歩踏み出せ運動』というのをやろうと思っている。疑問や不満を下からも積極的に話して、社内のコミュニケーションを促そうとしている」とも話していた吉永社長。しかし、こういった性善説に基づいた施策では実際に現場をグリップすることの難しさが今回浮き彫りになった。

7月には中村新社長のもと、新しい中期経営計画を発表する。それまでに実施される再度の社内調査では、今度こそウミを出し切らなければいけない。一度、多少厳しい方法を使ってでも経営層と現場との意識統合を、強い意志を持って進めていかなければ、また同じ失敗を繰り返すことになってしまう。