【コラム】モットーは「地道にコツコツと」…西野ジャパンの“キーマン”大島僚太の歩み

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「攻撃的なところで大島(僚太)は展開力とプレーメークに関して外せないキープレーヤーだった」

 5月30日のキリンチャレンジカップ2018・ガーナ戦で初采配を振るった日本代表の西野朗監督は試合後、背番号18を着ける小柄なテクニシャンを高く評価した。この日の大島は3−4−2−1の新布陣の中で、山口蛍(セレッソ大阪)とダブルボランチを形成。持ち前の縦の意識を強く押し出し、スピーディーな攻めの起点になった。

 宇佐美貴史(デュッセルドルフ)が思い切りのいいシュートを放った18分の得点機、原口元気(デュッセルドルフ)が右サイドを駆け上がり折り返したところに大迫勇也(ケルン)が飛び込みヘッドを放った26分の決定機などは、いずれも大島のパス出しから作られたチャンスだった。一方、代表入りしてから意識してきたデュエルの部分でもタフさを発揮。屈強なガーナ人選手と対峙しても負けないところを示していた。

 後半には柴崎岳(ヘタフェ)と並び、「ダブル司令塔」として攻めのスイッチを入れたが、前線のアタッカー陣は不発に終わった。結局、日本は0−2で敗戦。新体制初陣を白星で飾ることはできなかった。「出た自分としては勝たないといけなかった。追いつくことができなかったので残念に思いました」と大島自身も悔しさをにじませたが、新指揮官に必要不可欠な存在であることを認めさせる絶好の機会となった。

 大島の国際Aマッチはこれが4試合目。ようやく90分フル出場を果たすことができたが、ここまでの道のりは苦難の連続だった。代表デビュー戦となった2016年9月のアジア最終予選第1戦・UAE戦で2失点に絡む致命的ミスを犯したところから始まり、昨年12月のE-1選手権の中国戦、今年3月のマリ戦と立て続けに負傷交代。ロシア行きは難しいと見られていた。それでも、このガーナ戦で西野監督の信頼をガッチリと掴んだことで、31日に発表された最終登録メンバー滑り込みを果たした。

「地道にコツコツと進んでいく」という生き様は育成年代の時から変わらない。日本一のサッカーどころ・清水出身の大島は中学から名門・静岡学園に進んだが、当時は全くの無名で目立たない存在だったという。静学の井田勝通前監督も「中学に入ってきた頃の大島は大人しくて、まともに人の目を見て喋れないような子供だった。ただ、真面目でコツコツとリフティングやフェイントの練習を繰り返す選手で、意欲的にテクニックを磨くことで少しずつレベルアップしていった」と述懐している。

 高校時代もプロからは注目されなかったが、高校3年生だった2010年秋の高円宮杯全日本ユース選手権(U−18)で4強入りし、初めて川崎フロンターレのスカウトの目に留まる。川崎でも中村憲剛ら偉大な先輩たちの壁に阻まれると思われたが、風間八宏監督(現名古屋グランパス)に高い技術と戦術眼を認められ、試合に出るようになり、人生が大きく変化した。エリートとは無縁のキャリアを歩んできたからこそ、辛抱強く自己研鑽に取り組める。そこは大島僚太の大きな武器だ。

 川崎で背番号10を着けるようになった2016年あたりからメンタル的にも変化が見られるようになってきた。ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督は「大島は喋らない」と再三再四、苦言を呈していたが、今回の直前合宿地・ゼーフェルトでの初練習となった6月2日夜の30分間のランニング中には、長友佑都(インテル)らと積極的にコミュニケーションを取る彼の姿があった。メディアに対しても数年前まではほとんど話をしなかったが、今はにこやかに質問に答えてくれる。25歳になり、人としても円熟味を増した今、迎える2018 FIFAワールドカップ ロシアは、彼にとってベストタイミングと言っていいだろう。

 浅野拓磨(シュツットガルト)、井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ)、三竿健斗(鹿島アントラーズ)という2016年リオ・デ・ジャネイロ五輪世代のメンバーが揃って落選した分、生き残り組の大島に託される責任は重い。ロシアのピッチに立ち、仲間たちの悔しさを晴らさなければならない。そのためにも、本番までの最高のコンディションに引き上げることを考えるべきだ。チームは3日からゼーフェルトで合宿を本格的に始動させ、8日のスイス戦、12日のパラグアイ戦を経て、13日にベースキャンプ地・カザン入りすることになっているが、大島にとって目下の最重要テーマはケガを回避すること。万が一、E-1選手権の中国戦やマリ戦の二の舞になってしまったら、西野監督のプランも大きく崩れかねない。そのくらいのキーマンであることを彼には強く自覚してもらいたい。

 静学の先輩・カズ(三浦知良)でさえも叶わなかったワールドカップ戦士としての偉大な歴史を刻むべく、大島僚太には持てる力の全てを出し切れる状態を確実に作り上げてほしいものである。

文=元川悦子