罰金は認められるのでしょうか?(写真:suntaka/PIXTA)

「1分でも遅刻をしたら、3000円の罰金を給与から天引きする」、そんなルールがあなたの会社にあったら、どうしますか? 遅刻をさせないために、罰金制度を設けている企業もあるようですが、こうした社内ルールは、果たして認められるのでしょうか。

罰金が問題となる理由

そもそも、労働条件とは、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきもの(労働基準法第2条1項)とされ、一方的に労働者へ不利益を与える罰金制度を設けることはできません。


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法律では、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」(労働基準法第16条)と定めています。「遅刻で罰金」というのは、この規定に抵触するもので、金額の如何にかかわらず、認められません。これに違反すると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金もあります(同法第119条1号)。

また、罰金を給与から天引きする、というのも問題といえます。賃金は、税金や社会保険料等の法定控除や労使協定によって定められたもの以外を差し引くことはできず、その全額を支払うことが定められているからです(労働基準法第24条1項)。これは労働者の意思の如何にかかわらず、賃金が現実に労働者に対して支払われることを確保することを目的としています。

もっとも、本来働くべき所定労働時間に労務を提供せず、その時間分の給与を差し引く取り扱いについては、「ノーワーク・ノーペイの原則」から認められています。完全月給制の従業員を除き、就業規則において、遅刻や早退、欠勤があったときに、その不就労時間分の給与を控除する規定は一般的に見られるものです。

減給の制裁として行われる場合

しかし、なぜ遅刻によるペナルティが珍しくないのでしょうか。これは、懲戒処分のひとつである「減給の制裁」として行っているケースが考えられます。就業規則では、従業員が守るべきワークルールとして服務規律を設け、遅刻や無断欠勤などを禁じていますが、それらの規定に背いて秩序を乱す場合に懲戒処分を行う場合があります。

就業規則で、減給の制裁を定める場合においては、その減給は1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない(労働基準法第91条)としています。ここでいう平均賃金とは、算定事由発生日以前3カ月に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいいます。

なお、制裁を行う場合は、その種類や程度に関する事項について、あらかじめ就業規則に定めておかなければなりません。

行政通達では、「遅刻・早退の時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされ、法第91条に定める減給の制裁に関する規定の適用を受ける」(昭和63.3.14 基発150号)と解されています。つまり、本来の遅刻が仮に20分であるにもかかわらず、30分に相当する減給をした場合、そのうち10分は減給の制裁としての適用を受けるものと解されます。

それでは、減給の制裁に該当するような違反行為を複数回行った場合はどうなるでしょう?1日分の平均賃金が10000円、賃金総額が300000円のケースで考えてみます。

この場合、1事案については5000円(10000円×1/2)以内となり、一賃金支払期における総額は30000円(300000円×1/10)までが限度となります。

仮に、1カ月で違反行為を7回行った場合、35000円(5000円×7)以内となりますが、一賃金支払期における総額の10分の1を超えてはならないことを考えると、30000円が上限となります。そうなると、5000円分はどうなるか、という疑問が残りますが、これは免除されるという意味ではありません。法律で制限がかかっているのは、生活において支障がでることを避けるためであり、翌月に繰り越して減給の制裁を行うことは可能といえます。

なお、一賃金支払期に支払われるべき賃金が、遅刻や欠勤で減額されているときは、減額後の賃金総額を基礎として計算します。欠勤控除ですでに基本給から3万円差し引かれている場合、一賃金支払期における減給の総額は27000円までが限度となりますので、ご注意ください。

サービス業などでお客様相手の仕事の場合など、「遅刻は絶対に許されない職場」も少なからずあるでしょう。勤怠の取り扱いについては、職場ごとに温度差があります。遅刻に限らず、減給の制裁を受けることのないよう働きたいものですね。