iOS 12」を紹介するティム・クックCEO(筆者撮影)

アップルはカリフォルニア州サンノゼで、米国時間6月4〜8日に世界開発者会議「WWDC 2018」を開催する。


有料メルマガ「松村太郎のシリコンバレー深層リポート」でもWWDC 2018の詳細なリポートをお届けします。購読申し込みなどの詳細はこちら

初日の基調講演会場には世界77カ国の開発者が集まり、中には学生スカラーシップで招待された若者も含まれていた。今回の基調講演では新製品の発表はなく、ソフトウェアを中心とした本来のWWDCらしい発表となった。

今回の目玉は、秋にリリースが予定されているiPhone・iPad向けの最新OS「iOS 12」だ。現在iOS 11を利用しているユーザーは、この新OSがリリースされれば、無料でアップグレードできる。

iOS 12には数々の新機能が用意されているが、おそらく多くのユーザーにとって最もうれしいことは、その動作の高速化だろう。iOS 12はiPhone 5s以降のデバイスで動作する。

アプリの起動は40%、カメラ起動は70%高速化する

これまで多くのユーザーが経験しているように、古いiPhoneと最新モデルで比較すると、その速度の低下にガッカリし、ストレスを感じてきた。

そうした不満を解消するため、iOS 12では、iPhone 6sで比較すると、アプリの起動は40%、キーボードの表示が50%、カメラ起動が70%高速化されるという。さらに共有ファイルの表示が2倍、アプリ起動も2倍に高速化され、今までの遅いiPhoneが見違えるようになることが予測できる。

ソフトウェアの動作の高速化は多くのユーザーにとってメリットが大きい。しかし、アップルが取り組んだ高速化はもっと別のアプローチが存在していた。


さまざまなアプリがSiriと連携し、必要な情報を提供してくれるようになる(筆者撮影)

iOS 12で目玉となる新機能の1つに「Shortcuts」(ショートカット)がある。この機能名は以前からコンピュータの世界で、アプリや作業にすぐにアクセスする手段として知られてきたものだ。

今回iOS 12にも、そうした機能が追加される事を意味する。ただし、そのショートカットを司るのは、デジタルアシスタントの「Siri」である。


アプリには「Siriに追加」ボタンが用意され、自分の声を吹き込んでその機能や情報を呼び出せるようにする(筆者撮影)

Siriにはこれまで、アップル純正アプリや天気などの一般的な質問に加え、Uberなどのライドシェア、個人間送金、写真検索、ナビゲーション、ワークアウトといった限られたカテゴリーのアプリのみが対応していた。

iOS 12ではSiriと連携できるアプリが広がり、またアプリの各機能や特定の動作を直接声で呼び出せるようになった。

たとえば旅行アプリで、次の出張の予定を表示させている際、次の旅行を呼び出すためのフレーズをSiriに話しかけるだけで、その情報をすぐに表示してくれる。フレーズは何でも良く、「ロスアンゼルス出張」でも「旅行」でもよい。


Siriに機能を呼び出すフレーズは、自分の言葉で吹き込む(筆者撮影)

あるいは、食料品の宅配サービスで必要なものをリストアップし、これに「買い物」とフレーズを付けておけば、アプリからオーダーされ、ほどなくすれば品物が手元に届くように設定できる。

また、キーホルダーなどに付けておくBluetoothタグのTileには、それぞれのタグに名前を付け、それをなくしたとSiriに言えば、自動的にタグから音を発することができる。

複数の動作もSiriにお任せ

デモで最も面白かったのは、複数の動作を1度のSiriへの指示でこなせる点だ。

たとえば自宅に帰るクルマの中でアプリでラジオを聞く習慣があれば、「自宅に帰る」という指示に連動させて、現在位置からのナビゲーションと、ラジオアプリの再生もできる。

今までであれば、ナビアプリを立ち上げて経路検索をし、ラジオアプリを立ち上げて再生を開始する、という2つの動作をタップで行わなければならなかった。これを「一声」で済ませられる点は、毎日の利用を考えると大きな効率化といえるだろう。


複数のアプリの動作を組み合わせることもできる。ビーチの天気、移動時間、日焼け止めのリマインドを1回の指示で実現した(筆者撮影)

ところで、アップルは2017年3月に「Workflow」というアプリを買収している。

Workflowは、アプリの特定の動作や複数のアプリを組み合わせた動作を自分で作り、簡単に呼び出すことができる仕組みを提供していた。買収後アップルはSiriと結びつけ、声でショートカットを呼び出せるようにした。
Workflowアプリ時代から、特定の作業あるいは複数のアプリを組み合わせた作業が共有されており、自分でゼロから組み立てなくても利用する事ができた。iOS 12に新たに登場するShortcutsアプリでも、ショートカットのカタログが用意されるため、すぐに利用し始めたり、自分でちょっとアレンジを加えることができる。

前述のようにアプリの特定の情報を声で呼び出すショートカットを追加できるだけでなく、Siriが特定の操作をおすすめしてくれる機能も備わる。
たとえばコーヒーショップでお気に入りのドリンクをあらかじめオーダーし、並ばず受け取れるようにしたり、その場所にいる間はおやすみモードをONにして通知を受け取らないようにすることもできる。

iPhoneを自分色に染める?

ショートカットのための声のコマンドは、同じ機能であっても、人によって異なるフレーズになるかもしれない。前述の家に帰りながら音楽を聞く場合、「自宅」と言う人もいれば、「帰宅」と言う人もいる。それは使う人次第で、必ずしも正解が用意されているわけではない。

また、どんな役割を果たしてくれるのかについても、使う人がどれだけShortcutsアプリで設定したか次第だ。つまり、同じiOS 12が入っているiPhoneで同じアプリをインストールしていても、呼びかけへの反応やそのスマートさは異なる、というわけだ。


Shortcutsアプリにはギャラリーが用意されており、すぐに必要な動作を設定できる。また、iPhoneで設定すれば、iPadやApple Watch、ホームスピーカーのHomePod でも利用できるようになる(筆者撮影)

ユーザーからすればそれだけ自由度が高まり、自分らしいiPhoneやSiriに育てることができるようになる。一方、そうした機能を使わない人も、日々の利用の中で、Siriのおすすめによってメリットを享受できるようになる。

操作手順の減少もまた、スマートフォンを利用する上での「高速化」といえるだろう。

一方、Siriはアプリの情報や機能を引き出す際、英語では「Tile says…」「Kayak says…」と、「アプリが言うには」としゃべり始める。アプリもSiriを介してユーザーと対話し始めることを意味しており、人とテクノロジーの関係性に、ユニークな変化を与えていきそうだ。