「脱皮缶」と「拡散」が浮かび上がって見える新聞広告

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 蚊取り線香などでおなじみの「KINCHO」こと大日本除虫菊(大阪市)が、5月25日付の日本経済新聞朝刊に掲載した広告が話題になっています。「賢明な日本経済新聞の読者のみなさま」と持ち上げつつ、「買うまでが、広告です」「拡散するまでが、広告です」と呼び掛ける内容で、SNS上には「おもろいけど、何か押し付けがましくない?」「ここまで押されるとすがすがしい」と賛否両論が。同社の担当者に話を聞きました。

カギは「面白い」「参加」

 話題になっているのは「ゴキブリがうごかなくなるスプレー」の広告です。「ゴキブリの絵を見るのも名前を聞くのもイヤ」という声が多い中で、そのニーズに答えるべく、商品の包装フィルムをはがすとシンプルなデザインに変わる「脱皮缶」をKINCHOが開発。その認知度を上げるために掲載しました。

 広告では「読者の役割とは」と問いかけ、商品購入と広告の拡散を直接的に訴えています。斜め45度ぐらいの角度で広告を見下ろすと、「脱皮缶」の写真と「拡散」という文字が浮かび上がって見える仕掛けもあり、最下段には小さな文字で「今回に限り、買ったように見えるサービスを用意しました」と、「買わなくてもいいから拡散を」とも受け取れるメッセージまで忍ばせています。

 2017年には「超難解折り紙」と題し、何ができるか知らずに新聞紙を説明通りに折っていくとゴキブリができ上がってしまう広告、2016年には、紙面上の無数の蚊に振られた数字をつなぐと「買って」「ひま?」といったメッセージが浮かび上がる新聞広告も作ったKINCHO。宣伝部の担当者に狙いを聞きました。

Q.今回の新聞広告で、立体的に見える仕掛けをした理由は。

担当者「最初は『ゴキブリがうごかなくなるスプレー』を買ってもらい、それを新聞広告の上に置いて撮影してもらおう、というアイデアでした。しかし、『もっと誰もがすぐに参加できるアイデアはないか』と再検討し、平面の広告をスマホで撮ったら飛び出して見える仕組みを考えました。これが思いのほか楽しかったのです。飛び出すだけで『あ!出てる出てる!』と盛り上がるものだと感動し、採用しました」

Q.「買うまでが、広告です」に込めた思いは。

担当者「広告の最終的な目的は商品を買ってもらうこと。今回は、これをあえて身もふたもなくストレートにメッセージとすることにしました。小学生の頃、誰もが耳にしたであろう先生の名言『家に帰るまでが遠足です』をヒントに、まことしやかな面持ちで、図々しいことを直球で言う。『厚かましくも知的なユーモア』を狙ったつもりです(笑)」

Q.「拡散するまでが、広告です」の狙いは。

担当者「単に拡散を促す目的だけでなく、『世の中、拡散第一主義になってますよね』という、自戒を込めた自虐コピーでもあります。もっと見た人の心に直接刺さりたい、新聞広告を見て『これ面白いな』と思ってもらいたい、せっかく広告を通してKINCHOと接してもらえたなら、少しでもその時間を楽しんでもらいたい、という思いがあります」

Q.反響はいかがですか。

担当者「『拡散してほしい』臭がすると逆に拡散したくない、という潮流も理解の上でしたが、結果としてはこの一方的な意見広告を理解してもらい、多くの人に拡散してもらえました。非常にうれしく思います」

Q.ユニークな新聞広告が続いていますが、心掛けていることは。

担当者「無視されない、スルーされない広告を常に考えの原点に置き、読み飛ばされてしまわないように、何かしらのサービスを考えています。その結果、少し手を止めてできるだけ長い時間、広告を通して『KINCHO』と接していただけるようにと思っています。書ける、折れる、切り抜ける…という紙の新聞広告ならではの特性を生かすことも考えており、『やられた!』『面白かった!』と楽しんでくれたり、誰かに言いたくなったりするような広告を目指しています」