うまく処理できない感情が、絶対的弱者に向けられる(撮影:今井康一)

「まじめな普通の子だった」「物静かで問題を起こすようには見えなかった」

新潟市内に住む小学2年生の女児、大桃珠生ちゃん(7)が殺害された事件に関して、小林遼容疑者(23)を知る近所に住む人が語ったコメントだ。

新潟県新潟市のJR越後線の線路に遺体を放置し、列車にひかせるという残虐な行為。事件から1週間後、市内の電気工事会社に勤務する会社員、小林容疑者が死体遺棄、死体損壊容疑で逮捕された。

報道にあるとおり、小林容疑者は、珠生ちゃんの家から100メートルほどしか離れていない同じ町内に住んでいた。「物静かで目立たない」「普通の子だった」という評判の男がなぜ、あのような残虐な凶行に及んだのだろうか。

筆者はこれまで多くの少年犯罪を取材してきた。近著『となりの少年少女A』では、1997年に起こった神戸児童連続殺傷事件の酒鬼薔薇聖斗、いわゆる「少年A」の事件をはじめ、世間を震撼させた凶悪な少年事件を取り上げたが、いくつか今回の事件との共通点を感じた部分がある。

小林容疑者は23歳で、20歳未満の犯罪を指す少年犯罪の年齢を過ぎている。ただ成人後数年であり、自宅で家族と住んでいるなど条件には近いものがあり、過去の少年犯罪と比較する意味はあると考えた。

現時点では事件の真相はまだ明らかにされていない部分が多いが、この記事では、過去の凶悪犯罪を振り返りながら、今回の事件について考えてみたい。

加害者に共通する8つの特徴

近年の青少年による動機が不可解な凶悪犯罪事件を比較してみると、加害者に以下の8つの共通の特徴があると考えられる。まずは、本人の特徴だ。

1、周囲から「真面目な子」と見られていた点

小林容疑者に関しては近所に風評を聞いても悪いうわさは出てこない。いわゆる昔ながらの「札付きの不良」ではない。これは「少年A」以来の動機が不可解とされる数々の凶悪少年事件と一緒だ。小林容疑者は、近所の人にもあいさつをする礼儀正しい青年だったという。要するに「まさか、あの子が」という人物が加害者だったのである。周りの評判と反比例する残虐な犯行内容にはあまりにも大きな乖離がある。そういった傾向が青少年の加害者像の現実なのである。

2、 対人コミュニケーションが困難であった点

「あまり社交的なタイプではなかった」と中学時代の同級生の女性。女性とはあまりうまくコミュニケーションを取れずにいた小林容疑者。また、中学に入って友だちとの交流が少なくなり、陰では、「キモい」と言われていたという。

報道によると中学入学後、同級生とはまったく遊ばなくなり、代わりに近所の年下の子どもたちと遊ぶことが多くなったという。同級生の話では、外見は普通に見えるが、社会性がなく、コミュニケーションが取れなかったとのことだ。事件の1カ月前に女子中学生をターゲットにしたわいせつ行為で失敗したため、さらに弱者である小学生を狙ったとみられている。

会社では普通にコミュニケーションを取れていたという話だが、決まったルールのある集団や組織の中では対応できたかもしれないが、臨機応変な対応を求められるプライベートな生活では異性や仲間とのコミュニケーションが難しいというのも、これまでの少年事件の加害者と類似している。

多くの凶悪少年事件では、思春期以降に仲間集団や異性への関心が高まったものの、対人コミュニケーションが難しく、相手の気持ちを理解し、自分の気持ちを伝えたりすることがうまくいかずに接近方法を誤って不適応を起こしてしまうケースがほとんどだった。

2005年に宇治市の学習塾で小6女児を殺害した塾講師(当時23)、1997年の少年Aの酒鬼薔薇聖斗(当時14)などの例がある。

自分より確実に弱い、抵抗できない相手を選ぶ

3、身近な社会的弱者をターゲットにする点

これまでの未成年が犠牲となった青少年による重大事件では、家の近くに住む人物をターゲットにするケースがほとんどだ。殺害にあたっては、相手に対して憎しみなどの感情があるわけではなく、「対人関係上の不適応」や、「対人不適応に基づく被害者感」が根底にあるケースが多い。

他者に対する共感性がなく、人と接するのが苦手だった場合、コミュニケーションを取ろうとする相手はすべて自分より弱いものになっていく。小学校低学年の女児などは力も弱く、抵抗できないために犠牲になってしまうのだ。

また加害者が少年の場合では、力になろうとして身近に近寄ってきてくれた大人や、心配してくれている親友に対して犯罪を実行するケースも多い。これまでの凶悪な少年事件の被害者をみてみると、自分より年齢が低い児童、宗教の勧誘で知り合った老女、仲がよかったクラスメート、親などである。

4、刺激的な映像などに影響を受けている点

小林容疑者の友人によると、彼はかわいい女の子キャラクターが好きで、それ以外にもゲームやアニメの話をよくしていたというが、そのアニメも有名な作品ではなく、かなりマニアックなものだったという。実在している女性ではなく、萌えキャラだったので、友人たちの間では、小林容疑者はロリコンだと思われていた。彼が関心を示したのは「2次元の女子」で、リアルな女子に関心は示さなかったため、学校では同級生の女子生徒が小林容疑者を相手にすることもなかったという。

過去の少年事件でも、ゲームやテレビ、アニメ、インターネットなどで目にした「刺激的画像」に誘導された行為が出現することがあり、犯罪の手口などはそういったものからの模倣が多いのだ。

5、事件に対して反省の態度が見えない点

少年事件の場合、逮捕映像はテレビ報道などで流れることはないが、成人の加害者の逮捕映像を見ていると、顔を隠す例もあるが表情を変えずに淡々としており、それどころか薄ら笑いを浮かべているといった映像を目にする。

今回の小林容疑者も逮捕時の映像は悪びれた様子もなく、薄ら笑いを浮かべ、その後もまったく表情を変えていなかったことに怒りとともに戦慄を覚えた人も多かっただろう。取り調べの際も「なぜそうしたかわからない」「そうするほかなかった」「自分は悪くない」などと主張し、重大事件を起こしたことへの反省の気持ちが一向に見えないケースがほとんどなのである。小林容疑者も取り調べに淡々と応じているが、いまのところ反省の言葉はないという。

被害者感情を逆なでする手記を発表した少年Aや、2014年に名古屋大学に通う女子大生(当時19)が、宗教の勧誘で知り合った老女を殺害して自宅アパートに遺体を1カ月以上放置していた事件も同様だ。彼女は裁判において、今でも人を殺したくなる衝動が消えないと証言していた。

第三者からは理解しにくい、事件後の短絡的な行動

6、 事件後の行動が「頭隠して尻隠さず」であった点

青少年の起こした殺人事件では、第三者からみたら首を傾げるような特異なことでも、本人は一貫したロジックを持っているケースが多い。今回の事件では、犯罪発覚を恐れていながらも、犯罪が発覚しやすい痕跡を残していた。殺害した後の遺体を自宅から近い場所、しかも線路内に置くという特異で短絡的な行動を取っている。イギリス人英語講師のリンゼイさん殺害事件の市橋達也受刑者のように、追い詰められて日本国内を逃げ回っていたケースもあるが、小林容疑者は事件後も逃走することなく、逮捕までの1週間は、必ず自宅に戻っていたことがわかっている。

ここまで、本人に関する特徴を述べた。次に、事件に関する共通点だ。

7、殺人にまで至る大きな事件の直前に、重要なシグナルがあった点

事件の前、小林容疑者は山形県内に住む14歳の女子中学生にわいせつな行為をしていた。そして、この女子中学生を新潟県上越市内で連れ回したとして、4月に新潟県警上越警察署が、新潟県青少年健全育成条例と児童ポルノ禁止法違反の疑いで小林容疑者を書類送検していたことも判明した。

問題なのは、勤めている会社をはじめ、加害者の周囲にいる人たちがその事実を知らなかったことである。

小動物を何匹も切り刻んでいた少年A、教え子の女子生徒にストーカー行為を繰り返していた塾講師など、凶悪事件の実行前には、表ざたにならない未遂事件を起こしているケースが少なくない。

そうした行動の結果が予想したものと違ったり、未遂に終わった場合は不満を感じ、こだわりがさらにエスカレートしていってしまう傾向がある。そして「何がなんでも完遂しなければ」という強いこだわりに変わり、抑制が効かず、感情が抑えきれなくなって大きな悲劇が起こっている。

8、家族がシグナルを察知していても行動に移せなかった点


家族の一員、ましてや子どもが事件を起こしてしまった場合、親としてはできるかぎり外に情報が漏れないように、隠そうとする意志が働くケースは少なくない。もし、それが明らかになれば、地域社会では生活しづらくなってしまうからだ。過去の少年事件では、親が地元で名のある人物であったことで、シグナルとなった未遂事件をもみ消してしまい、残念ながらその後に悲劇的な事件につながってしまった例もある。

2005年に実の母親にタリウムを混入して飲ませた様子を観察していたという「静岡タリウム殺害事件」も、家族は、犯人は自分の娘(当時16)ではないかという疑念を抱いていたのだが、まさか、ということでその疑念を否定してしまっていた。

強固に働く正常性バイアス

残念なことに今回の事件でも、子どもを疑う様子は見受けられなかったようだ。事件発生当時、小林容疑者の親は近所の人に「早く捕まればいい」と言っていたことが明らかになっている。自分の子どもを信じたいという思いが強く、世間体や風評を気にするあまり、シグナルに気づいていても早期に対応するという行動を取りにくかった側面もあったのかもしれない。

以上、これまでの青少年による凶悪犯罪事件にみる共通点を挙げた。凶悪な少年犯罪を起こす加害者の特徴、また、重大な事件を引き起こすまでの経緯上の問題点について認知と理解が進むことを願う。

経緯については、小林容疑者が直近で女子中学生を連れ回した件で逮捕されていれば、悲劇は起こらなかったのではないかという指摘は少なくない。事件1カ月前の犯罪で、なぜ身柄拘束ではなく書類送検だったのだろうか。警察は理由を公にするべきではないか。

二度とこういった痛ましい事件が起こらないためにも、一刻も早い真相の究明と、今後の再発防止のためのシステムの構築が望まれる。