代表合宿でも軽快な動きを見せる井手口。果たしてガーナ戦では、どんなパフォーマンスを見せるだろうか。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 今年1月にリーズ・ユナイテッドへの完全移籍を経てクルトゥラル・レオネサにレンタル移籍した日本代表MFの井手口陽介だが、そのファーストシーズンは決して芳しいものではなかった。果たして、リーズの強化スタッフの一員である元日本代表の藤田俊哉氏は、井手口の現状をどのように捉え、今後の可能性をどう見ているのだろうか。

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 4月某日、私はリーズ・ユナイテッドのスタッフの一員として、リーズと業務提携を結んでいるクルトゥアル・レオネサの日本代表MF、井手口陽介を訪ねた。

 今年1月にガンバ大阪からリーズへの完全移籍を経て、スペインのクラブへと渡った井手口。初の海外移籍としてリーガスパニョーラ2部で奮闘しているものの、残念ながら、当初のイメージに反して、ベンチを温める日々を過ごしていた。

 リーグ戦での出番がない彼の心境を思うと、とても心苦しい気分だったが、トレーニング場で見た井手口は、私のそんな不安など軽く吹き飛ばしてくれた。彼のプレーはいつも通りアグレッシブだった。とくにゲーム形式では、井手口の激しいチャージによりチームメイトとエキサイトするなど、とても頼もしい一面も見ることができた。コンディションを落とさないように、練習後も個別メニューをこなして走り込むなど調整を行なってきた。ワールドカップに向けての準備は怠っていない様子だった。

 クルトゥアル・レオネサでの成績は、半年間でわずか5試合の出場にとどまった。その結果については、井手口自身も「悔しい気持ちでいっぱい」と言っていたが、海外移籍したことについては、「後悔していない」と語気を強めていた。

 当初のプランでは、井手口は今年1月に海外移籍するつもりではなかった。ヨーロッパのシーズンが終了する今夏に移籍する予定だった。移籍のタイミングを半年前倒しにした理由は単純明快。「新たな刺激を受けてもっと成長したい」という気持ちが芽生えたからだ。
 
 リーズが井手口へ最初にオファーを出したのが、昨年の夏だった。

 2017-2018シーズンからリーズの強化スタッフとなった私は、クラブのアジアに関する強化からマーケティングなどすべてを担当している。そこで、井手口の移籍にも携わることになったのだが、その後、井手口がリーズに合流するタイミングについて、クラブ同士で協議を重ねた結果、ワールドカップ終了後がベストだろうという結論に至ったのである。

 しかしその後、状況が一変する。昨年11月に日本代表が戦ったブラジル戦とベルギー戦を経て、井手口の心境に変化が生まれたのだ。ブラジルに1対3、ベルギーに0対1で敗れた日本。2試合ともピッチに立った井手口は、世界のトップレベルを肌で感じた。「自分はなにもできなかった…」。ブラジルとベルギーという“トップ・トップ”の選手とのとてつもない差に、大きな衝撃を受けたという。

 どうすれば、その差を埋められるのか。自問自答を重ねる日々を過ごすなか、彼が出した結論が、一刻も早くヨーロッパに渡ることだった。

 その熱い思いに応えるように、両クラブも急ピッチで移籍話を進めて、今年1月の移籍発表へとつながったのだ。

 リーズへの完全移籍を経て、最初の半年間は、スペインのクルトゥアル・レオネサにレンタル移籍することになった。もちろん、そのままリーズでプレーする選択肢もあった。しかし、スペイン2部リーグは決してレベルが低くはない。そのうえ、フィジカル面ではリーズが戦うチャンピオンシップほど激しくない。ここなら良い準備ができるのではと、リーズは井手口に提案した。そんな経緯を経てスペインでのプレーを決断した。
 半年間で5試合の出場にとどまった井手口のスペインでの挑戦を、失敗と見るか成功と見るか。数字だけで捉えれば、失敗かもしれない。しかし、井手口はレギュラーポジションこそ奪えなかったものの、「新しい刺激を受けて成長したい」という目標に向けては確実に一歩前進したのも紛れもない事実だろう。

 ブラジルとベルギーとの戦いを経て得た“悔しさ”がなかったら、前倒しで海外移籍という決断はしなかっただろう。そしてこの半年間のスペイン挑戦で、井手口は新たな壁にぶつかり、また“悔しさ”を感じることができた。

 本田圭佑、吉田麻也、川島永嗣しかり。彼らはつねに新しい挑戦を繰り返しては、次々と壁にぶつかった。そのつど悔しさをバネにして、かならず成長してきたのである。彼らを筆頭に日本代表の面々は、挫折知らずのエリートなどほとんど存在しない。こうした“トップ・トップ”のメンタリティに共通しているのは、折れない心を持っていることだ。

「絶対に見返してみせる! ここでは絶対に終わらない!」
 そんな野心に満ちあふれた向上心=情熱が、井手口にもある。そのことを、4月にスペインへ訪問した際、彼との会話のなかであらためて強く感じた。

 だから、井手口は近い将来、間違いなくヨーロッパで活躍できる選手になると私は考えている。彼自身も「世界のトップレベルで通用する選手になること」を大きな目標として掲げているが、その足がかりとして、今夏、井手口はリーズへ移籍することが決まっている。リーズは来シーズンもチャンピンシップ(イングランド2部)で戦うが、テクニカルディレクターのビクターも「チャンピオンシップに順応し、確実に実力をつけて、クラブをプレミアリーグ昇格に導く活躍を期待している」とエールを送っている。

 1年後には、吉田麻也、岡崎慎司に続く日本人プレミアリーガーの誕生となるか。飛躍のきっかけとして、ワールドカップの最終メンバーに残って、大舞台でまた新たな刺激を受けて成長してくれることを切に願っている。

◆プロフィール
藤田俊哉(ふじた・としや)/1971年10月4日生まれ、静岡県出身。清水市商高-筑波大-磐田-ユトレヒト(オランダ)-磐田-名古屋-熊本-千葉。日本代表24試合・3得点。J1通算419試合・100得点。J2通算79試合・6得点。J1では、ミッドフィルダーとして初めて通算100ゴールを叩き出した名アタッカー。2014年からオランダ2部VVVフェンロのコーチとして指導にあたり、16-17シーズンのリーグ優勝と1部復帰に導いた。新シーズンよりイングランドのリーズ・ユナイテッドでスタッフ入り。また、今年7月より藤田俊哉×H.I.S.ブログ『藤田俊哉サロン』がスタート