■名画には「意味」というものがある

私たちが普段、美術書やテレビ、展覧会などで目にしている数々の絵画作品。なかでも名画と呼ばれる作品は、そのどれもが作者の明確な意図に基づいて描かれている。つまり、名画にはその絵に込められた「意味」というものがある。それらの意味を知ることができれば、絵画鑑賞はより楽しくなるし、感動の度合いも増すことだろう。

たとえば、日本でもファンの多いフェルメールの《絵画芸術》という作品を見てみよう。画家が後ろ向きの姿で女性を描いているシーンを絵にしたものだが、この作品には数々の意味が込められている。

一例を挙げると、壁にかけられた大きな地図は、オランダ独立により南北に分断されたネーデルラントの統一を願ったもの。モデルの少女は勝利の女神クリオで、頭上の月桂冠は勝利を、手に持っているトランペットは名声、告知、芸術の崇高さを、書物は知恵、知識、歴史を、机の上のマスクは模倣、先人から学ぶことの大切さを、それぞれ表している。

さらに、シャンデリアやカーテンに散在する光の点は、フェルメールが制作にカメラ・オブスキュラというカメラの原型のような暗箱を使って絵を描いていたことを物語っている。フェルメールは、《絵画芸術》だけでなく、《牛乳を注ぐ女》や《音楽の稽古》などでもカメラ・オブスキュラを使い、線遠近法(一点透視図法)を駆使していたことが知られている。

 

■ダ・ヴィンチは「手」で物語を表現した!

《モナ・リザ》で有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの作品には、手のドラマが満ちている。

たとえば、初期の作品の《受胎告知》を見てみよう。処女懐胎を告げる天使の、控えめながらも有無を言わせぬ威厳に満ちた手つき。それに対して、初々しい驚きを表わす聖母マリアの掲げた手。そこには、手による宣告と受諾のドラマが展開されている。

ダ・ヴィンチの手のドラマの見事さを示すのが、30代の作品《岩窟の聖母》である。聖母マリアの腹部を指して、天の子の受胎を示す天使の手。聖母マリアに向かって祝福するかのように掲げられた幼子イエスの手。そして、来るべき受難から護るかのようにイエスと天使の手の上にかざされた聖母マリアの手。これらの手の動きが、宗教的なドラマにオーバーラップするかたちで、母と子のドラマを演出している。

また、40代の作品《最後の晩餐》も、イエスを中心とした13人の登場人物たちの手のドラマに満ちており、誰ひとりとして同じ動きのない手の描写により壮大なシンフォニーを形づくっている。

 

■誰もが納得の名画中の名画を読み解く


このたび刊行されたTJ MOOK『感動を約束する! 名画の読み方』は、名画に込められた「意味」の読み解き方を、フェルメール《絵画芸術》、ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》《モナ・リザ》、ミレー《落穂拾い》、ボッティチェリ《ヴィーナスの誕生》、ゴッホ《アルルの跳ね橋》、ムンク《叫び》等々、誰もが納得の名画中の名画を例に挙げながら詳しく解説している。

編著者の西岡文彦氏は、絵画のもつ意味や、その裏に隠された秘密を読み解くことに着目。これまで、見たり眺めたり感じたりするものだった絵画鑑賞に、日本で初めて「読む」(reading)という概念を持ち込んだ人物である。

そうした西岡氏の提唱する鑑賞法をもとに、何かを感じようとして見る、使われているテクニックを確認しながら見る、といった従来の方法からもう一歩踏み込んで、作品の意味を読みながら観賞してみると、また違った世界が広がることだろう。

こうした名画に込められた画家のメッセージを読み解くことにより、より深い感動が得られることは間違いない。

TJ MOOK『感動を約束する! 名画の読み方」
編著 : 西岡文彦 

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