<病気を早期発見できるDNA検査が普及してきたが、対象疾患の数が多過ぎると不要な治療につながる恐れも>

近年、アメリカでは自らの民族的・遺伝的背景を探るのに、家庭でできる比較的安価なDNA検査が浸透しつつある。そんななか、新たに登場して一部で物議を醸しているのがSema4社の新生児向けDNA検査キットだ。

このキットで新生児の遺伝子を調べると193の疾患のリスクが分かり、早期発見・治療につながる場合もあるという。だが、遺伝学者らはこの検査結果が事態を複雑化させることを懸念している。

現在アメリカでは、嚢胞性線維症や鎌状赤血球症などの疾患について全ての新生児にスクリーニング検査が行われている。対象となる疾患の数は州によって31〜60と開きがあるが、米国立衛生研究所(NIH)によれば32の疾患を対象としている州が多い。

Sema4は、それをはるかに超える193の疾患に関連する変異の可能性を探る。両親は自らと新生児のサンプルを送付。2週間以内に結果を受け取る。

サラ・ローレンス大学の遺伝カウンセラー、ローラ・ハーチャーは、Sema4の検査が適切なものかは詳細が分からずコメントできないとしつつ、新生児スクリーニング全般については、情報が多いほどより多くの問題を招く可能性があると指摘する。「一部の人々にとっては不必要な治療につながる可能性がある」

コロンビア大学医療センターのエレイン・ペレイラ助教は、子供がてんかんなど特定の疾患にかかりやすいと判明したからといって、それが「100%病気に発展するとは限らない」と言う。

そもそも正確性に疑問

ハーチャーも新生児スクリーニングは必要だと断言する一方、対象を広げ過ぎるべきではないと主張する。標準的な検査では医療現場での理解が進んだ一般的な数十の疾患が対象だが、193の疾患となると、その多くが非常にまれなもの。その上、Sema4の検査は649ドルと高額で保険適用外だ。

一方で、一般的な家庭用DNA検査の正確性に疑問を投げ掛ける研究も登場した。4月にネイチャー誌に掲載された研究によれば、さまざまな企業が提供するこの手の検査で陽性と指摘された疾患の40%が不正確だった可能性がある。

この研究では、アンブリー・ジェネティクス社の研究者が「消費者向け直販」DNA検査を受けた49人を調査し、その結果と、より詳細で高額な遺伝子検査の結果を比較した。すると最初のDNA検査で通知された遺伝子変異のうち、詳細な検査でも確認されたのは60%にとどまったという。

新生児のDNA検査を自宅で手軽に受けられると言われたら、親としては気になるもの。だが、検査の選択は正しいか、検査結果にどう対応するか、そもそも検査を受ける必要があるのか、両親は慎重に判断したほうがいいかもしれない。

[2018.5.22号掲載]

メリッサ・マシューズ