アイス市場が著しい伸びを見せている(写真:karin / PIXTA)

陽気がよくなり気温が上がる日は、アイスクリームの人気も高まる。

一般には、あまり知られていないが、5月9日は「アイスクリームの日」だった。東京アイスクリーム協会(当時。日本アイスクリーム協会の前身)が、前回の東京五輪の年である1964年に設定したという。現在、アイス業界は活況を呈している。

たとえば、全国各地のスーパーやコンビニで買える「家庭用アイス」を中心にした2016年のアイス市場は4939億円と過去最高を記録し、5000億円の大台をうかがう勢いだった(日本アイスクリーム協会調べ)。

数年前までアイス市場は、記録的な猛暑で需要が伸びた1994年度の4296億円がピークで、それを上回る年は20年近くなかった。ところが2013年度に4330億円と記録を更新すると4年連続で過去最高を更新。特にここ2年は、対前年比6%台の増加。人口減で全体的に需要が縮み、低成長にあえぐ日本経済において著しい伸びを見せている。

「ラクトアイス」も「氷菓」も楽しむ

もう1つ興味深いのは、「種類別」の各金額が伸びていること。実は“アイス”として食べる商品は、日本では乳成分や乳脂肪分によって、次の4つに分けられる。

(1)「アイスクリーム」(乳成分15%以上、うち乳脂肪分8%以上)
(2)「アイスミルク」(乳成分10%以上、うち乳脂肪分3%以上)
(3)「ラクトアイス」(乳成分3%以上、乳脂肪分は問わず)
(4)「氷菓」(上記以外)

たとえば、家庭用アイスの単品ブランドで1位の「エッセルスーパーカップ」(明治)は、(3)のラクトアイス。2位を競う「チョコモナカジャンボ」(森永製菓)は、(2)のアイスミルク。同じく「パルム」(森永乳業)は、(1)のアイスクリームに属する。商品単価は低いが、年間販売本数は圧倒的に多い「ガリガリ君」(赤城乳業)は、(4)の氷菓だ。つまり、消費者は種類別を気にせず“アイス”を楽しんでいるのだ。

なぜ、これほどアイスが好まれるのか。消費者意識を中心に考えてみたい。

アイス市場が好調な理由は、大きく2つある。1つは購入世代が変わったことだ。

「昔のアイスは『子どものおやつ』で、子どもが店に買いに行き、お母さんがスーパーでまとめ買いする商品だったが、近年はメーカー各社が販売戦略に力を入れた結果、『大人向けスイーツ』となったのです」(アイスクリームプレス社社長・二村英彰氏)

かつて、全国各地の小学校近くには、駄菓子屋(小さな食料品店)があり、アイスを売っていた。子どもが買いに行く姿もよく見かけた。それが、たとえば東京都杉並区の小学校近くでは、複数の店がこの10年で閉店した。代わって存在感を増すのは、全国に5万5000店以上(日本フランチャイズチェーン協会加盟店の集計。同協会調べ)の店を持つコンビニで、“コンビニアイス”の言葉もある。だが購入者は圧倒的に大人だ。

駄菓子屋でアイスを買っていた子どもが、大人になってスーパーやコンビニでアイスを購入しているのだ。最近も「ウチの20代息子は、毎晩の風呂上がりに、ビールではなく、自分で買ってきたアイスを楽しむ」(40代の男性会社員)という声を聞いた。

一方、「アイス→お酒→アイス」に戻る年配者も増えた。二村氏が続ける。

「アイスがある環境で育った団塊世代は、現役時代は仕事関連の飲酒も多く、アイスから離れる人も多かった。それが定年退職後は飲み会も減り、『スーパーやコンビニで、久しぶりにアイスを買ったらおいしかった』とリピーターになるケースも目立ちます」

数字の伸びに貢献する「冬アイス」

もう1つ、年間で市場が伸びる要因は「冬アイス」人気だ。業界でも訴求しており、近年は最需要期の夏に天候不順で売り上げが伸びなくても、暖房の環境が整った冬場の売り上げ増で落ち込みをカバーする展開にもなった。

夏と冬ではアイスに対する消費者意識も異なる。夏にアイスを食べる理由で多いのは「暑さしのぎ」だが、冬は「息抜き」や「癒し」といった理由が多くなる。

冬アイスは、メーカー各社も力を入れる。夏は生産ラインもフル稼働になるが、冬はラインにも余裕ができる。欠品(品切れ)を起こさないため、安定した大量生産を最重要視する夏場とは違い、冬場は、新たな商品の取り組みもしやすい環境にある。

そうした背景も手伝い、各社が力を入れるのが高価格帯の“プレミアムアイス”と呼ばれる200円前後の商品。特にコンビニでは売れ筋で、量も少なめでよいのも特徴だ。「夏場の売り上げが圧倒的な氷菓系とは違い、プレミアムアイスは春夏と秋冬の売上差がほとんどない」(大手流通)とも聞く。

一般家庭が「どんな品に消費しているか」を探る定期調査がある。総務省の「家計調査」というものだ。

それによれば、「1世帯当たりのアイスクリーム・シャーベット」の支出金額は、過去10年で15%増えており、特に冬場の増加率が高いという。ここでも「冬アイス」の伸びが指摘されたが、興味深いのは「都道府県庁所在地、政令指定都市別のランキング」だ。

2011年から2017年までの7年間で、金沢市(石川県)が首位になること5回、残り2回は富山市(富山県)だったのだ。「北陸勢強し」である。

なぜ、金沢市民はアイスにカネを使うのか? 同市の「情報政策課」に理由を聞いたところ、「関連部署にも確認したが、これという調査結果はありません」だった。そこで金沢市民である満留仁恵氏(「カフェドマル」店主)に協力してもらい、顧客の話も調べてもらった。

「家庭用のカップアイスやバーアイスは、お皿などの準備がいらないし、価格も安い。そうした手軽さも大きいと思います。こちらのスーパーでは、よく割引もしており、なかには半額セールのときもあります。『味が劣化しない』『日持ちするから買い置きしやすい』という声もありました」(満留氏)

アイスの半額セールは、首都圏のスーパーではあまり見かけない。そうした現象の裏には本質が隠されている。

「スイーツでもてなす」が金沢流

満留氏からは「金沢市は、同じ総務省調査の『他の和生菓子』でも長年にわたり首位です。市民がアイスクリームや和生菓子などの“甘いもの”を頻繁に購入するのは、加賀百万石の『茶の湯文化』の影響もあるように思います。お茶を楽しみ、甘いものを楽しむ。お客さまに対しても、スイーツでもてなす文化なのです」という意見も寄せられた。

前述の二村氏も同意見で、この指摘は興味深い。実は、同じ家計調査「1世帯当たりの喫茶店代」の支出金額で、毎回首位を争うのが、名古屋市(愛知県)と岐阜市(岐阜県)だ。3位は東京23区(東京都)が定番だが、この両市とは金額で大きな差がついている。

名古屋市も岐阜市も、自分たちでカフェ・喫茶店を使う一方、お客さんが来ると、「コーヒーでも飲みに行こうか」と連れ出す。この“カフェ連れ出し文化”は他地域ではあまり見掛けない。そのもてなし文化が、喫茶店ではなくスイーツに反映されるのが、「アイス日本一」の金沢市なのだ。

家庭用アイスは100円前後で買え、息抜きにもなれば、特にバーアイスは“ながら食べ”がしやすい。メーカー各社を取材すると、最近は「スマホをいじりながら食べる行為も多い」と聞く。金額も行為も手軽に楽しめる点も人気なのだ。