今年の北京モーターショーで披露された「ヴィジョン・メルセデスマイバッハ・アルティメイト・ラグジュアリー」(筆者撮影)

ランボルギーニ、マイバッハ、ロールス・ロイス――。今年に入って、欧州の超プレミアムブランドによるSUV(スポーツ多目的車)への参入が相次いでいる。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

春先にランボルギーニが「ウルス」を発売。4月末の通称、北京モーターショー(オートチャイナ2018)では、ダイムラーの最上位ブランドであるマイバッハからSUVコンセプトモデルが登場。そして5月10日、ついにロールス・ロイス初のSUV「カリナン」が世界初披露された。タイミングは少し前になるが、あのベントレーも「ベンテイガ」と呼ぶSUVを2016年から販売している。

欧州プレミアム系SUVといえば、1970年代以降は英国ランドローバーのお家芸とされてきたが、なぜこのタイミングで各社がSUV戦略を強化しているのか? その理由について、世界各地を定常的に巡る日々の中で考えてみた。

最も大きな理由は、中国市場の成熟とSUVシフト

「ここまでやるのか?」

4月25日、オートチャイナ2018の報道陣向け公開日。ダイムラーの展示ブースで、「ヴィジョン・メルセデス・マイバッハ・アルティメット・ラグジュアリー」の独特なデザインのインテリアを見て、唖然としてしまった。中国の富裕層に対する直球勝負のような演出だからだ。

5メートルを超える全長(5160mm)と2メートル以上の横幅(2110mm)、それに全高1764mmという、かなり大きく押し出しの強いボディサイズを持ち、フロントマスクは「いかつい」の一言。サプライズで公開され、来場者の関心を集めていた。

中国人にとって車は見栄そのものである」。この言葉をこれまでに、中国地場、日系、米系、韓国系、そして欧州系の自動車メーカー各社のカーデザイナーから何度も聞いた。ダイムラーはそうした中国の常識を貫いたといえる。

2017年、国別の自動車販売台数は、第1位の中国が2912万台、続くアメリカが1758万台、そして第3位の日本が524万台。日米市場の頭打ちが鮮明になっている中、中国市場の成長が際立っており、自動車メーカー各社が中国最優先の戦略を進めるのは当然だ。

その中国では近年、これまでの定番商品だったセダンからSUVへのシフトが加速しており、スーパーリッチ層による“SUVを使った見栄の張り合い”が始まっている。

プレミアムはアクティビティへ

別の視点で、欧州超プレミアムブランドのSUVシフトを見ると、アクティビティ志向へのシフトという面がある。


あのロールス・ロイス初のSUV「カリナン」(写真:ロールス・ロイス)

元来、ロールス・ロイスやベントレーなど伝統的な超プレミアムブランドは、運転手(ショーファー)付きで後席に乗るため、ショーファーカーと呼ばれた。その発展形として、2ドアオープンカーでサマーバケーションを楽しむといったトレンドが生まれた。

今回のSUVシフトでは、そこからさらに一歩先に進んで、スキーリゾート、キャンピング、そして砂漠での“クルマ遊び”でのオフロード走行をイメージした4輪駆動車(4WD)とした。ショーファーカーから、自分自身でアクティビティを楽しむ“身近なクルマ”への進化だ。

これは、スーパーリッチ層の世代交代や、IT長者などによるスーパーリッチ層の若年化による影響がある。

また、ランボルギーニや、近年中にSUVを発売するアストンマーティンなどのSUVは、オフロード志向というより、都市向けのクロスオーバーSUVという商品イメージが優先することを付け加えておきたい。

プレミアムブランドでもSUVシフト

2000万円台や3000万円台など、超プレミアムブランドのひとつ手前である、プレミアムブランドでもSUVシフトが進んでいる。

この市場の最高値モデルとしては、メルセデス・ベンツ「Gクラス」がオフローダー+シティユースの融合によって確固とした地位を確立してきた。日本でも最近、東京都内でGクラスを見かける機会が一気に増えた印象がある。

Gクラス以外のメルセデスでも、モデル名称「GLC」や「GLE」などセダンをベースとしたクロスオーバーSUVの市場が拡大している。

その他のジャーマン3でも、フォルクスワーゲン(VW)グループのポルシェとアウディ、そしてBMWのSUVシフトが鮮明だ。特にVWグループでは、ポルシェ「カイエン」とVW「トゥアレグ」など車台の共通化を活かした効率的な商品戦略を推進している。今後は、ポルシェ・ミッションeに代表されるEV(電気自動車)など電動化による部品共用化によって、VWグループ内での新型電動クロスオーバーSUVが続々登場するだろう。

こうしたトレンドを、日系プレミアム(レクサス、インフィニティ、アキュラ)が追いかけていく構図となる。

そもそもSUVは、おいしい商売

このように、超プレミアムブランドにまで及び始めたSUVシフトの波。その根底には、自動車メーカーの「SUVは儲かる商売」という算段がある。

SUVが一気に普及し始めたのは、1990年代半ばから後半にかけてのアメリカだ。きっかけは、企業のエグゼクティブがジープ「チェロキー」、フォード「エクスプローラー」、GMシボレー「タホ」などを通勤用として使い始めたことだった。また、家庭の主婦も普段の足としてSUVを使い始め、SUVと車体を共有するピックアップトラックを通勤用や普段使いするトレンドも生まれた。フォード「F150」、GM「C/Kシリーズ」(当時)、クライスラー「ダッジ・ラム」(当時)が売り上げを伸ばした。


ランボルギーニ初のSUV「ウルス」(写真:ランボルギーニ)

こうした、SUVとピックアップトラック双方が売れることによる量産効果によって、自動車メーカーにとってはSUVの利幅が増えた。さらに、SUV市場の拡大によって、SUVに高級志向が生まれ、例えばGMキャデラック「エスカレード」の人気が上がった。「エスカレード」はテキサス州のGMアーリントン工場で製造されており、筆者はその製造現場を何度も取材したが、同じラインにシボレー「タホ」とその兄弟車のGMC「ユーコン」、「タホ」のロングボディ版である「サバーバン」、そして「サバーバン」の高級版である「エスカレード」は内外装の一部やエンジンの仕様を除いて、ほとんど同じ車だ。

こうしたアメリカンSUVの成功事例が、BMW「X5」、メルセデス「Mクラス」(当時)、そしてポルシェ「カイエン」の誕生に結び付いた。 

それから約20年後が今である。ジャーマン3によるプレミアムSUV市場の拡大が、最終的にはロールス・ロイスやベントレーなど超プレミアムブランドにまで波及してきたという流れなのだ。今後数年間は、超プレミアムブランドによるSUVの多様化路線が続きそうだ。唯一といっていいほど、SUVを出していないフェラーリがどのような戦略を採るのかも見ものである。