写真=iStock.com/Kritchanut

写真拡大

加計学園問題に関して柳瀬唯夫元首相補佐官が国会に招致され、参考人質疑が行われた。その内容に釈然としない思いを抱いた読者も多いだろう。なぜ国会の質疑では「モヤモヤ」が残るのか。橋下徹氏は「多くの国会議員が尋問技術を持たないためだ」と指摘する。では、どんな技術を身につければいいのか? プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(5月15日配信)より、抜粋記事をお届けします――。

■いきなり「本丸」を攻めてもダメ! 野党は尋問の技術を学ぶべき

加計学園問題に関して、元首相補佐官・柳瀬唯夫氏の参考人質疑が行われたが、国民の多くはますます日本政府に対して不信感を抱いただろう。

この期に及んで柳瀬氏が加計学園関係者との面会を認め、ただ今治市職員や愛媛県職員と会ったかどうか、その場にいたかどうかは記憶にないと話し始めた。加計学園関係者との面会をやっと認めたが、そもそもこんな程度の事実確認くらい、なぜ安倍政権でもっと早くできなかったのか。政権が柳瀬氏にちょっと確認すれば済む話である。

今の安倍政権は、追及を受けたことをまずは全否定、絶対否定し、その後それに反する決定的な証拠をつかまれてから、全否定、絶対否定を撤回・取り消しするという繰り返しである。こんな政府を国民が信用するはずがない。

(略)

国会において野党は柳瀬氏に、安倍さんへの報告の有無を確認したけど、報告は一切していないと返されてしまった。このようにいきなり、安倍さんに報告をしたか、と柳瀬氏に本丸を問うても否定されるだけ。これは森友学園問題で、土地の不当な値引きについて、安倍さんや麻生大臣から直接の指示があったかと執拗に佐川氏を攻めた野党に対し、佐川氏が安倍政権からの指示は一切なかったと返したのと同パターンだ。本丸をいきなり攻めても、否定されるだけで終わってしまう。

そして野党は柳瀬氏の報告の否定の答えに対して、「秘書としてそんなことはあり得ない!」「おかしい!」というヤジの類の批判しかできない。

本丸を攻める前に、まずは周辺事実を周到に調べ上げる。関係者へのヒアリングを行う。その上で本丸を攻めるのが、尋問の原則である。今回、柳瀬氏が加計学園関係者との面会の事実を安倍さんに報告していたかどうかがポイントになるのであれば、首相秘書官の報告の実態を入念に調べておく必要があった。何をどこまで報告し、逆にどのようなことであれば報告をしないのか。内部ルールがあるのであれば、それを入手する。首相秘書官経験者から十分にヒアリングをしておく。内部ルールや首相秘書官経験者の話から、加計学園関係者との面会の事実は報告事項かどうか。この準備をしっかりした上で、柳瀬氏を攻めるべきだった。

■まず日常の業務内容、報告の基準を詳しく聞き取ることから

もちろん国会議員には捜査権限はない。ゆえに内部ルールや首相秘書官経験者から十分なヒアリングを行えない場合がある。その場合には柳瀬氏に対して、首相秘書官の仕事の実態を詳細に聞きながら、面会の事実は報告事項なのかどうかを浮かび上がらせるしかない。

首相秘書官として、何を報告し、何を報告しないのか。実際の首相秘書官の業務について詳細に聞いていく。そうすることで報告の基準を明らかにしていく。その上で、加計学園関係者との面会の事実は安倍さんに報告するものなのか、報告しないものなのかを浮かび上がらせる。そんなことまで報告しているなら、面会の事実は報告しているはずだ、とかね。こういうことを詳細に聞かずに、安倍さんに報告をしなかったのか? といきなり本丸を聞いても否定されるだけなんだよね。

また、柳瀬氏は「政府外の人から面会申し入れがあれば可能な限り会っている」と答弁し、加計学園関係者との面会は一般的な通常の業務であって、特別の面会ではない旨を主張した。この点に関しても、野党は「首相秘書官が誰とでも気軽に会うわけないだろっ!」と感情論をぶつけるけど、それではダメ。

これも、柳瀬氏に日常の面会状況を詳しく聞いていく。どのような場合に、どのような相手とは面会して、どのような場合に、どのような相手とは面会しないのか、その基準を浮かび上がらせるべきなんだ。

さらに柳瀬氏は「加計学園関係者との面会メモは取っていないし、部下にも記録させていない」と答弁した。もう霞が関省庁恒例となった、記録はありません、ってやつ。でも実際は記録は残っていたというのも、これまた霞が関の恒例になっているけどね。

この点について、皆さんなら、もう尋問のポイントは分かりますよね。そうです、柳瀬氏に日常の面会記録の状況を詳細に聞くんです。どういう場面ではメモ・記録を残し、どういう場面ではメモ・記録をしないのかの基準を浮かび上がらせる。

■柳瀬氏の行動基準を明らかにし、そこから矛盾を突くべし

人間の日常行動には、無意識のうちに基準が作られていく。時々の趣味嗜好の余地が入らない日常の仕事の場合には、なおさら無意識のうちに、自ら一定の基準を作って、それに従って行動をするものだ。合理的な人間であればあるほど、事務処理能力の高い人間であればあるほど、なおさら無意識のうちの基準作りは当然のこととなり、基準の範囲も広く、数も多くなってくる。というのは、自分の行動について基準を作った方が、無駄に悩むことがなく、「やる、やらない、どのようにやるか」を円滑に判断できるからだ。まあ、ベルトコンベアー処理みたいなものだね。

クリエイティブな仕事には向いていないけど、事務系の仕事で、いわゆる「できる人間」というのは必ず、あらゆる事態に対応するための自分基準を持っているものだ。

首相秘書官とは、国家公務員一種試験に合格し、その中でも出世頭の人物で、多くの課題をテキパキと処理していく高度な事務処理能力を持っている。相当合理的な「できる人」でなければ務まらない。政府の内外を問わず、多くの人と面会しなければならない立場で、その際に、この人とは会うべきかどうか、記録はとるべきかどうか、首相に報告すべきかどうかを一々悩んでいては仕事にならない。だから柳瀬氏は一定の基準を持っているはずである。

その基準を明らかにすることが、柳瀬氏への尋問の最大の目的である。「記録は取らない、報告はしない」というのは、秘書として失格だ! なんて批判しても、柳瀬氏がそう言っている以上話が進まない。だからこそ、柳瀬氏が無意識のうちに作り上げた行動基準を、柳瀬氏の行動実態を詳細に確認しながら浮かび上がらせるべきなんだ。

ちなみに、首相官邸に面会記録は残っていない、とも政府は答えているけど、もしそれが本当だったら、日本政府、それも首相官邸ってどれだけいい加減な組織なんだ? 僕が知事、市長のときは、セキュリティの関係から、詳細なスケジュールは事前に知らせなかったけど、その日のスケジュールをこなした後は、全てホームページに掲載しているよ。

面会する・しないの基準、面会記録を取る・取らないの基準、首相に報告する・しないの基準が浮かび上がってくれば、じゃあ今回の件はどうだったんだ? という話に移る。尋問によって浮かび上がった柳瀬氏の行動基準からすれば、加計学園関係者に会うはずがなく、会えば記録はきちんと取っているはずで、首相にも報告しているはずだ、となれば柳瀬氏のそれとは正反対の今回の答弁は「おかしい!」と言えるし、国民も強くそう感じるだろう。

森友学園問題、加計学園問題を通じて、国会での国会議員の尋問力が試されるようになった。しかし尋問のノウハウを持っている国会議員は少ないようだ。

多くの国会議員はいきなり本丸を攻める。そして否定されて終わりというパターンを繰り返す。このパターンから脱するためには、国会議員は、一度尋問技術についてしっかりと学ぶべきだ。

(略)

(ここまでリード文を除き約3000字、メールマガジン全文は約1万6000字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.103(5月15日配信)を一部抜粋し、修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【危機管理の授業】柳瀬氏国会招致! 加計学園問題を終わらせるには?》特集です!

(前大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)