かくた・よういちろう=1970年8月17日生まれ、千葉県出身

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角田陽一郎氏は、1994〜2016年にTBSテレビのバラエティー班に在籍し、「さんまのスーパーからくりTV」(1992〜2014年TBS系)や、「中居正広の金曜日のスマたちへ」(2001〜2006年TBS系)などを担当。2009年には、TBSの子会社として動画配信会社・Goomoを自ら立ち上げ、新たなビジネススタイルに挑んできた。現在はフリーランスの立場で、テレビのみならず、ネットや出版、イベントなど、さまざまなフィールドで活動する“バラエティプロデューサー”を名乗っている角田氏。そんな彼が唱える、真の意味での“テレビの開拓”とは――?

多彩なジャンルのゲストが、リラックスしたムードで本音を語るトーク番組「オトナに!」。TOKYO MXでの放送のほか、YouTubeでも配信中

■ 明石家さんまさんの洞察力の鋭さにはいつも驚かされていました

──1994年にTBSテレビに入社されていますが、テレビ業界を目指されたきっかけは?

「きっかけと聞かれると、『オレたちひょうきん族』(1981〜1989年フジテレビ系)を見て、あのスタジオの隅で笑ってるスタッフに自分もなりたかった、ということでしょうかね。TBSに入ってバラエティーの制作を志望したのは、『何でもやりたい』と思ったから。バラエティーを選んでおけば、ドラマでも報道でもスポーツでも、真面目なことからエロいことまで何でもできるなと思ったんですよ。今、僕は“バラエティプロデューサー”を名乗っていますが、これもバラエティー番組のプロデューサーという意味ではなく、いろいろなことをプロデュースする、という意味の肩書なんです」

──テレビマンとして最初に関わられた番組は何でしょうか。

「『テレビの王様』(1994年TBS系)という、『テレビ探偵団』(1986〜1992年TBS系)の後番組です。ADとして、膨大な過去の映像資料をひたすら見ていくのが仕事でした。『ヤッターマン』(1977〜1979年フジテレビ系)に出てくるメカや、『8時だョ!全員集合』(1969〜1985年TBS系)のコントを全部チェックするみたいな。TBSは、1995年に今の新局舎に移転してるんですけど、スタッフルームに何万本という過去の番組素材があったので、引っ越しがものすごく大変だったのを覚えてます(笑)」

──テレビ好きとしては、そんな大変な仕事も楽しんでいたわけですか?

「いやいや、ADのときは何回か脱走してますんで(笑)。当時は、ADは上の言うことを何でも聞けっていう時代でしたけど、『何で入社が早いだけの先輩から叱られなくちゃいけないんだ』なんて言ってる、生意気なADでした(笑)。今、働き方改革ということが言われてますけど、その第1世代じゃないですかね。実は当時のことは、ドラマなり小説なりにして、働くとは何なのかを自分なりに再定義したいと思ってるんですけど」

──「さんまのスーパーからくりTV」では、十数年にわたってADやディレクターを務めたそうですね。

「『からくり』の現場は、面白いVTRを作って、明石家さんまさんや関根勤さんたちを笑わせたら勝ち、という世界で。先輩も後輩も、局員も外部のスタッフも関係ない、ガチンコの面白合戦が楽しかったですね。さんまさんからは本当にいろんなことを学びました。僕が初めてディレクターを務めたのは、『さんま・玉緒のお年玉 あんたの夢をかなえたろかスペシャル』(1995年〜TBS系)だったんですが、さんまさんって、番組の企画書を持って行っても、全然見ないんですよ。でも、『おまえらがやらせたいのは、こういうことやろ?』なんて言いながら、企画のポイントを的確に言い当ててしまう。その洞察力の鋭さにはいつも驚かされていました」

■ 僕の番組の企画の立て方は「テレビという媒体を利用してビジネスをしましょう」という発想

──その後、2009年には動画配信会社・Goomoを立ち上げています。

「プロデューサー・総合演出を担当していた『明石家さんちゃんねる』(2006〜2008年TBS系)が終わって、次のクール以降、担当番組が何もない時期があったんです。そんなときに、社内で新規プロジェクト募集の貼り紙を見ていたら、動画配信の会社を作ることを思い立ち、すぐに応募しました。

Goomoは、TBSの子会社として設立したんですけど、ちょうど今のAbemaTVやクラウドファンディングみたいなことをやってたんですよ。有吉弘行さんの番組とか有田哲平さんの番組とか、200本くらい作ったんじゃないかな。これ以降、僕は番組を企画するとき、編成部を通さずに、経営側にビジネススタイル込みで提案するような企画しか立ててないんですよね」

──そんなビジネススタイルの例を挙げると…?

「『カタリダス〜MAKE IT GREAT〜』(2010年TBS)は、アーティストがPCで自らをプレゼンするという、パワポ(※パワーポイント=マイクロソフト社製のプレゼンテーションソフト)がないと成立しない番組で。マイクロソフトが制作費を出してくれたんですが、マイクロソフトの名義は、スポンサーではなく“技術協力”。広告費を払ってCMを打たなくても、結果的に宣伝になるんだ、ということを証明した番組なんです。また、『イク天(イクゼ、バンド天国!!)』(2016〜2017年BS-TBS)のTSUTAYAも同じですね。スポンサーではないけれど、優勝したバンドに100万Tポイントを贈呈する、という。そのことが結果、TSUTAYAの宣伝になっているわけです。これまでのテレビは、『御社のCMを放送するから、この番組に何億円ください』という形でビジネスをしていたんですが、僕の場合は、企画の立ち上げの段階から組んでビジネスしましょう、そのためにテレビという媒体を利用しましょう、という発想。もはやCMのウソはバレてるし、宣伝と番組本編を分ける必要はないと思うんですよね」

──現在は、いとうせいこうさんとユースケ・サンタマリアさんが、さまざまなゲストを招いてトークを繰り広げる「オトナに!」(TOKYO MX)が放送中です。前身の「オトナの!」(2012〜2016年TBS系)から、長年にわたってコアな人気を博していますね。

「視聴率に左右されないコンテンツのビジネスモデルとして、地上波放送と並行して、YouTubeでも配信を始めて。今もYouTubeで配信しています。最初は、全国各地から『自分の地域でも「オトナの!」が見たい』という問い合わせがかなり多くあったので、地方局でもネットしてもらいたいと思って、系列全局に打診したんです。ところが、見事に全部断られて(笑)。それでネット配信という形を思いついたわけです。普通は、キー局が制作する番組をネットで流すことは、地方局の死活問題に関わるということで、なかなか認められないものなんですけど、うちの番組は、当の地方局に一回相談して断られてるんだから、問題ないだろうと(笑)。僕としては、『徹子の部屋』(1976年〜テレビ朝日系)みたいに、長く続く番組になったらいいなと思ってます」

■ 今はテレビにとって第2の開拓期。フロンティアはどこかにいるはずです

――「オトナに!」は、ユニコーン、フジファブリックといったミュージシャンをはじめ、俳優、映画監督、劇作家など、ゲストの顔触れも新鮮ですね。

「ゲストのキャスティングに関して言うと、『オトナに!』は、“面白いことを考えている人”に出ていただく、というのがコンセプトなんです。僕は、世の中には“面白いことが言える人”と“面白いことを考えている人”がいると思っていて。テレビの世界は、芸人さんに代表されるような“面白いことを言える人”が重宝されるものなんですが、この番組では、“面白いことを考えている人”をお呼びして、放送を何週に分けてでも、好きなだけしゃべっていただく。その分、尺を食うんですけどね(笑)。そしてトークの内容も、その人が話したいことだけを徹底的に話してもらう。テレビを作ってる人間って、えてして、スキャンダルとかゴシップとか、本人が話したくないことを言わせたがるじゃないですか(笑)。でも、この番組ではその逆を行こうと。でも面白いのは、本人が話したいことだけを話しているうちに、だんだん本音が顔を覗かせて、われわれが聞きたかったスキャンダル的なところに話が及ぶことが往々にしてあるんですよ。それはちょっとした発見でしたね。男女の駆け引きと一緒で、『脱げ、脱げ!』って言っててもダメってことですよね(笑)」

──MCにいとうせいこうさんとユースケさんを起用された理由は?

「ユースケさんは、仕事をご一緒したこともあるし、僕自身、昔から大好きだったので、声を掛けさせていただいたんですが、ユースケさんご本人から、この番組を引き受ける条件として、いとうせいこうさんと一緒にやりたいというリクエストがあったんです。実は僕、それまでは、小説もラップもテレビの司会もハイレベルにこなしてしまうせいこうさんに、あんまり良い印象を持ってなくて(笑)。要は、ジェラシーを感じてたんですよ。近親憎悪というか。でも、お会いした途端、一瞬で惚れちゃいました。そのとき、せいこうさんがおっしゃってたのは、『自分は世の中を理想の国に近付けるために活動しているスパイなんだ』と。あからさまに活動すると捕まってしまうから、こっそりやってるんだって。それを聞いて、20代、30代のころの僕は、局の編成部や先輩のディレクターと、あからさまに戦っちゃってたんだなと気付かされましたね(笑)」

──テレビにとどまらず、さまざまなフィールドで創作活動を展開している角田さんから見て、昨今のテレビ界は、どんな風に映っているのでしょうか。

「エンタテインメントが見たいという人は、いつの時代にもいますし、テレビは免許事業ですから、滅ぶことはないでしょうね。でも、ネット配信という形がこれだけ一般的になってきている中で、視聴率競争みたいな古い価値観にこだわるのは、本当に意味がないことだと思います。例えるなら、黒船がやってきた時代に、いまだに参勤交代を続けてるみたいなもので(笑)。そんな旧態依然とした業界に、新しいスポンサーがつくわけもない。いわば、今はテレビにとって、第2の開拓期。そもそも、テレビのビジネススタイルが70年近く続いたことが奇跡なんですから。フロンティアはまだどこかにいるはずですよ」(ザテレビジョン)