大したことをしていないのにクタクタ…(写真:YinYang / iStock)

「社内にいるだけでなんとなく疲れる」……。そんな経験がある方は少なくないのではないでしょうか? 日本の会社で働く人はいったいなぜ疲れているのか。元グーグルの人事担当者であり、『Google流 疲れない働き方 やる気が発動し続ける「休息」の取り方』の著書のあるピョートル・フェリークス・グジバチ氏に聞きました。

頑張っても結果が出ないのは当たり前?

大したことをしていないのに、なぜか仕事で疲れる。1日会社にいるだけでクタクタになる――。

それはあなただけのことではありません。たとえば、養命酒製造が2017年に行った「東京で働くビジネスパーソンの疲れの実態に関する調査」があります。これは、東京都で働く20〜59歳のビジネスパーソン1000名を対象にしたものですが、8割が「疲れている」と回答。40代だけ見ると85.8%にも達しています。

JINSが設立したメガネを医療に役立てようとするJINS MEMEでは、人のパフォーマンスにかかわる調査もさまざま行っています。驚くのは、ビジネスパーソンがいつ集中しているかという調査の結果なのですが、なんと会社にいる時間がいちばん集中力が低くなっていたのです。

集中力がないまま、なんとかこなさなければと仕事に励んでいれば、それは疲れがたまるでしょう。

ここで皆さんにお伝えしたいのは、「こんなに頑張っているのに結果が出ない」のではなく、「疲れているから結果が出ない」ということです(考えてみれば、当たり前のことですが)。グーグルでの私の経験を含めて、お話ししたいと思います。

グーグルでは、社員自身が生産性を高く維持できるよう、4つの方面からの取り組みをしています。

それは、

体のエネルギー(physical energy)

感情のエネルギー(emotional energy)

集中のエネルギー(mental energy)

だ犬ることの意義からくるエネルギー(spiritual energy)

というものです。人間のエネルギーにはこの4つのレベルがあると考え、それぞれ整えていくのです。

加えて組織としては「心理的安全性」も、フローを高めるために重要な役割を果たしていると考えられます。

フローとは何か

職場での仕事に限らず、趣味や何かの作業に没頭していて、気づくと何時間も経っていた……。そんな経験をしたことは誰にでもあるでしょう。この状態のことを、心理学用語で「フロー」と呼びます。

「フロー」を学際的に研究しているシンギュラリティ・ユニバーシティのFlow Genome Projectによれば、フロー状態に入ることで、

・創造性・課題解決能力は4倍になる
・新しいスキルの学習スピードが2倍速になる
・ モチベーションを高める5つの脳内物質(ノルアドレナリン、ドーパミン、エンドルフィン、アナンダミド、オキシトシン)が放出される
・痛みや疲労を感じなくなる

としています。つらいつらいと感じながら長時間働いていては疲れますが、フロー状態に入ることで「疲れずに」「短時間で」「高いアウトプット」を得られるようになるのです。

しかし、FlowGenomeProjectのスティーブン・コトラー博士の研究によれば、平均的なビジネスマンは1日のうち5%程度しかフローに入っていないそうです。

スティーブン・コトラー博士は、仮に1日のうち15%、フロー状態に入ることができれば、5%の場合に比べて、「仕事の生産性は2倍に上がる」と述べています。

したがって、いかにして邪魔されずフロー状態に入れる状況をつくれるかが、私たちの生産性を高めるために大事なことになってくるのです。

いったいどうすれば、フロー状態に入れるのか。

先ほどのスティーブン・コトラー博士は、フローに入るための要件を、個人の場合に7要件、チームの場合に10要件それぞれ述べています。

個人がフローに入るための7要件

●心理的な要件

1 明確な目標

「今、何に取り組んでいるのか」「何のために取り組んでいるのか」を具体的に自覚する

2 リアルタイムのフィードバック

明確な目標に対し「どうしたらそれをもっとうまくできるか」をリアルタイムに把握し、結果と行動の因果関係をつねにつかんでおく

3 難易度と能力のちょうどよいバランス

簡単なことばかりやっていると、退屈してしまって、かえって集中度は高まらないものです。時に、少し目標を高めに設定して仕事をします。いつも1時間かかっている仕事を40分で終わらせる、といったことでもよいでしょう。

●環境的な要件:整えるべき周辺環境

4 大きな影響力のある課題設定

ハイリスク・ハイリターンな挑戦を設定する

5 ワクワクする環境

ルーティーンと違って日々違う刺激があると人はワクワクできますし、慣れが生じないため集中力を高く維持できます。

6 全身が没入できる環境

何かを考えるにしても、書きながら考えたり、つぶやきながら考えたり、時には歩きながら考えたりするほうが、よいアイデアが湧きやすいことはないでしょうか? ただ考えるだけでなく、アクションを加えるとより集中して取り組めます。

●創造的な要件

7 パターンに気づき、パターンを壊す

今起きていることのパターンを読みとろうとしているとき、人は集中します。ですが一度知ってしまうと、もう意識しなくてよくなるので怠惰になってしまいます。

出来事の普遍的なパターンや、それに対する問題解決のパターンを読みとり、構築しながらも、それだけにとらわれずつねに意識して別のスタイルを試そうとすることがフローを長く保つ秘訣です。

チームがフローに入るための10要件

●社会的な要件

1 明確な目標の共有

組織としての共通の目標を、全員で明確に共有する

2 活発なコミュニケーション

定期的にフィードバックをし合い、活発にコミュニケーションを行う

3 コントロール感

自分で仕事をハンドリングできる要素は必ず必要です。コントロール感が得られないと、「自分で考えない社員」が増えていってしまいます。

4 リスクの存在

リスクのないことに取り組むときに人の潜在意識は最大化されません。全員が均等にリスクを負っている緊張感が大切なのです。

5 厳しさ

馴れ合いではなく、厳しい環境を自ら創り出す

6 平等な参加

チームの全員が、プロジェクトにおいて等しい量の役割を担う

7 共通言語

集団の中での共通言語や知識ベース、暗黙の了解に基づく特定のコミュニケーションスタイルを持つ

8 エゴを超える

チーム全体が謙虚になる

9 傾聴

目の前の会話に完全に耳を傾け合う習慣を持つ

10 Yes And...

会話を必ず「確かにそうだよね、それに加えて……」ではじめる


全部やるの?と思われる方は、個人の心理的な要素を整えるだけでも効果があります。

慶應大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科でフロー研究を行った世羅侑未氏は、こうした概念を覆しました。彼女の研究は、特に上記の要件の中でも、個人の心理的な要件を整えるメソッドを用いることで、「非嗜好課題」(つまり自分が好きではないと思っている課題や作業)においても、フロー状態をつくることが可能であるという斬新な結果を導き出したのです。

僕も講演の冒頭で必ず言いますが、大事なことは、「好奇心を持って集中をしよう」ということです。一瞬一瞬、好奇心を持って集中すると、悪循環ではなく好循環が生まれます。その場での選択肢も増えてきます。ぜひ意識して仕事に取り組んでいただけましたら幸いです。