2018年1月22日に開かれたローソンの「接客コンテスト」。

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24時間365日、休みなく営業を続けるコンビニ。店員は時間帯で変わりますが、その中にはいつ行っても「感じのいい店」があります。一体なにが違うのでしょうか。17万人の「クルー(店員)」が活躍するローソンで、長く研修担当を務める清水とみかさんは「店長の挨拶をみれば、そのお店の接客レベルがわかる」といいます――。

※本稿は、清水とみか『ローソン1万3000店の結論! 元気スタッフの育て方』(プレジデント社)の一部を加筆・再編集したものです。

■約17万人のスタッフを成長させるということ

北海道から沖縄まで全国47都道府県にあるローソン。そこでは約17万人のクルーたちが活躍しています。ローソンではアルバイトさんのことをクルーと呼びます。

17万人と言われると、すごい規模だと思いますよね。当然ながら、人財育成は常に大きな課題です。各店舗のクルーを育てるのはオーナーや店長の仕事であり、オーナーや店長に寄り添うのはSV(スーパーバイザー)の仕事というのが基本ですが、現実はそう甘くありません。

何しろ全国で毎月平均9000人ものクルーが、辞めたり新しく採用されたりと流動しているので、新人クルーに業務を教えるだけでも大変だからです。オーナーや店長はただでさえ普段から忙しく、人手不足の昨今は自ら現場に立ってクルーの仕事を補う日もあるので、お店を回すだけで精いっぱいになってしまうことも珍しくありません。

そんな慌ただしい毎日の中で、全国各地の店舗がどのようにクルーたちへローソンの理念を伝えていけばよいのか? コンビニの人財育成という高いハードルを越えることは、ローソンにとって長年の重要なテーマです。

そこで私に与えられた役割が、オーナーや店長とともに「心のこもった接客」を実現していくための研修担当でした。以来十数年間、全国を飛び回る毎日を過ごし、たくさんのうれしいご縁をいただきます。

私の個人的な考えでは、オーナーや店長は店舗の要であり、クルーは店舗の輝くスターです。両者の信頼関係がぐっと深まり、お互いに安心して仕事に取り組むことで、訪れてくださるお客さまに対して「おもてなしの心」がもっともっと伝わるようになると思っています。そうなることを目標に、エリア責任者のリクエストにより研修やセミナーを行っています。

研修では、店内の雰囲気やスタッフ間のコミュニケーション、そして、どのようにお客さまに接すればよい印象を持っていただけるかなど、まさにお店づくりの基礎になる重要ポイントを2〜4時間かけて体験型でお伝えしています。

ローソンの企業理念は、「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」というものです。みなさまのすぐそばにあるコンビニが、みなさまの幸せのためにできることはなんだろう? 私たちはいつも考えています。

来店してくださるお客さまにとって、ローソン周辺に住んでいらっしゃる住民のみなさまにとって、なくてはならない頼りになる存在でありたいと思います。

お客さまが望まれることは、それぞれ違います。また、常連のお客さまもいらっしゃれば、その店舗には一生のうち一度だけ立ち寄るお客さまもいらっしゃいます。一人ひとりのお客さまと接する瞬間ごとに、気持ちを切り替えて集中することは、それほど簡単ではありません。

ローソンで働くオーナー・店長・クルー、そして彼らの研修を担当している私は、あきらめずに日々試行錯誤しながら奮闘し続けています。

■接客コンテストで全国1位になったのは、シニアのスタッフ

ここで、実際に店舗で活躍しているクルーの事例をご紹介しましょう。2018年1月22日に開かれたローソンの「接客コンテスト」、そこで全国1位に輝いたのは、クルー歴10年、68歳の富美子さんです。私も審査員をやらせていただきながら、感動で何度も涙しました。印象に残っているステキな言葉をいくつかピックアップしてみました。

「毎日楽しく笑って過ごしたい私にとって、クルーの仕事は、とても合っている」

「どうすれば、お客さまと仲よくなれるか、信頼していただけるか、常に考え、声をかけ、日々努力している。10年間あっという間に過ぎた」

「ある高校生の1冊のノートの話。野球部だった息子さんの机の引き出しからノートが出てきた。すでに息子さんは、独立していて、お母さんがお礼に来てくださった。『僕は、3年間ずっと補欠だった。いつも苦しかったけど、練習の帰りに寄るローソンのおばちゃんが、“おかえり、今日も疲れたろ?”と優しい言葉をかけてくれたり、冗談を言ってくれたり、嫌なことも吹き飛び、あのおばちゃんには本当に助けられた』その息子さんは、今や海外ボランティアで大活躍していると知り、とてもうれしかった」

「毎日のようにコピーを利用なさるおじいちゃんのブレザーの裾がほつれ、糸がブラリと垂れていた。『気づいていらっしゃいますか?』と声をかけると、『いや、ばあさんが亡くなって、もうおらんし、誰も教えてくれん。あんた、縫うてくれんか?』とおっしゃる。『いいですよ』と預かり、縫って差し上げ、翌日お返しすると、それはそれはうれしそうにニコニコして何度もお礼を言われ、私もすごく気持ちよかった」

「私は、何でも屋さん。一見お店に関係ないようなことでも、いつかきっと役に立つ。全国1万3000店舗の私たちクルーの小さな力が集結すれば、ローソンの大きな力になる」

「孫と一緒に出かけると、あちこちで、お客さまからたくさん声をかけていただく。孫の『ばぁば、お友達がいっぱいだね、すごいね』の言葉に、『ローソンで働いたおかげだよ』と誇らしげに即答している」

富美子さんの活躍は、シニアクルーさんの真骨頂、まさに他の仲間に対する大きなエールだと私は思います。

富美子さんのようなクルーは、全国にたくさんいます。地域のみなさまから頼りにされる、そして何人ものお客さまから声をかけていただく、そのお店もそのクルーも「なくてはならない存在」として認められている。素晴らしい関係を築くことができている店舗があり、そこでイキイキと働くクルーが、本当にたくさんいるのです。

そんなお店を、そんなクルーを、少しでも増やしたい、「ここにローソンがあってよかった!」と思っていただけるように努力していこうと、私自身が気持ちを新たにした接客コンテストでした。

■すべては「笑顔の挨拶」から始まる

約1万3000店舗のローソンへ、1日平均800名のお客さまが来店くださったとして、全国で繰り返される「いらっしゃいませ」と「ありがとうございます」の挨拶は、最低でも毎日1000万回以上。この一瞬のたった一言が、すべてのローソンで温かく気持ちよいものであるなら、いろいろな用途でお立ち寄りくださるお客さまの心は、どんなにすがすがしいことでしょう。

もし、そのお客さまがお買い物の帰路に出会った知人に笑顔で挨拶したら……、さらにその知人がまた別の友人に笑顔で挨拶したら……、プラスの波動は、どんどん広がっていくでしょう。私たちの小さな行動は、きっと世の中が明るくなることにつながっていくと思うのです。だからこそ、笑顔の挨拶の徹底をステキなお店づくりの第一にお伝えしたいと思います。

では、いったい誰から「笑顔の挨拶」を実行していけばよいのでしょうか? もちろん、お店では、オーナーや店長からです。お店のリーダーが自ら行動しようと心に決めて、積極的に実行してほしいと願います。

しばしば「クルーたちが元気のよい挨拶をしてくれない」と悩んでいるオーナーや店長から相談を受けることがありますが、そもそもあなた自身はクルーたちに「気持ちのよい挨拶」をしているでしょうか? お客さまにいつでも明るい声で「笑顔の挨拶」をしているでしょうか?

自分がやっていないことを相手に「してほしい」と頼んでも、それは難しいですね。オーナーや店長が、「笑顔の挨拶は、自分ではなく、クルーから」と思ったなら、その瞬間にすべてが終わってしまいます。「まず私からやろう」と思わない限り、物事は何1つ動いていきません。

私たちが思っている以上に、挨拶は大事です。お客さまにきちんと挨拶するということは、それだけで「いいお店だな」「このスタッフは感じがいいな」と思っていただける大きな要素の1つだからです。人は挨拶されることによって、「気持ちいいな、明るいな。ここならまた来てもいいな」と心を動かされ、そのお店を自分の行動範囲の中の1つに加えてくれるのです。これほど重要な挨拶を、しっかりやらない理由はありません。

挨拶にお金がかかるでしょうか? 経費はゼロです。時間がかかるでしょうか? わずか1、2秒です。お金もかからず、ほんの数秒ですむのに、相手は「いいな」と思ってくれる。それだけの力を秘めているのが挨拶です。

お店で働く全員が本気で挨拶を見直すこと。そして「笑顔の挨拶」を徹底すること。これだけで、お店は大きく変わります。すべてのお店が「笑顔の挨拶」であふれ、そこからお客さまとの信頼関係が深くつながっていくことを願っています。

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清水とみか(しみず・とみか)
株式会社ローソン 運営本部 シニアスペシャリスト 「心のこもった接客担当」
東京海上日動火災保険株式会社に勤務後、ローソンに入社。2004年から現在のESおよびCS推進業務に携わる。「お客様のご満足はスタッフ一人ひとりの笑顔から!」、また「いろいろな声は吸い上げるものではなく、自ら聴きに行き、受け止めるもの!」が信条。社内専用ブログや社内テレビを立ち上げ、コミュニケーション活性化に努め、若い世代へ引き継ぐ。地味にコツコツ数多くの社員やフランチャイズのオーナー・店長・クルーのみなさまとの“笑顔の橋渡し役”として活躍中。

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(株式会社ローソン 運営本部「心のこもった接客担当」 清水 とみか)