いよだ・ひでのり=1967年5月6日生まれ、愛知県出身

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「陸王」(2017年)、「下町ロケット」(2015年)、「半沢直樹」(2013年)、「新参者シリーズ」(2010年ほか)など、TBS系日曜劇場の枠で放送された作品を中心に、数多くのヒットドラマを手掛けてきた伊與田英徳プロデューサー。現代社会で生きる人々の姿を、ダイナミックかつ丁寧に描き、“見る者の心を動かすドラマ”を世に送り出してきた彼は、一体どのような思いでプロデューサーという職務に臨んでいるのか。4月22日(日)スタートの最新作「ブラックペアン」への意気込みとともに、その信条を語ってもらった。

「“一番最初の思い”がドラマ作りの基本」と語る伊與田英徳プロデューサー

■ TBSドラマの名手・福澤克雄、植田博樹との出会いがターニングポイントに

──伊與田さんは、いつごろからテレビの世界で働きたいと思い始めたのでしょうか?

「20歳くらいのときにはもう考えてましたね。そんな中で、衝撃的なことがあって。ある日、飲み会をしてたんですけど、それまで楽しくしゃべっていた女の子が、急に『そろそろ「東京ラブストーリー」(1991年フジテレビ系)が始まるから』って言い出して、本当に帰っちゃったんですよ(笑)。僕は、『東京ラブストーリー』というドラマが放送されているのは知ってたけど、見たことはなくて。でも、その女の子の行動にショックを受けて、次の週に見てみたんですね。そうしたら、めちゃくちゃ面白かった(笑)。確か第3話くらいだったと思うんですけど、そこから毎週見るようになって。もともとテレビドラマは好きだったんですが、『東京ラブストーリー』は特に、忘れがたいものがありますね」

──では、ご自身が手掛けてきた中で、ターニングポイントになった作品は?

「全部の作品にそれぞれ思い入れがありますから、特定の作品名を挙げるのは難しいんですが、人との出会いという意味では、ジャイさん…福澤(克雄/TBS演出)さんと、植田(博樹/TBSプロデューサー)さんと出会ったことは、大きなターニングポイントになったと思います。

私にプロデューサーとはどんな仕事かを教えていただいたのが植田さんで、『真夏のメリークリスマス』(2000年)で、植田さんの元で協力プロデューサーとして参加したのが最初の出会いです。いろんな意味で鍛えられましたね(笑)、キャスティングから脚本づくりまで。中でも『ドラマを面白くするためだったら、何があってもその道を突き進むんだ』という、強い信念や覚悟を持っていなければ、プロデューサーは務まらないんだと。そういった、テレビマンとしての心構えのようなものを学んだ気がします。

そして、ジャイさんと出会っていなければ、今の自分はないと思います。ジャイさんから教えられたのは、『人がどう思うかではなく、自分が面白いと思うものを作るんだ』という、作品に対する強い姿勢ですかね。そして、とにかくスケールが大きい。役者さんの魅力をどう引き出すかということはもちろん、物事の本質を見抜くことの大切さ、目の前のことに捉われず先の先を見抜くことの必要さ、さらにはスタッフとのチームワークで生む出すパワーなど、挙げるときりがありません。出会いは、『白い影』のスペシャル(「白い影 直江庸介を憶えていますか」2003年)だったんですが、実はそれまでの2年間くらい、僕はドラマ制作に関わっていなかったんですね。でも、ジャイさんはそんな私でも分け隔てなく、他のスタッフと同じように接してくれて。…と言っても厳しかったですけどね(笑)。とにかく、演出はもちろんのこと、ロケーションからカメラアングル、キャスティングの細部まで、いい画を撮るためには極限まで突き詰める方で。監督だから当然なんですけど、私もかなり追い詰められまして。ところが、そのドラマがクランクアップしたときに、『おまえがキャスティングした役者さん、よかったよ』と言われて。その瞬間に全て許せちゃったというか、『この人に付いていこう』と決めました(笑)。

ジャイさんと植田さんからは、本当にたくさんのことを教えてもらいましたし、今でも教えていただいていると思います」

■ 「今という瞬間を詰め込んだ作品は、決して古びることはない」

──伊與田さんは、数え切れないくらいたくさんのヒット作をプロデュースされているわけですが、ドラマのプロデューサーとして、常に心掛けていることや、大事にされていることは?

「原作のある・なしに関わらず、一番初めに企画を立ち上げるときに抱いた『このお話の面白さの肝は、ここなんだ』という思いを大切にしたい、というのはありますね。特にオリジナルのときは、制作していく過程で作品全体の方向を見失いそうになることがたまにあるんですけど、そういうときは必ずその“一番最初の思い”に立ち返るようにしています。そこはずっとブレてはいけないと思いますね」

──逆に、「一番最初の思い」とは違う作品が出来上がってしまうこともあるのでしょうか?

「もちろん、ありますよ。と言うより、やりながら少しずつ変わって成長していくという感じですかね。僕の場合、幸せなことに、スタッフもキャストも優秀な方々と組ませていただけているので、『この側面は思ったこととズレたけど、こっちの側面がとんでもなく優れている』というような美点があったりするんですよね。例えるなら、最初は150/hのストレートを投げようと思ってたのが、球速は遅いけど切れ味のいいカーブで空振りが取れちゃった、みたいなことがあったりするんです(笑)。そういうときは、もう頭を切り替えて、カーブを極める方向にシフトチェンジする。結果、最初の思いとは方向が違っても、新しい発見が生まれて面白い作品ができたこともあります。そういう意味では、『うわぁ、やっちゃった』みたいな大失敗の経験は一度もないですね」

――伊與田さんのプロデュース作品は、いわゆる“社会派”ドラマとして評価されることが多いと思うのですが、そのあたりはご自身でも意識されているのでしょうか。

「“社会派”かどうかはよく分からないんですけど、僕としては、世の中で起きている現象とか、時代の空気みたいなものを、視聴者の方々にメッセージとして伝えられたらいいなと。僕は常々、テレビ番組というのは、時代を封じ込めた“缶詰”だと思っていて。今という瞬間をギュッと濃縮して作品に詰め込むことができれば、それは絶対に面白いものになると思うし、20年、30年経っても、決して古びることはないと思うんですよ。そういった、テレビドラマの普遍性みたいなものは、TBSに限らず、先人の方々が作られてきた作品を見ても感じますからね。さらに言えば、しっかりと今という時代を詰め込んだ面白い“ソフト”さえ作り続けていれば、地上波からネット配信などへ“ハード”が移り変わったとしても、きっと多くの方々の心に届くはずだと考えています」

■ 「『ブラックペアン』では、医療ミステリーとしての面白さの裏に潜む人間ドラマを描きたい」

──現在は、4月からスタートする新ドラマ「ブラックペアン」をプロデュースされていますが、海堂尊さんの小説「ブラックペアン1988」をドラマ化しようと思われたのは?

「たまたま原作を手に取って読んでみたら、すごく面白かったんですよ。『えーっ!?』『で、どうなるの?』と、あっという間に読みふけってしまって。きっかけはそれだけです。

原作は、世良(竹内涼真)が主人公なんですが、僕としては、渡海(二宮和也)というダークなキャラクターにも非常に大きな魅力を感じて。ですからドラマでは、渡海を主人公に据えて、渡海を取り巻く人間模様を世良の目線で描く、という形を取っています」

──原作は1988年が舞台になっていますが、ドラマ化するに当たって変えている部分はあるんでしょうか?

「医療は日々進歩していますから、技術的な描写は現代に置き換えています。その点は、海堂先生ともご相談しながら進めさせていただいています。ただ、医療に関しては現代に置き換わっていますが、キャラクター同士の人間関係はほとんど変えていません。というのも、技術がどんなに変わっても、人間の本質というのは変わらないと思うんですよ。今回は、医療ミステリーとしての面白さの裏に潜む、対立し合う人間たちのエゴや、その裏返しとしての愛情を、しっかりと描きたいと思っているんです」

──“日曜劇場”という枠で放送されるにあたって、意識されていることはありますか?

「日曜劇場だから、ということではないんですが、家族で見ていただける作品を目指していますし、海堂先生が『このスタッフに原作を預けてよかった』と思ってもらえるものにしたい。その目標に向かって全力で頑張っています。

この前、(本作のメイン監督である)ジャイさんと話していたら、今回、カット数が『陸王』の約3倍あることが分かって。その意味では、映像的にも新たな試みに挑戦していますし、僕自身においても、新しいジャンルに踏み出しているんじゃないかと思います。少なくとも、みなさんの期待を裏切ることはないと思うので、ぜひご覧になっていただけたら」

──では最後に、今後プロデューサーとしてやってみたいことは?

「目の前のことを一つ一つこなしていくので精いっぱい、というのが正直なところなんですけど(笑)。ともあれ、そのとき、そのときに一番面白いと思うものを、常に追い求めていけたらいいのかなと。そして、自分自身が面白いと思えるものがある限りは、走り続けたいと思います」(ザテレビジョン)