実家で暮らす独身が30年で激増しています(写真:Fast&Slow / PIXTA)

未婚化がとまらない――。


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日本の未婚化・ソロ社会化が、海外でも多くの注目を集めています。フランス、カナダ、韓国、中国といった海外メディアで拙著『超ソロ社会』が取り上げられ、私自身が取材を受けることもしばしば。日本以上に「日本の未婚化」に関心があるとさえ感じますが、これは海外でも未婚化の問題が対岸の火事ではないからです。日本のソロ社会化は世界が注目する事件になりつつあるのです。

皆婚時代だった1980年から何がどう変わったのか

そんな日本もつい30年前までは全員が結婚する皆婚社会でした。そのカラクリについては「100年前の日本人が『全員結婚』できた理由」という記事に書きましたが、そんな皆婚時代だった1980年と2015年とではいったい何がどう変わったのでしょうか? 各年齢層別の未婚者数で比較してみたいと思います。


棒グラフの向きが下向きの部分は、2015年のほうが減っているという意味です。こうしてみると、20〜24歳の男女および25〜29歳の男性に関しては1980年より未婚者数が減少しています。これは決してこの年代の層の結婚が増えたわけではなく、単純に少子化の影響でこの年代の人口母数が減っているからです。

未婚者数が最も増加したのは、40〜44歳男性、続いて35〜39歳男性。つまりアラフォー男子の未婚者数がこの35年間で激増しているのです。一方、女性は25〜44歳にかけてほぼ同人数未婚者数が増えています。これは、女性の大学進学率の上昇とその後の晩婚化・非婚化の影響が大きいと思われます。いずれにせよ、男女とも35〜44歳のアラフォー世代の未婚者が全年代でいちばん増加しているということになります。男女合計で約370万人の未婚者がこの年代だけで増加しており、これは全年代の未婚者増分の約4割を占めます。

単身未婚と親元未婚

未婚の独身者というと、一人暮らしをイメージしがちですが、未婚者には単身未婚と親元未婚という2種類が存在します。親元未婚とは、親と同居する未婚者を指します。総務省統計研修所の西文彦著「親と同居の未婚者の最近の状況」というレポートから、親元未婚の状況についてご紹介していきます。

2015年時点で、未婚者のうち20〜50代の親元未婚者は男女合わせて約1430万人。未婚者人口全体に占める割合は68%と約7割の未婚者が親と同居しています。20代前半ならば学生や低所得のために親との同居はやむをえないでしょう。しかし、アラフォー世代であっても、親元未婚者数は男182万人、女126万人の計308万人。アラフォー前未婚者のうち約65%が親と同居しているのです。人口比にしても17%ですが、決して低い数字ではありません。1980年の4.9%と比較すれば3.5倍増になります。

次に、男女別親元未婚の経年推移を、アラフォー人口に対する未婚率で見てみましょう。

男女とも1980年代は、親元未婚より単身未婚のほうが多かったのに、生涯未婚率が急上昇を始めた1990年代から逆転しています。現在は、男女とも差分で親元未婚が20%程度上回っています。実数では1980年からの35年で単身未婚は98万人増であるのに対し、親元未婚はなんと約3倍の270万人も増えているのです。

特筆すべきは、親元未婚の比率がずっと右肩上がりであるのに対して、単身未婚は男女とも2010年から2015年にかけては下降していることです。単身未婚率は下がっているのに全体のアラフォー未婚率が上がっているのは、親元未婚のせいなのです。


この現象は、アラフォーだけではなく、その下の若年層(20〜34歳)世代でもまったく同様です。2015年の若年層の親元未婚率は人口比約47%にまで達しています。つまり、日本の未婚率を上げた最大要因とは、親元未婚の増加だったと言えます。

日本に限った話ではない

実は、これは日本に限らず世界的な傾向です。米国の国勢調査局の「American Community Survey」によると、18〜34歳男女の親との同居率が2005年は26%だったのに対し、2015年には34%まで上昇しています。また、EU加盟国28カ国では、2005年に同47.5%だったのに対し、2012年には同48.2%に微増しています(EU統計局『Living conditions in Europe』)。どちらの調査も未婚者に限った調査ではありませんが、若年層の親同居率が増えていることは間違いありません。

なぜ、これほどまでに親元未婚者が激増しているのでしょうか? 日本での増加は、1990年代のバブル崩壊時期以降です。景気低迷に伴う雇用不安、給料の減少などで、ニートやパラサイト・シングルなどが騒がれだした時期と一致します。

総務省統計研修所の資料の中には、35〜44歳のアラフォー親元未婚者のうち、「基礎的生活条件を親に依存している可能性のある数字」も算出しています。完全失業者、無就業・無就学者、臨時雇い・日雇い者の3つをこの該当者として算出していますが、今回は、完全失業者、無就業・無就学者の合計値に絞って、1980年からの男女合計の推移を見てみることにします。


これで見ると、確かに経済的に親に完全依存する無業の親元未婚数は増加していますが、全体の上昇率と比べると微々たるものであり、これを見るかぎり、決して「無業の未婚者が増えたから親元未婚が増えた」とは言えません。

2012年の就業構造基本調査から、アラフォー世代の未婚とそれ以外の年収別分布グラフをご覧ください(参考値として、無業者も付加していますが、こちらは有配偶とそれ以外という区分けのため厳密に未婚者データではありません)。

年収300万円未満の未婚者

これによれば、無業を含む年収300万円未満の未婚者で全体の過半数を占めています。職なし収入なしだから仕方なく親と同居している層だけではなく、たとえ働いていてもとても経済的に自立できない層が増えたためと見たほうがいいでしょう。


しかし、この親元未婚の増加の原因は、それだけではありません。もうひとつ別の深刻な問題が発生しています。いわゆる「8050問題」です。これは、80代の親と50代の子が暮らす世帯が経済的に困窮し、社会から孤立してしまう問題を指します。親元未婚世帯は、やがて親子共倒れという結末のリスクを抱えています。まさにアラフォー親元未婚者たちは、数年後こうした事態に直面してしまうのです。

親元未婚急増の原因は「経済的貧困で親に依存する子どもが増えた」だけではなく、ちゃんと仕事もし、もともと経済的に自立していた未婚の子が、親の介護のために同居を余儀なくされる場合もあるのです。同居だけならまだしも、そうした状況から介護離職せざるをえなくなり、やがて経済的困窮から心身ともに疲れ果て、ついには親を手にかけてしまうという介護殺人事件が2週間に1回の頻度で起きているそうです(『「母親に、死んで欲しい」: 介護殺人・当事者たちの告白』NHKスペシャル取材班著より)。

記憶に鮮明な、2006年に起きた「京都認知症母殺害心中未遂事件」はまさにそれです。認知症を患う母親(当時86歳)を一人で介護していた息子(当時54歳・未婚)が、母の首を絞めて殺害。その後、自らも自殺を図ったが未遂に終わった痛ましい事件でした。

日本人は家族だけに依存してしまっている

こうした悲劇を生み出す要因は、日本人の生活意識に見られます。2015年実施の内閣府による国際比較調査(各国60歳以上の高齢者を対象)によれば、「病気や日常生活に必要な作業について家族以外に頼れる人」という設問に対して、日本人だけがほかの国と比べて極端に選択肢がないことがわかります。いかに私たち日本人は家族だけに依存してしまっているかかが明らかです。これは、現役世代のうちに家族以外との「人とのつながり」を構築できていないという証拠でしょう。


これは未婚者だけの問題ではありません。結婚しても皆同様に起こりうる問題です。配偶者や子どもしか頼る人がいない。家族しか頼れない。そんな家族だけへの唯一依存体質、そうした意識を一人ひとりが変えていく必要があります。もちろん、すべてを個人の自己責任に押し付けてしまう社会構造にも問題はあります。

前述した京都の事件の判決の際、裁判官は最後にこんな言葉を残しています。

「本件で裁かれるのは被告人だけではなく、介護保険や生活保護行政のあり方も問われている」

未婚化、晩婚化、少子化、高齢化、離婚増加やそれに伴うシングルマザー増加の問題など多くの問題は、決して個別に切り離して考えるべき問題ではありません。すべて全体として「ソロ社会化」という方向へつながっている問題なのです。だからこそ海外の注目も集めているのでしょう。未婚者だけではなく、結婚しても誰もが「ソロに戻る可能性」があるし、「ソロ社会化」は全員が自分ごととして考えるべきなのだと思います。