誰にでも始められるプロデュースの思考法とは?(写真:Graphs / PIXTA)

仕事で「プロデューサー」という役職を任された。新規事業部へ異動になった。イベントを企画したい。ウェブサイトやローカルメディアを立ち上げたい。何かしら地域を活性化させる活動をやりたい。でも何から手をつけていいのかわからない……。そうして立ち止まっている方もいるのではないでしょうか。
大阪ガスの社員として文化事業や地域活性化事業に携わりながら、1000件以上の地域イベントを手掛けてきた山納洋さんが、著書『地域プロデュース、はじめの一歩』から、誰にでも始められるプロデュースの思考法を紹介します。

そもそも「プロデューサー」って、何をする人?

さて、最初に質問です。みなさんは「プロデューサー」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるでしょう?

従来、「プロデューサー」とは、「モノやコトを創るプロジェクトの総元締」を意味する役職として使われてきました。たとえば、映画や演劇などの創作の現場において、作品の方向性を指し示し、クオリティに責任を持つ「ディレクター」(監督や演出家)に対して、企画・予算管理・宣伝や配給の交渉など、作品制作の周辺にあるすべての仕事を取り仕切るのが「プロデューサー」です。つまり、プロデューサーはプロジェクトを最初に構想して、プロジェクトに必要な座組みを決めるという、重大な役割を担っています。

最近では、一般のビジネス分野においても、プロデューサーという職種名が使われることが増えています。プロデューサーには、さまざまな能力を持つスタッフを集め、彼らの創造性や特性を最大限に引き出し、コラボレーションを引き起こすことで、新たな価値を世の中に届けるという役割が期待されています。

プロデューサーには、気づく力、物事を大枠でつかむ力、言葉を踏まえてコンセプトを立てる力、仕組みを作る力、人のモチベーションを引き上げる力などが求められます。

こうした能力を考えるうえでわかりやすいのは、「6W2H」という視点です。

「6W2H」とは、When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What (何を)、Why(なぜ)、Whom(誰に対して)、How(どのように)、How much(いくらで)の8つの頭文字をとったものです。

この8つの要素を整理し、明確にできれば、プロジェクトは動きます。企画書や事業計画書を観察してみると、必ずこの8つが網羅されています。

きっかけは、誰かの「ジレンマ」に気づくこと

実際のプロジェクトにおいて、この「6W2H」の中で特に重要なものは、Why(なぜ)、Whom(誰に対して)です。

「プロジェクトを起こそう!」という思いが生まれる背景には、やってみたいことが見つかった、有効に生かされていない資源を見つけた、今ある仕組みでは解決できない問題に気づいたなど、何らかの「気づき」があります。

僕が何かのプロジェクトを始めるときには、誰かのジレンマへの気づきがきっかけとなっています。

ジレンマが誰かの悩みや愚痴として聞こえてきたとき、僕は、「そんなことを言わずに頑張れ」とは言わず、その背景に構造的な問題があるのではないかと考えるようにしています。

たとえば、カフェをやりたいけれど、今の仕事を辞めて数百万円をかけて開業しても儲からないかもしれないとか、イベントを行いたいけれど会場を借りたり集客したりする資金やノウハウがないとか。

2004年に、大阪・中崎町に日替わりマスターの「common cafe」をオープンさせたのも、そうした背景があったからでした。14年経った今も、昼間はカフェ、夜はバーとして日替わりマスターで運営しつつ、ライブやトークイベント、展覧会などを行っています。

僕にとってのプロデュースとは、こうしたジレンマに気づき、それを解消するために知恵を働かせ、行動を起こすことなのです。

次に考えるのは、どうすればジレンマを解消できるのか、ということです。

僕がジレンマの存在に気づいたときには、同じように悩んでいる人はほかにもいるのか、そこには構造的な問題があるのか、その問題について有効な取り組みをしている事例はあるのか、などいろいろ調べます。アンテナを立てていると、たまたま読んだ新聞や飲み屋で聞こえてきた会話の中からも、ヒントが見つかります。

そのことを身近な人に話します。すると「こんな取り組みがある」「知り合いにこんな人がいる」という情報が集まってきて、解決のためのアイデアが浮かんできます。

今度は、そのアイデアをいろんな人に話します。それが共感や賛同を得られて、大きなバグがなさそうだとわかったら、小さなプロジェクトとして世に問うのです。

このプランには、「What(何を=実施内容)」「How(どのように=実施のための手段)」「Who(誰が=事業主体)」と、それらの具体化に必要な「When(いつ=実施日時)」「Where(どこで=実施場所)」「How much(いくらで=予算)」が含まれています。これらが調整できれば、プロジェクトは実際に動きます。

そうしたプロジェクトの中には、マルシェを開催する、コミュニティカフェを作るなど、すでにあちこちで実施されている企画もあれば、ワインを醸造する、地域の物語を演劇化するなど、誰でもできるわけではない企画もあります。また、卵かけごはん選手権を開催するというような、「ようそんなん思いついたなあ」というものもあります。

プロジェクトを長く続けるために必要なこと

プロジェクトを進めるうえで「誰がやるか」はとても重要です。

プロジェクトとは、基本的に「やりたい人」がやるものですが、「やりたい人」だけでは実現不可能な場合には「やれる人」の力を借りなければいけません。ブレインストーミングなどで、「Who」を決めないまま、「What」や「How」の話をどんどん進めているシーンを見かけますが、これは言わば「絵に描いた餅」の状態です。

さらに、この「やりたい人」「やれる人」だけでもプロジェクトは実現しますが、長く続けるためには「やらなければいけない人」が必要です。この存在が欠けていると、「やりたい人」が他にやりたいことを見つけて、そちらに注力した場合に、元のプロジェクトは宙に浮いてしまいます。

「やらなければならない人」とは、課題の当事者です。ビジネスであれば、プロジェクトの責任者であり、新商品開発を任された担当者でしょうし、地域のプロジェクトであれば、行政であり、地域に根を張る事業者であり、地域に暮らす生活者であり、その課題をミッションとして引き受けた人です。

ただ、「やらなければいけない人」がいない場合、いてもやりたくない場合には、どうしたらいいのでしょう?

「トム・ソーヤーのペンキ塗り」に学べ

小説『トム・ソーヤーの冒険』には、おばさんから罰として塀のペンキ塗りをやらされていたトムが、さも楽しいことをやっているようにふるまって、通りかかった友人たちに代わりにやらせてしまうというエピソードが出てきます。

ここに、プロデューサーにとって大事なことが見事に表現されています。それは、「やらなければいけないこと」をみんなの「やりたいこと」に変える、ということです。


成功がいまだ保証されておらず、予算も十分にないプロジェクトの立ち上げ期には、メンバーのモチベーションを維持できないことも少なくありません。

ここで、プロデューサーはいくらかトム・ソーヤーになる必要があります。自ら現場の仕事を楽しみ、みんなが参加したいと思える夢やストーリーを語り、多くの人たちを巻き込んでいくのです。

そうしているうちに、「自分よりもやりたい人」が出てきます。僕の場合は、誰かのジレンマを起点にしていますから、自分よりもそのプロジェクトを求めていて、実現のためにモチベーション高くかかわってくれるメンバーが必ず現れます。彼らが「やらなければいけない人」として、プロジェクトを動かしていってくれます。

プロデュースというとすごいことのように思われるかもしれませんが、すべては小さなプロジェクトから始まります。そのトライ・アンド・エラーは、経済合理性を追求する観点からは無駄な取り組みに思えるかもしれません。しかし、プロジェクトを通じて得られる気づきや経験知、人脈、信頼などは、自分を大きく成長させるばかりでなく、長い目で見るとビジネスや社会を健全な方向に導く大切な営みなのです。