米国で離婚率が下がり続けている理由とは?(写真:YakobuchuOiena/PIXTA)

一時は、「2組に1組が離婚している」とも言われた離婚大国の米国。が、同国では、実は1980年をピークに離婚率が下がり続けており、2016年には過去40年間で最低水準となった(以降の統計は未発表)。

米オハイオ州ボウリング・グリーン州立大学の家族と結婚に関する研究センターによると、15歳以上の女性1000人当たりの離婚率は、近年最高だった2008年の20.5から減少しており、2016年には16.7に。ピークの1980年(22.6)からは26%も減っている。最も離婚率が低かったマサチューセッツ州では、12.0だった。

離婚するにはおカネがかかる

南カリフォルニア大学の社会学者、カレン・スターンハイマー氏によると、1970年代に離婚率が増えた背景には、女性の社会進出に加えて、1969年にカリフォルニア州で無過失離婚が認められたことがある。これによって、婚姻関係の解消を求めるのに相手側の過失を証明する必要がなくなったのだ。

では、ここへきて離婚率が下がっている理由は何だろうか。これには、経済的なわかりやすい理由から、米国人がより自立したからという興味深い見方まである。

「経済的な理由が大きいのでは」と話すのは、2人の子どもを持つワーキングマザーのジェシー・マディソンだ。「離婚するのには、多くの費用がかかる。安くあげるのは難しい」と彼女は言う。

実際、米国で離婚は、年間約280億ドル(約3000億円)を稼ぐ「大型産業」だ。州によってかかる費用は異なるものの、平均費用は約2万ドル(約220万円)程度とみられている。

法律問題の調査を行う米マルティンデール・ノロ・リサーチによると、マサチューセッツ州の場合、平均費用は1万5900ドル(約170万円)程度だが、未成年の子どもを伴う場合は、この費用は2万3900ドル(約255万円)に膨れあがる。富裕層のカップルの場合、扶養手当や財産分与をめぐって裁判になることも少なくなく、同州の場合、裁判にかかる費用は2万2100ドル(236万円)に上る。

マディソン夫婦が結婚生活を続けることを決めた理由も、離婚にかかる費用や2人の共有財産、2人の子どもの存在だったという。10代の頃に出会った2人は、10年の交際を経て結婚。ところが、2年前に離婚危機が訪れた。

「断続的な不幸に私たちは見舞われた」と妻のジェシーさんは振り返る。重い病気の子どもを抱える彼らの両親の1人が亡くなり、もう1人が認知症と診断されたのだ。こうした出来事が起こる前から、夫婦の絆は弱くなっており、度重なる困難を2人で乗り越えるのは難しいように思えた。

夫婦の25%は将来的な離婚を考えている

夫妻は離婚を考え始めたが、その過程で、離婚にかかる費用を見積もった結果、楽観的に離婚できるような額ではなかったという。

離婚後の経済面にも懸念がある。2人の子どもを持つワーキングマザー、シャンテル・スタントンさん(結婚歴15年)は、結婚生活を続ける理由の1つを「離婚して2世帯をやりくりしなければならないのは、高くつくから」と話す。彼女の趣味は旅行だが、離婚した場合、今のように旅行に行くことは難しくなると考えている。

とはいえ、一度は離婚を考えたことがあるという彼女にとって重要なのは、「子どものために安定した家庭を保つこと」だった。驚くことではないが、これはほとんどの人が結婚生活を続ける最大の理由である。

ハフィントン・ポストの調査によると、夫婦4組に1組は子どものために一緒に暮らしているだけで、彼らが成長したら離婚を計画しているといい、子どもを持つ既婚者2000人のうち、18%は婚姻関係を終わらせる具体的な日程があるという。

実際、家族と結婚に関する研究センターの調査によると、結婚20年目の離婚率は、10年目の離婚率より高くなっている。つまり、一部の人はすべての子どもたちが家から巣立つのを待って、不幸な結婚生活に幕を下ろしているのである。

スタントンさんはまた、最近米国で続発している高校などでの銃の乱射事件を挙げ、「犯人たちは皆、父親が子育てにかかわっていなかった」ことを懸念している。「いい父親像」がなかったため、子どもの精神的な安定が保てなかった、と考えているのだ。

もっとも、父親がいたところで事実上破綻している家庭もあることから、スタントンさんは「必要なのはよい家庭環境だ」と強調する。こうした中、彼女は家族カウンセリングなどを利用しながら、夫とよりよい関係を構築することに尽力しているという。

「従来の結婚」とは違う夫婦のあり方を模索する人たちが増えていることも、離婚率低下につながっているという見方もある。

「ペアレンティング・マリッジ」という新概念

たとえば、スタントン夫妻は、離婚を回避する策の1つとして、「ペアレンティング・マリッジ(子育て結婚)」という概念を受け入れようとした。これは、『Contemplating Divorce(離婚を熟考する)』などの著書で知られるスーザン・ピース・ガドウア氏が提唱するもので、自らの立場を「恋人、親友、共に子どもを育てる親を兼ねた配偶者から、何はともあれ共に子どもを育てる親へと変更する」ものだ。ちなみに、同氏によると、「親友という立場に変更することはできるが、恋人であり続けるのは難しい」。

ガドウア氏はこの8年間、米国中の多くのカップルを「伝統的な結婚から、この非伝統的な、同種だが別の形の結婚」へと移行させてきた。多くの人は、愛と親密さを取り戻そうとするよりも、同居人かつ共に子どもを育てる親として共存できるほうがうまくいくことがわかっている、という。

それでも、「結婚の精神」を取り戻したいと考えるカップルにとっては、結婚セラピストの存在が大きいかもしれない。実際、マディソン夫妻も離婚しないと決めた後、セラピストを訪れた。そして、お互いの思考のクセを直し、再び愛し合うことを学ぶにはどうしたらいいかを学んだ。

その後、夫妻はカップルとして2人きりで過ごす時間を増やして、お互いにより触れ合うようにし、互いの不機嫌の「引き金」は何かを把握する努力をした。以前の夫婦げんかは戦争の様相を呈していたが、今では相手が自分の意見に同意しないことも受け入れ、気持ちを切り替えることができるようになったという。

離婚率が低下したもう1つの理由としては、ミレニアル世代のように結婚自体をしない、あるいは、結婚する年齢を遅らせる人が増えたこともある。

科学技術ニュースのサイエンス・デイリーによると、1980年代生まれの女性が、20代、30代、40代で結婚していない比率は、1940年代生まれの女性がそれぞれの年代で独身だった比率から大幅に高くなっている。

背景には、ミレニアル世代の多くが、結婚を決める前に同棲することを選んでいることがある。社会学者のウェンディ・マニング氏が、家族と結婚に関する研究センターに集積されたデータを分析したところ、1965〜1974年に結婚した女性のうち、結婚前に同棲していたのは11%だったのに対して、2009年には66%の女性が同棲することを選択していたという。

そして「愛に目覚めた」現代人

同氏は『結婚と家族のジャーナル』誌に、同棲を経ることによってミレニアル世代の結婚がより長く継続する傾向がある可能性を指摘。「最近の結婚では、結婚前の同棲により離婚の危険が減っている」と、結論づけている。

ミシガン大学の経済学者、ジャスティン・ウォルファース氏も同様の指摘をしている。同氏がデータに基づいた分析をした結果によると、2000年代に入ってから結婚した人々の離婚率は、1970年代後半や1980年代、そして1990年代に結婚した人々の離婚率よりも今のところ低い。

同氏は離婚率が低減している理由はいくつかあるとしているが、そのうちの1つとして「現在は、結婚は愛がすべてとなっている」ことを挙げている。「かつてのようによい主婦やよい稼ぎ手と結婚するのではなく、魂の伴侶を見いだすために結婚しているのだ」。

メリーランド大学カレッジパークの社会学者、フィリップ・コーエン氏は、かつて離婚率が上昇したのは、新たに自己決定権を得た結果だったの対し、ここへきて離婚率が下がっているのは、婚姻関係がより自主的になったことが関係していると指摘する。

「相互への依存度が低く、関係性をより自由に選べることによって、関係自体の質が改善している。生活のために結婚を続けるという要素が減れば、私の意見では2人の関係の質はグッと向上する」(コーエン氏)

過去40年間で、米国では結婚を含めて生き方の多様化が加速度的に進んだ。これによって、個々がより自由に生きられるようになった結果、結婚が「生活のための手段」から「幸せに生きるための選択肢の1つ」に変わったのである。