東急ハンズ新宿店は全国の東急ハンズの店舗で最大の売り上げを誇る。その新宿店は3月から売り場改革に乗り出した(記者撮影)

文具やDIY用品、健康グッズを中心に、「ここに来れば何でもそろう」といわんばかりの品ぞろえで顧客を獲得してきた東急ハンズ。創業42年目に突入した同社が今、売り場改革に乗り出している。

高島屋と同じビルの2階から8階にまたがる新宿店は、国内の東急ハンズ47店舗のうち、最大の売り上げを誇る大型店だ。3月1日から、その新宿店のフロア各所に7人の“店主”が登場した。

個性やこだわりが強い社員

5階のインテリアフロアの一角には、睡眠にかかわるコーナーの店主・安土知宏さんが常駐する。複数のメーカーが販売するマットレスや布団、枕の中から客の要望に合った商品を探し出す。満足いく枕が見つからない場合、オーダーメード品の注文にも対応する。アロマなどの関連用品も提案し、さながら睡眠のコンシェルジュといった雰囲気だ。


睡眠コーナーの店主・安土知宏さんは、できるだけ自費で商品を購入し、商品のコストパフォーマンスを確かめる(記者撮影)

安土さんはこれまで、20年近く売り場での販売業務に携わってきた。店頭販売する商品の費用対効果を見極めるため、各メーカーの商品はできるだけ自ら購入し、使い心地を確かめるのがこだわりだ。

「メーカーからいただいたり借りたりしたものは、採点が甘くなる。自分で買った商品はジャッジも厳しくなるが、よいと感じた商品はお客様に強く薦めることができる」(安土さん)

安土さんのような店主を務めるのは、店舗販売や本社業務を経験してきた東急ハンズの社員だ。社内公募や指名により、特に個性やこだわりが強い人を集めたという。靴のケアやクラフト、コーヒーなどといったテーマ別にコーナーを受け持ち、オススメ商品の紹介や、客の要望に応じた最適な商品の提案、情報発信を行う。商品の仕入れに関しアドバイスをする権限も有しており、新宿店では9月末までに店主を20人まで増やす予定だ。

東急ハンズは従来、ミキサーや洗剤などの実演販売や、客の個別相談への対応は行っていた。だが、3月からあえて店主を常駐させた背景には、消費環境や顧客層の変化に対する危機意識がある。

ネット上で戦うには限界

東急ハンズの直近10年の売上高は、年間800億〜900億円前後と横ばいが続いている。同社や親会社である東急不動産ホールディングスには、事業の成長に向けたテコ入れが必要との認識が強くあった。


4階にあるコーヒーのコーナーでは、店主・向井崇広さんがハンドドリップに必要な道具を紹介したり、最近のトレンドを発信したりする(記者撮影)

売り上げが伸び悩む要因の1つが、EC(ネット通販)の拡大だ。アマゾンを筆頭に国内でもネットでの買い物が急速に浸透し、顧客の流出と売り場の「ショールーム化」が進んだ。

ハンズ独自のECサイトも設けているが、ECは実店舗以上に価格競争に陥りがち。特に同社は売上高に占めるPB(プライベートブランド)の比率が3%弱にすぎず、メーカーなどから仕入れるナショナルブランド商品が売り上げの大半を占める。中〜高価格帯の商品の定価販売が多く、価格競争の激しいネット上で戦うには限界もある。

一方ECでは、目的の商品やその関連商品以外のものが買い手の目に入ることは少ない。その点、東急ハンズはモノをただ売るのではなく、想定していなかった商品との出合いや、素材の組み合わせで新しい発見が生まれるような店舗づくりを重視してきた。店主とのやり取りを通じて、こうした出合いや発見が生まれるきっかけを増やし、実店舗ならではの強みを色濃く打ち出す狙いがある。


靴のケア用品を扱うコーナー(6階)の店主・藤田康雄さんは、長年売り場を担当してきたベテラン社員。靴に関する話になると熱弁を振るう(記者撮影)

さらに、同社の経営幹部が「最大の課題」と認めるのが顧客層の高齢化だ。東急ハンズは1976年に創業。東急不動産が、坂の多い渋谷に保有する土地の活用策を考え抜いた結果、自ら小売業を始めたことにさかのぼる。

他社にない斬新な品ぞろえと売り場構成で、1978年の渋谷店開業後は老若男女から幅広い支持を集めた。だが、創業時からの熱心なファンは60代を超え、来店頻度も低下。現在の顧客層は40〜50代が中心となり、若い世代の取り込みは、ロフトや無印良品など同じく生活雑貨を扱う後発組に後れを取っている。

店舗主導の仕入れを復活

新規顧客も開拓しようと、新宿店では3月から新商品の投入やレイアウト変更を行った。これまで豊富な商品がきれいに陳列された「巨大なコンビニ」のような状態だったが、特定のテーマに沿った商品紹介を強化するなど、売り場の見せ方にメリハリをつけた。


戸村伸子さんが店主を務めるホビーコーナーはマニアックな商品が目立つが、若い女性客も意外に多いという(記者撮影)

7階の理科系や社会科系のアイテムを扱う売り場では、若年層もターゲットにミニチュア版の道路標識を導入。「以前の売り場はもう少し地味で、会社帰りのサラリーマンの男性客が多かった。若者にも興味を持ってもらえるような入り口を作りたい」(ホビーコーナーの店主・戸村伸子さん)。

新宿店以外でも、店舗ごとに合った改革のあり方を検討していくという。同社では2006年から全店舗の商品について原則本社が一括仕入れをしてきたが、独創的な面白みのある商品を増やすため、大型店を中心にかつて行われていた店舗主導の仕入れを復活させる動きが出てきた。

全国的に東急ハンズの名前は広く知られているものの、社員の1人は「お店の中は実際にどんなふうなのか知らない人は多い。認知度の高さにあぐらをかいていた部分もある」と語る。「足を運べば面白いものが見つかる」と思わせるような店舗の魅力を発信できるかが、今後の成長のカギとなる。