携帯電話の新規契約や機種変更の際、販売店で多くのオプション契約を勧められた人は少なくないだろう(撮影:梅谷秀司)

「最初の1カ月は無料なので、後で解約すればいいです」

携帯電話の販売店で新規契約や機種変更をする際、販売員からそんなことを言われたことはないだろうか。端末購入代金の割引条件として、動画配信や電子書籍などのオプションサービスへの加入を勧める手法だ。ただ利用者が不要なオプションにまで加入させられるケースが多く、以前から問題になってきた。

「ご契約のサービス無料期間の終了が近づいてまいりましたのでご案内いたします」

NTTドコモは2月1日から、オプションサービスの利用者に、こうした文面の通知を始めた。ショートメッセージ(SMS)やEメールで送られ、添付のURLから不要なオプションを選択し解約できるウェブサイトに飛べる。オプションの無料期間は契約日から31日間だが、その前の28日目に通知が送られる。KDDIやソフトバンクでも、こうした通知を行うようになった。ドコモは通知を始めてまだ2カ月だが、実際に解約率は上がったという。

なぜ「レ点商法」が横行したか

こうした営業手法が横行した背景には、販売店がオプション契約を取れば取るほど、キャリアからもらえる販売奨励金や継続手数料が増えるという仕組みがある。さらに以前は、オプションを箇条書きした書類にまとめてチェック印を入れて加入させる「レ点商法」が当たり前のように行われ、批判を集めてきた。

このレ点商法は2015年以降、ほぼなくなっている。総務省が同年に電気通信事業法を改正して消費者保護を手厚くし、各オプションの丁寧な説明やオプションひとつずつの契約書作成を求めたためだ。ただ昨年2月、総務省の有識者検討会はそれでは不十分として、大手キャリア3社に対し、「オプションの無料期間の終了は、事前通知を行う運用を基本に検討すべき」と指摘。総務省は、9月に消費者保護のガイドラインを改定し、「継続加入意思の確認のため、無料等期間の終了の事前通知が適切」という文言も盛り込んだ。


NTTドコモが利用者に送信している、オプション契約の無料期間終了通知とサイトへの画面遷移の様子(写真:NTTドコモ

総務省側が目を光らせるのには、理由がある。販売店とキャリアの関係に加え、スマートフォンの契約形態や料金体系が「わかりにくい」と思われているためだ。総務省がまとめた2016年7月〜2017年3月の調査では、大手キャリアに関する苦情や相談の内容のうち、「料金支払い(身に覚えのない請求等)」が約3割を占めトップで、オプションへの苦情も多いという。総務省の消費者行政第一課の担当者は、「スマホの契約にはたくさんの項目があり、代理店での短い説明では理解しきれない利用者もいるのでは」と話す。

フィーチャーフォン(ガラケー)の生産終了に伴い、今後スマホに移行してくる高齢者の増加も想定される。総務省の調査によれば、苦情や問い合わせの年代別の割合では60代以上が34%を占めており、利用者数の割に比率が高い。こうした背景もあり、ライフラインとなったスマホなどの携帯の契約には、より丁寧な説明が求められている。

iPhone半額」のカラクリと思惑

ただ、携帯販売をめぐる問題はこれだけではない。「今後、苦情が殺到するのではないか」。別の総務省関係者は、昨秋始まったある契約手法を強く懸念している。


KDDIとソフトバンクの「iPhone」の販売方法をめぐり、国や専門家が強い懸念が抱いている(撮影:尾形文繁)

iPhoneを実質半額で買えます」。KDDIの「アップグレードプログラムEX」と、ソフトバンクの「半額サポート」という、iPhoneの販売プランだ。キャリアが指定するiPhoneを買う際に端末代金の48カ月払いを選択でき、25カ月目以降にキャリアを変えずに別のiPhoneへ機種変更すれば、未払いの代金が免除されるというものだ(それまで使っていた端末の返却が必要)。

だが、もしほかのキャリアやMVNOの格安スマホに乗り換えれば、たちまち”残債”が降りかかることになり、高額請求のおそれがある。総務省関係者は、「契約時は単に半額という言葉に惹かれて決めた利用者もいるはず。通信の2年契約が終わり、他社への乗り換えを検討する人が出てくるタイミングで問題になりそうだ」と気を揉む。

キャリアの通信契約は2年間継続するのが原則で、途中で抜けると違約金などが発生するプランが主流だ。ただ、総務省が手放しで是認してきたわけではない。2015年には、2年拘束だけを議題にした検討会が開かれたほどだ。

当時は2年間の契約終了直後の1カ月間(25カ月目)のみ、違約金を払わずに他社に移ることができた。26カ月目以降は契約が自動更新されて再度2年拘束が発生していた。これに不満を持つ利用者も多かったため、検討会の指摘を受けた後、猶予期間が25カ月目と26カ月目の2カ月に増えたり、契約期間の縛りのないプランもできたりしている。違約金は現在、9500円に統一されている。

長期の過剰拘束は競争を妨げるおそれ

長期の拘束が望ましくないのは、消費者の将来の選択を狭めるだけでなく、囲い込みが健全な競争を阻害するためだ。KDDIとソフトバンクは「48カ月払いは強制ではなく、利用者に選ぶ自由がある」(広報)などと説明する。だが、通信に詳しい野村総合研究所の北俊一氏は、「(今回のiPhoneの販売プランは)2年縛りの違約金と比べ物にならないくらい、ロックイン効果が強い。4万〜5万円の残債請求があれば、簡単には他キャリアにスイッチできない」と批判する。

総務省によると、今月下旬に最終回を迎える「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」で、このiPhoneの48カ月払いも議題にも上がっているという。是正を求める提言が入れば、iPhoneを安く買いたい利用者にも影響が出る可能性もあり、議論の行方が注目される。