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トランプ大統領はモラー特別検察官の解任を企図しているとの観測がある。しかし、ニクソン大統領の辞任につながった「土曜の夜の虐殺」の例に倣えば、それは自殺行為になるかもしれない。

鉄鋼・アルミの関税、知的所有権侵害に対する対中国制裁関税など、トランプ大統領が通商政策で攻勢を仕掛けている。とりわけ、後者に関しては、中国が報復関税を実施、追加措置を計画するなど「貿易戦争」の様相を呈してきた。一方、5月には、米朝首脳会談が予定されており、そちらは本物の「戦争」が回避できるかどうかのカギとなるかもしれない。

○「戦闘モード」のトランプ大統領

トランプ大統領は、ツイッターでオンライン小売大手のアマゾンを強く非難し続けるなど、国内でも「戦闘モード」だ。そのトランプ大統領を煩わせているのが、昨年から続く「ロシア疑惑」の捜査。ロシアが16年の大統領選挙に干渉し、それにトランプ陣営が関与したとの疑惑であり、モラー特別検察官が捜査を続けている。

3月中旬には、トランプ大統領がツイッターで「モラー特別検察官の捜査はそもそも始めるべきではなかった」と初めて名指しで批判した。それが、トランプ大統領がモラー特別検察官の解任に動くのではないかとの憶測に発展した。

もっとも、トランプ大統領がモラー特別検察官を解任しようとするならば、それは大統領の「自爆」につながる可能性がある。似たようなケースとして、ウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任する過程で起きた「土曜の夜の虐殺(Saturday Night Massacre)」が挙げられる。これについて振り返っておこう。

○72年の「土曜の夜の虐殺」

72年6月、その年の大統領選挙に絡んでウォーターゲート事件が発生した。そして、次第にニクソン大統領の関与が明らかになり、当時のコックス特別捜査官がホワイトハウスで録音された極秘テープの存在を知り、その提出を求めた。それを拒否するため、ニクソン大統領はコックス特別捜査官の解任を図った。

73年10月20日(土)、大統領権限では特別捜査官を解任できないため、ニクソン大統領はその権限を持つリチャードソン司法長官に解任を命じた。しかし、リチャードソン司法長官はこれを拒否して抗議のために辞任。次に権限を持つラッケルズハウス司法副長官も同様に拒否して辞任した。

そして、ニクソン大統領が急きょ任命したボーク司法長官代理が、コックス特別捜査官を解任した。さらに、ニクソン大統領はFBIを使って特別検察官や司法長官の執務室を封鎖、捜査チームの解散などの暴挙に出た。これが「土曜の夜の虐殺」だ。

○大統領の弾劾?

「土曜の夜の虐殺」は、ニクソン大統領が限りなく「クロ」に近いとの印象を議員や国民に強く植え付けることとなった。3日後の10月23日には、下院で大統領の弾劾決議案が提出された。結局、翌74年7月に極秘録音テープが公開され、ニクソン大統領の嘘が明白になった。そして、下院での弾劾決議案の可決(=上院での弾劾裁判の開始)が不可避となったことで、ニクソン大統領は同年8月9日に辞任した。

大統領を弾劾するためには、下院議員の過半数が弾劾決議に賛成し、さらに弾劾裁判では陪審員を務める上院議員の3分の2(=67名)が有罪と認める必要がある。共和党が上下両院で過半数を握る現在、トランプ大統領の弾劾に向けて事態が進展する可能性は非常に低いだろう。ただし、今年11月の中間選挙で、民主党が下院で過半数の議席を獲得するなら、少なくとも弾劾裁判を開始するためのハードルは低くなる。

モラー特別検察官は3月に、トランプ大統領の弁護士に対して、大統領が引き続き捜査対象であること、そして刑事上の標的ではないことを伝えたとされる。もっとも、仮にトランプ大統領がモラー特別検察官を解任し、それが司法妨害だと疑われれば、大統領を弾劾する十分な理由となりうる。今後の進展に要注目だ。

○執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクエア(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」「市場調査部エクスプレス」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。