「小規模だけど評価できる大学」ランキング
高校の進路指導の先生から評価の高い小規模大学はどこなのか (写真は国際教養大学。撮影:梅谷秀司)
今年の一般入試は、昨年と同じく、私立大学の志願者が激増した。前年比で7.2%増え、少子化が進行しているにもかかわらず、12年連続で増加している。国公立大学の志願者は前年比で1.1%減り、7年連続の減少になったのとは、対照的な結果となった。
私立大人気の理由は2つ考えられる。1つは文部科学省が地方創生の一環として、大都市圏の大規模大学の入学者を2016年から定員に近づけるよう、漸減させていることだ。大手私立大は入学者を減らすため、一般入試の合格者を減らしている。
昨年も私立大は大人気で志願者を増やしたところが多かったが、さらに合格者も減ったことで倍率は大きくアップしていた。倍率は青山学院大学が6.2倍から7.0倍、法政大学は4.2倍から5.4倍、立教大学は4.6倍から5.4倍、早稲田大学は5.6倍から6.7倍へ、立命館大学は2.9倍から3.3倍へと、それぞれ上昇した。
文系人気と定員厳格化で私大志願者が激増
今年も同じことが起こると見越し、受験生は併願校を増やした結果、志願者の激増につながったわけだ。中でも、センター試験利用入試が10%の志願者増となり、併願に活用された。センター試験の志願者は1.2%増えたが、国公立大志願者が減っていることを考えると、私立大志望の受験生が多く受けていたと見られる。
2つめは今年も“文高理低”の学部志望動向となったことだ。文系学部は私立大に多く設置されている。たとえば、経済学部(昼間部)は国公立大学に31校設置されているのに対し、私立大には91校にある。経営学部は国立大では横浜国立大学と神戸大学の2校、公立大をあわせても5校だが、私立大では79校に設置されている。社会学部は国立大の一橋大学にしかないが、私立大には20校に設置されている。今年も社会科学系の学部の人気が高かったが、私立大のほうに数多く設けられていることもあり、志願者増に拍車をかけた。
今年も当初合格者数では、東洋大学が3000人以上合格者を減らしたのをはじめ、早稲田大学、明治大学、立教大学、青山学院大学でも、大きく合格者を減らしている。その後、多くの大学が”追加合格”を出しているが、この発表方法は、親にとって経済的負担が大きい。
追加合格になるかどうかはわからず、すでに合格を勝ち取っている大学に入学手続きを取っている場合が多いからだ。子どもの第1志望校から追加合格の知らせが来れば、当然、第1志望校に入学したくなる。そうなると最初に手続きを取った大学の入学金相当額はムダになってしまう。
このように定員厳格化の影響で、上位の大規模大学が合格者数を減らし、その結果、昨年同様、学生集めが厳しい大学に学生が流れることになった。比較的、小規模な大学が多いと見られるが、小規模大学と一口に言っても、評価の高い大学も少なくない。
大学通信は毎年、全国約2000進学校の進路指導の先生にアンケート調査を実施し、2017年は685校から回答を得ている。その調査の中で「小規模だが評価できる大学」はどこかを聞いた。5校連記で大学をあげてもらい、最初に記載した大学を5ポイント、次を4ポイント、次を3、2、1……として集計したのが、「小規模だが評価できる大学ランキング」だ。
なお、「小規模大学」の定義については、学生数など明確な基準はなく、投票した高校の先生の判断に委ねられていることを、お断りしておく。ここでは多くが入学定員2000人以下の大学で、最大でも入学定員4000人程度の大学が対象になっている。
1位は国際教養大学、東京のトップ校からも入学
1位は国際教養大学だ。秋田にある公立大で、国際教養学部の単科大学である。2004年に開学した比較的新しい大学で、講義はすべて英語のうえ、在学中に1年間の留学が必須。さらに1年次は全学生が外国人留学生と一緒に寮生活を送る。留学生が多いこともあって、24時間オープンの図書館もある。現在、多くの大学で実施されるようになってきた、グローバル教育の草分けといえよう。
高校の進路指導の先生からも、「学生に合わせるより社会が求めるレベルの内容を学生に教え、引き上げようとしている」(北海道・道立高)、「語学教育、国際教育の点で、ユニークな取り組みを行っている」(熊本・県立高)など、高く評価されている。5年かけて卒業する学生も多いが、有名企業への就職率は高い。難易度も創設当時と比べると、10ポイント以上アップし、難易度が高くなっている。
今年の合格者の出身高校を見ると、上位には地元秋田の高校が並ぶが、日比谷、開成など、東京の公私立トップ校も上位にきている。まさに全国区の人気だ。
2位の武蔵大学は、経済、人文、社会の3学部がある。武蔵大学は旧制七年制高等学校に端を発する大学だ。同じように旧制七年生高等学校から始まったのが、6位の成蹊大学、14位の成城大学、15位の学習院大学の4校。いずれも評価が高いことがわかる。
また、武蔵大学は“ゼミの武蔵”と言われるほど、ゼミナール形式の授業で有名である。このゼミナール教育は4年間必修。少人数教育で、ゼミはいわゆる、アクティブラーニング形式だ。一方的に講義を聞く授業とは異なり、学生がさまざまな意見を発表しながら進めていく。
武蔵大学は昔からアクティブラーニング形式のゼミを実践しており、学生の実力を伸ばしてきた。進路指導の先生からも、ゼミと少人数教育を評価するコメントが多い。「ゼミ、学生センター、教員など、多方面から学生へアプローチして指導し、面談の機会も多い」(東京・私立高)、「学生一人ひとりに注視している点」(東京・都立高)などだ。小規模大学の利点は、教職員と学生の距離が近いこと。学習だけでなく就職の面でもプラスに作用している。
面倒見の良さが小規模大学の魅力のひとつ
3位は国際基督教大学がランクイン。4位は金沢工業大学、5位は会津大学と、地方の理系大学も上位に顔を出している。
7位に入ったのが産業能率大学である。経営と情報マネジメントの社会科学系2学部の大学で、キャンパスは東京の自由が丘と神奈川の湘南にある。こちらもアクティブラーニングの草分けで、課題解決型のPBL(Project Based Learning)授業にも力を入れている。
入試企画部の林巧樹部長は「就職の面倒見の良さと、入学後、学生を伸ばしているところが、評価されているのかもしれません。今年も女子の就職率はほぼ100%でした。セメスター(学期)ごとに担任であるアカデミックアドバイザーと全学生が30分以上面談しています。その中でアドバイスし、本人の自覚を促し、それが授業の中で、学生が成長していけるきっかけになっているのではないかと思います」と言う。こういった面談も小規模だからできることだ。
国立大学のトップは9位の一橋大学。商、経済、法、社会の社会科学系4学部の大学だ。就職で有名企業に強いことで知られる。日経平均採用銘柄225社に、規模や知名度、大学生の人気を基に、大学通信が選んだ企業を加えた「有名企業400社」への就職率(400社への就職者数÷<卒業生数-大学院進学者数>×100)の2017年のトップは、一橋大で58.9%という高い数字だった。卒業生の2人に1人以上が、安定した大企業に就職している計算になる。就職先も、みずほフィナンシャルグループの25人、次いで三菱UFJ銀行23人、三井住友銀行16人などメガバンクに強い。
小規模大学として評価されている大学は、当然ながら、文系学部のみの大学や理工系の大学が多くなっている。小規模だからこそできることも多い。それを活かしている大学が高く評価されているようだ。