ラミレス監督の知られざる采配の裏側とは? (c)YDB 

現役時代、その実力とユニークなパフォーマンスで人気を博したアレックス・ラミレス氏。2016年に横浜DeNAベイスターズの監督に就任してからはパフォーマンスを封印し、チームを2年連続でAクラスに導くなど、指導者としての顔を際立たせています。
「日本の野球は変わってきている。そうした実感は監督になってからより強く抱くようになった」
自著『CHANGE![チェンジ!] 人とチームを強くする、ラミレス思考』の中では、日本の野球に対する分析が独特の視点で記されています。知将としての評価も高まるラミレス氏に、「理想の監督像」と自身の「采配」について語ってもらいました。

現役時代に「2人の監督」から学んだこと

いよいよ2018年のシーズンが始まります。私が率いる横浜DeNAベイスターズ(以下、ベイスターズ)は、万全の態勢で開幕を迎えたところです。

私が“助っ人外国人”として来日してからすでに18年。その間、私は片時も離れることなく第一線で日本の野球に触れてきました。

現役を退いてからも日本の野球とのかかわりは途切れず、2016年にベイスターズの監督に就任し、今年が3年目のシーズンです。

ベイスターズは1998年のリーグ優勝以降、順位の低迷に悩んできました。しかし、私が監督に就任して1年目となった2016年はクライマックスシリーズ(以下、CS)への出場を果たし、2017年はついに日本シリーズへ進出するなど、チーム力を高めています。

流れは明らかに変わってきており、ベイスターズはいま、リーグ優勝だけでなく、日本一達成に着実に近づいていると言っていいでしょう。今シーズンはまさにベイスターズがその実力を証明する年になるはずです。

18年前、東京ヤクルトスワローズ(以下、スワローズ)と契約して来日しましたが、そのときの監督は、若松勉さんでした。若松監督に知り合えたことが、結果的に、長きにわたって日本に在住するきっかけとなりました。

監督となったいま、若松さんから学んだことの1つに、「レギュラー指名した選手を信頼し、起用し続ける」という姿勢があります。

私がスランプに陥っても、若松監督は辛抱強く起用してくれました。そして私は、その気持ちに応えようと奮起したのです。監督と選手の間にはこうした信頼関係が欠かせません。その大切さを私は若松監督から学んだのです。


アレックス・ラミレス監督(c)YDB

選手としての学びもありました。メジャー時代からパワーで引っ張る打撃を得意としていた私に、若松監督は「日本の投手は思い切った内角攻めをしてこないから、センターから逆方向に打つことを意識してみるといいよ」とアドバイスしてくれました。

それを受け入れ、ライト方向へ打つようにしたことで、打者として新たな次元に到達することができたのです。まさに2000本安打を達成している大打者ならではのアドバイスであり、その後、日本で10年以上の現役生活を続けられたのも、若松監督率いるスワローズ時代があったからだと思っています。

スワローズから読売ジャイアンツに移籍すると、今度は原辰徳監督の下でプレーをしました。試合に勝つための戦略、点の取り方、チャンスのつくり方という点で、私はリーグ優勝7回、日本一3回の実績を誇る原監督から多くを学んでいます。

残念ながら私は現役時代の原さんを知りませんが、私が知る監督としての原さんは、とてもスマートな人でした。データを非常に重視する監督であり、若松監督同様、選手起用に関しては我慢強いところもありました。

私はこれら2人の監督から多大な影響を受けており、監督となったいま、選手の起用法や采配の仕方などでその影響の片鱗が出てくることがあります。

采配は「データ重視」

私の采配についてお話しします。前述したとおり、私は若松監督と原監督から、監督としての姿勢を学びました。レギュラー選手の起用に対する「我慢強さ」は、若松監督から。そして、「データ主義」については、原監督からその多くを学んでいます。ここでは「データ主義」について、お話ししたいと思います。

私の采配は、事前の準備から組み立てられています。何らかの決断を迫られた場合は、それまでの数字に9割頼って決めるのがラミレス采配です。勘のような直感的なフィーリングに頼るのは、残りの1割にすぎません。

試合前には、選手たちの成績データにすべて目を通し、細かい戦略を練ってから試合に臨みます。相手チームの打者に対する投手の対戦成績や、投手と捕手との相性、組み合わせごとの防御率、さらには球場ごとの数字などもチェックします。

そのため、試合中のベンチワークで動きが止まることはなく、決断の必要があれば迅速に対応できます。そういう意味では、決断は試合前の段階ですべて下されていると言っていいのかもしれません。

ただし、1割は自分の感覚に頼るケースもあります。状況によっては、データに反した采配を振るったりもするのです。

本来であれば、Aという選手を起用するべきなのに、その場の状況でBをグラウンドに送り出す“奇策”も時には必要だと思っています。9割数字に頼るといっても、プランAだけでなくつねにプランBも用意しておくのが大事なのです。

実際の試合となると、データどおりに物事が運ばないことも多くあります。

データに基づくといっても、100%が確約されているわけではありません。確率論では右投手を投入すべき場面でも、その日の傾向から「ここはあえて左だろう」と感じるときがあるのです。

そんなときは、ピッチングコーチに意見を求めます。

「右投手よりも、左投手のほうがいい気がしますね」

コーチのフィーリングと自分のフィーリングが一致すれば、そのときには迷わず自分の感覚を信じて左投手を登板させます。

ただし、9割は、「試合前の準備で頭にたたき込んだ数字に基づき決断する」ことにブレはないのです。

私が理想とする監督像とは?

現役時代の私は「ラミちゃん」というニックネームで親しんでいただき、たくさんの人から声援を受けてきました。おかげさまで、外国人枠を経た選手としては史上初の2000本安打、球界史上最多となる8年連続100打点などを達成しています。

グラウンドでプレーしていた頃の私はパフォーマンスをすることでも知られ、そのため「監督」というイメージとはかけ離れていたかもしれません。しかし、日本滞在が長くなるにつれ、「いつか日本のプロ野球チームの監督を務めたい」という夢を抱くようになりました。

「監督としても球史に名を刻みたい……」

こう思い始めたのは、ジャイアンツでまだプレーしていた頃でした。

「監督になりたい」という具体的な夢ができてからは、私は理想とする「監督像」を思い描くことが多くなりました。そのプロセスの中で浮かび上がってきた監督像が、「ボス」として君臨する姿ではなく、「リーダー」として皆を引っ張っていく姿でした。

一般的にボスというと、厳格であり、時に強圧的な側面も見せるというイメージがあると思います。事実、スポーツチームの監督の中には、自分がトップであり、ボスであると考える人もいます。

ボス型の監督の姿勢としては、「選手を使う」という印象がつきまとうものです。もしくは「選手を叱責する」姿を思い浮かべてもいいでしょう。

このタイプの監督が選手たちと会話を交わす際には、「オレが、オレが」という態度が前面に押し出されるケースが多いのが特徴です。自分こそがチームの司令官であるとの思いが強く、自分は命令を下す立場にあると信じています。

監督には一定の権力が与えられているので、「ボス」として権力を行使し、選手たちを服従させることも可能です。また、何かミスがあれば、その責任を選手に押しつけ、彼らを非難するかもしれません。逆に何か良い結果が出れば、その手柄はすべて自分のものとする、なんてことも考えられます。

一方、私が理想とするリーダー型の監督は、これとは大きく異なります。このタイプの監督がつねに考えているのは、次のような事柄です。

「選手たちを育成したい」
「選手たちを指導したい」
「選手たちの前向きな気持ちを奨励したい」
「選手たちのやる気を刺激したい」

こうした姿勢をつねにベースとし、選手に何か問題が生じれば、それを修正する手助けをするのです。そしてその際には、どうすれば修正できるのか、実際に自分が手本を見せていきます。

選手の声に耳を傾ける

「いちばんに考えるべきは選手であり、自分のことであってはならない」とわきまえているのがリーダー型監督の特徴です。試合で良い結果が出れば、その功績はすべて選手のものとするスタイルが徹底しているのです。


リーダー型の監督は、選手の調子を頻繁に尋ね、返ってくる彼らの声に耳を傾けます。選手との会話の中で主語を口にする際には、「私」ではなく「私たち」を使う姿勢も大切です。そして最後には、「オーケー。レッツ・ゴー!」と声を掛けていきます。まさに、前記した2人の監督がそうでした。

これが真のリーダーであり、私が目指している監督像です。この姿勢こそが、選手の才能を最大限に引き出し、より良い結果につなげられると私は信じています。

はたしていまの私は、自らが理想とする監督像に近づけているのか……。また、リーダー型の監督として、選手の力を十分に引き出せているのか……。

自分を正確に評価することほど、難しいものはありません。人はとかく、自分について過大評価をしてしまったり、もしくは過小評価してしまったりするものです。正しい評価については、ベイスターズの試合を見てもらい、周囲から判断してもらうしかないと思っています。