ゲーミングPC関連の情報サイト[H]ardOCPが、「GeForce Partner Program」と呼ばれるゲーミング市場における関連メーカーとのパートナーシップをNVIDIAが取り入れており、これによって「ライバルAMDのグラフィックボードを市場から閉め出そうとしている」という記事を投稿し、大きな反響を呼びました。GeForce Partner ProgramをNVIDIAの横暴だと捉える意見は多く、独占禁止法違反を指摘する声さえあります。

[H]ardOCP: GeForce Partner Program Impacts Consumer Choice

https://www.hardocp.com/article/2018/03/08/geforce_partner_program_impacts_consumer_choice/

NVIDIA GPP Ignites Uproar & Calls for Boycott as AIBs Begin Signing on

https://wccftech.com/nvidia-gpp-ignites-uproar-calls-for-boycott-among-pc-gamers/

MSI Is Saying Some Crazy Things About AMD Graphics Cards

https://www.forbes.com/sites/jasonevangelho/2018/03/25/msi-is-saying-some-crazy-things-about-amd-graphics-cards/

GeForce Partner Program(GPP)の存在がクローズアップされたのは、2018年3月8日に[H]ardOCPによって投稿された記事がきっかけです。GPPの内容を調べるために[H]ardOCPは、NVIDIA Partnerのマーケティングディレクターのジョン・ティーブル氏の記事を引用しています。ティーブル氏によると、GPPはNVIDIAがグラフィックボードメーカーなどのパートナーと提携して、GPUプラットフォームとソフトウェアについて高い品質を保証するもので、PCゲーマーはGPPの存在により、高品質のゲーミング環境を手に入れる目安にできるとのこと。ただし、ティーブル氏によると「NVIDIAブランドとパートナーブランドが一致している場合にのみGPPの適用を受ける」という条件が課せられています。

一見、安定したゲーミング性能をユーザーに保証するためのパートナーシップということで非常に良い取り組みにも思えますが、[H]ardOCPが20年以上のPCハードウェアビジネスに関わる経験豊かな関係者に話を聞こうとすると、ほとんどの人が口を閉ざしたとのこと。NVIDIAからの報復によって仕事を失う危険性があるという匿名の人物の話からは、多くの業界関係者がGPPの内容が「独占禁止法に違反する」「消費者の選択を大きく制限する」「AMDやIntelとビジネスを行っている企業に混乱をまねく」と考えていることが分かったそうです。

GPPの詳細な内容は明らかになっていませんが、GPPに参加するメーカーには、NVIDIA製のグラフィックボードの優先的な提供や販売促進のための金銭的な支援が約束されているのではないかと推測されています。そして、GPPを受け入れたと推察できるメーカーのゲーミングブランド戦略に異変が起こっていることが指摘されています。

例えば、GIGABYTEの場合、ゲーミングPCに関する社内ブランドに「AORUS」を利用しており、グラフィックボードはもちろん、ゲーミング・マザーボードやゲーミングPCなどでAORUSブランドを適用して販売戦略を行っています。しかし、GIGABYTEが最近、AMDチップを採用した「Radeon RX 580」グラフィックボードを販売する際は、製品はAORUSブランドを冠していません。



そして、Thunderbolt 3ポートを利用してグラフィックボードを外付けする「Gaming Box」でもRadeon RX580搭載モデルからはAORUSロゴが消えました。



対照的に、NVIDIAのGeForce 1070や1080を搭載するモデルはAORUSブランド。



この奇妙な違いについてComputer BaseがGIGABYTEに質問したところ、なんと「Gaming Box RX580は、ゲーマーに焦点を当てていないから」という回答があったとのこと。しかし、この回答はGaming Box RX580の製品ページにある「Ultrabookをゲームプラットフォームに変える!」や「ゲーミング体験のアップグレード」といううたい文句との整合性がとれないとComputer Baseは指摘しています。

かつてGIGABYTEはAORUSブランドのRX580も販売していたのに急にブランド対象外にし始めている動きについて、「NVIDIAブランドとパートナーブランドが一致している場合にのみGPPの適用を受ける」というティーブル氏の発言がヒントになりそうです。この発言は、NVIDIAとパートナーが新たにGPP対象のブランドを新たに作ってユーザーに分かるよう差別化するかに思えます。しかし、従来のゲーミングブランドをNVIDIAとのGPPに基づいたブランドへと切り替えるということも事実上可能。つまり、「GPP用に新たなブランドを作るのではなく、従来のゲーミングブランドをNVIDIA専用にしてAMDをラインナップから外す」ことでGPPの約定を満たそうというわけです。このような変更をNVIDIAが強いているかはわかりませんが、各メーカーのゲーミングブランドをNVIDIA専用にすることで、AMDをゲーミングシーンから排除するものだとして、Redditなどで大きな反発を受けています。



また、MSIインドは公式Facebook上で、GPPにMSIも加わっていると非難するユーザーに対して、「NVIDIAのGPUは性能で頭一つ抜けているし、それ以下の性能の商品を選ぶ人はいないでしょう。GoogleやFacebookなどどこでも起こっていることですよ」と述べました。さらに、「GPPって将来的にAMDのグラフィックボードを作らないということ?ノートPCもデスクトップも全部NVIDIAグラフィックスになるってこと?」という問いに対して、「パフォーマンス次第では、MSIはそうすることもできます」と回答しています。



このような露骨なAMDつぶしとみられるNVIDIAのGPP戦略については、IntelとAMDの例を重ねる意見が出されています。IntelはDellやHP、NECなどのPCメーカーに対して「AMDの製品を採用しない」見返りとしてリベートを支払っていたことが不正な競争を防止するEU競争法に反するとして2009年に10億6000万ユーロ(約1400億円)の制裁金を課されました。GPPの問題は、相手がAMDで同じことも奇遇ですがIntelと同じく制裁措置を受けかねないもので、ユーザーの選択肢を狭めることになりゲーミングPC業界にとって好ましいものではないと、NVIDIAの行動に対する批判の声が上がっています。