日清食品ホールディングス宣伝部の岡崎俊英氏

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キキが、ハイジが、サザエさんが、青春アニメのヒロインになったら――。カップヌードルのテレビCM「HUNGRY DAYS」シリーズの『最終回 篇』が1月26日(金)から全国で放映された。CMの枠を超えたクオリティのアニメーション、シリーズ全体に隠された謎など、多くの話題を呼んだ本シリーズ。なぜこの企画が生まれたのか、そしてCMに込められた思いはなんだったのか。日清食品ホールディングス宣伝部の岡崎俊英氏に話を聞いた。

【写真を見る】『最終回 篇』ではモニターに映し出される宇宙飛行士のヘルメットに『FREEDOM』と記されているカットも

――今回、アニメCMという企画はどのように生まれたのでしょうか。

カップヌードルは、発売当初から若者をターゲットに設定しています。今回は、若者を中心に一般にも広く浸透してきた“青春アニメ”の手法を取りました。

――真新しいことをしたというよりも、今の若者に向けた形を考えた結果こうなったと。

そうですね。カップヌードルのCMは、一貫して「若者を応援していこう」というメッセージを発信し続けています。発売当初は、最先端の若者が集まる銀座の歩行者天国での試食販売を実施したり、2006年には、大友克洋さんの監修を受けたアニメCM『FREEDOM』シリーズを展開したりと、その時代に合わせてコミュニケーションの手法を変えてきました。

――今回はそれぞれ原作となる作品がありました。そのアイデアはどこから?

アイデアは広告会社のクリエイターの方からご提案いただいたものです。「誰もが知っている国民的コンテンツを青春アニメ化する」というコンセプトは、数ある企画の中でも非常にインパクトが強いものでした。また、青春には“ヒロイン”の存在が欠かせないので、作品の選定にあたっては“主人公となるヒロインがいる”ことを重視しました。

――キャラクターデザインにはベテランの窪之内英策氏を一貫して起用されていますね。

とても画力があり、青春らしい、キュンとするイラストが若者を中心に人気ですので、シリーズ全体のキャラクターデザインを担当していただきました。

――起用という点では、最終回では「彼女」役を小川あんさんが務めるなど、若手女優の起用も目立ちました。

声優さんや女優さんという枠組みでは考えず、原作のキャラクターが持っているイメージを保ちつつ、自然体な声、青春アニメのトーンにあった透き通った声が出せる方を選ばせていただきました。

■ 日清食品のCMは「一緒に公園で遊んでいる感覚に近い」

――『最終回 篇』で隕石接近という真実が明かされましたが、この構成は最初から決まっていたのでしょうか。

第一弾を企画した段階で「最後は隕石を落とそう」と決めていました。実は、ビートたけしさんにご出演いただいた昨年のCMシリーズ「OBAKA's大学」も、結末は巨大ロボット“テラ幸子”の目からビームが出て弊社の本社が破壊されるというものだったんです(笑)。印象に残るCMシリーズの終わらせ方というものを考えた結果、今回は隕石に決まりました。

――隕石の伏線も各CMで張られていましたね。

シリーズが進むごとに、隕石の存在感を徐々に上げていきました。小ネタの1つでしたが、SNSや動画サイトなどで話題にしていただけたのは有難かったです。

――隕石以外にも色々な小ネタがあったようですが、急遽入れたものなどあるのですか?

(前述の)『FREEDOM』なんかはそうですね。SNS上で「最後の元ネタは何になるんだろう」と予想されていたのですが、その中で「『FREEDOM』に戻るんじゃないか」というご意見がありました。結局、『FREEDOM』に戻ることはなかったのですが、カップヌードルの古くからのファンの方に少しでも喜んでいただこうと、宇宙飛行士のヘルメットに“FREEDOM”と書くことにしたんです。

――そうして生まれた4部構成のCMシリーズですが、改めてシリーズの概要をお話しいただければ。

『あの国民的ヒロインが、もしも現代の日本の高校生だったら』というパラレルワールドを、実写ではなく青春アニメで表現したCMシリーズです。『最終回 篇』は“次の主人公はあなたかもしれない”という設定で、一般の高校生を主人公にしたオリジナルSFストーリーを作りました。隕石や怪獣が襲来してきても、全く動じずに「青春」し続ける高校生2人を描くことで、『誰にでも青春はある。すべての青春をカップヌードルは応援していきたい』というメッセージを込めました。

――カップヌードルそのものが、CM中にはほとんど出てきませんでしたね。

「何のCMだか分からない」というご意見もあるのですが、今さらカップヌードルのおいしさを伝えるようなCMを作るよりも、カップヌードルのユニークな世界観を表現し、共感していただくことを目的にしています。また、あえて広告っぽさを排除し、ご覧になった方が様々な角度で話題にしてもらえるような内容にすることで、情報が溢れている今のような時代であっても、主体的に見てもらえるようなCMになればという想いもありました。

イメージとして、昔のCMは“生活者が舞台の演技を見ている”という感覚だったのが、今は“一緒に公園で遊んでいる感覚”に近いですね。「新しい遊具を持ってきたぞ」と日清食品が公園に変な滑り台を置いて、皆さんが遊び始めて、そこで日清食品も一緒になって遊んでいる、みたいな感じですね(笑)。

■ 「林原さんに始まって林原さんに終わるシリーズ」

――最終回がオリジナルのSFというのはやはり意表を突かれました。

キキ、ハイジ、サザエさんときて、最後は一般の高校生ですから、意外に思われた方も多いと思います。一般の高校生を主人公にしたのは、「誰にでも青春はある。その青春を応援したい」という意図があったからです。『最終回 篇』は、宇宙飛行士などの活躍によって地球が救われるSFストーリーなのですが、“SFあるある”を盛り込んだ方がジョークだと分かりやすく、内容的にも面白くなるんじゃないかということで、あのような形になりました。

――「有名キャラクターの青春」で終わらないようにということだったんですね。

最後は伝えたいことをちゃんと伝えようと、この『最終回 篇』を作ったのですが、やっぱり「あのシリーズは何だったんだ?」という印象で終わっている方も多いと思います。ただ、気になって特設サイトなどで調べたり、友達同士で教えあったりする方も多くいらっしゃったので、結果として良かったと思います。

――実を言うと、『最終回 篇』も有名SF作品を意識しているのかなと思っていました。BGMはあの映画かな、ナレーションの林原めぐみさんはあのアニメかな、と。

特定の作品というよりは、最後は“SFあるある”で締めようと考えました。林原さんには『最終回 篇』だけではなくて、シリーズの立ち上げ時の『予告 篇』や、『最終回予告 篇』でもナレーションを担当していただきました。林原さんは心に響くキュンとくる声、そして芯のある声をお持ちです。今回の“アオハルかよ。”というメッセージを強く印象づけられるのは林原さんしかいないということで、要所要所で起用させていただきました。林原さんに始まって林原さんに終わると言っても良いシリーズでした。

■ 「一本の映画を作るつもりで」

――キキやハイジやサザエさんの青春がすべて同じ世界だった、というのはどういう狙いがあったんでしょうか。

現代の若者に向けたCMなので、それぞれのキャラクターが現代の日本で青春しているという“パラレルワールド”の設定にしました。また、今の時代、CMで気になるところがあれば、動画サイトなどで一時停止したり、巻き戻したりして簡単に細かい部分を確認できるので、過去の登場人物を見つける楽しさを感じてもらおうと、遊び心的に描いたという部分もあります。

――一度見ただけでは拾えきれない膨大な小ネタが詰め込まれていますよね。

ツッコミどころがあれば、SNSなどで話題にしていただけるきっかけになるので、シリーズを通じて様々な小ネタを詰め込んでいます。

『アルプスの少女ハイジ 篇』では、ハイジが読んでいる雑誌に書かれたクララのTwitterアカウントが一瞬だけ映るのですが、そのアカウントを実際にTwitter上に作ってみたり、『最終回 篇』に登場する古代生物や巨人型不明生物のよくわかるようでわからない詳細を特設サイトに掲載したりと、CM本篇以外でも小ネタを用意しました。

――その結果、濃密なCMとなりましたが、制作期間はどのくらいだったのでしょうか。

企画から制作までおよそ半年ほどで、1本のCMを作っています。実写のCM制作は、撮影した映像を編集して仕上げますが、様々な要素を固めながら少しずつ形になっていくのがアニメCMの制作です。1つCMが完成しても、すぐに次のCM制作がスタートするので、現場はエンドレス状態でしたね。

――お話を聞くとCM制作というより、アニメ作品そのものを作るイメージに近いですね。

クリエイティブディレクターから「一本の映画を作るつもりで頑張ろう」という号令が出ていて、制作スタッフ全員から「いいものを作るぞ」という気迫を感じていました。

■ 「無難なものでは何も伝わらない時代」

――結果的に、いずれのCMも大反響となりました。視聴者からも好意的な反響が多かったと思うのですが。

CM好感度ランキングでは、10代の女性など若年層を中心に支持を受け、4作品すべてが食品業類で1位を獲得することができました。また、若年層のカップヌードルの喫食率が顕著に上がったという調査結果も出ていたようなので、CMとしてはよかったと思っています。ただ、かなり尖った企画だったので、賛否両論があったのは事実ですね。

――ある程度狙いは外さなかったものの、否定的な意見もあったと。

今回のCMは、「チャレンジしないと、新しいものは生まれない」という姿勢で制作しました。無難なものでは何も伝わらない時代なので、面白いことをしようと思えば、それだけ尖った内容にしないといけない。そのさじ加減は難しいですね。

■ 「青春の押し付けにならないように」

――最後にズバリお聞きしますが、『アオハルかよ。』のキャッチコピーはどのように生まれたのでしょうか。

「カップヌードルは青春を応援します!」とストレートに言うと、今の若い人たちには押し付けに聞こえてしまう可能性があるので、「アオハル」という若者言葉を使いながらも、「かよ」を入れることで等身大な表現にしました。

――これからもカップヌードルのCMはユニークなものが生まれていくと思いますが、今後の意気込みは。

日清食品は、楽しい、面白いのはもちろん、誰かに教えたくなるようなCM作りを目指しています。次世代のユーザーである若い方に「カップヌードルは自分たちの仲間だ」と感じてもらい、カップヌードルがなくなったら悲しんでもらえるような身近な存在になれたらと思います。『HUNGRY DAYS』シリーズはこれで終了し、すでに次の展開をスタートさせていますが、新しいCMシリーズも皆さんに面白いと言ってもらえるよう、精一杯頑張りたいと思います。(東京ウォーカー(全国版)・国分洋平)