超低温冷凍船によるマグロ運搬を手掛ける東栄リーファーライン。この地味な会社のMBOに波乱が起きている(撮影:尾形文繁)

MBO(経営陣による自社買収)での上場廃止を企図し、株式公開買い付け(TOB)中の東栄リーファーライン。9.76%を保有する株主が、MBO阻止を目的とした臨時株主総会開催の許可を裁判所から取り付けながら、開催を断念していたことがわかった。

東栄RLは超低温冷凍船によるマグロ運搬会社。マグロ畜養・養殖用餌の買い付け販売事業や小型FRP(繊維強化プラスチック)船によるマグロのはえ縄漁業への新規参入を計画しており、一時的に業績が落ち込む可能性があることを理由に、河合弘文社長ら現経営陣5人がMBOを企図。買収会社としてオーシャンを設立し、2017年11月9日から今年1月11日までの期間に1株600円でTOBを実施した。

村上氏と合意し2度目のMBO

しかしTOB開始直後から村上世彰氏率いるレノ、オフィスサポートが参戦し、合計18.62%を取得。TOBへの応募は41.6%に留まり、下限の66.7%に届かず不成立に終わった。

経営陣はその後の交渉で村上氏側の応募契約を取り付け、公開買付価格を800円に引き上げて2月8日から3月23日までの30営業日間で再度TOBを実施中だ。

市場の関心はもっぱら村上氏の動向に向いていたわけだが、昨年11月の1回目のTOB開始直後から、MBO自体に反対していた大株主がいた。15年ほど前からこの会社の株式を保有し続けてきた(『会社四季報』では2010年から大株主として登場)という、航空貨物運送会社のジェットエイト(東京都文京区)である。直近で代表者およびその親族の個人名義分も含め、9.76%を保有している。

同社の西將弘・代表取締役は「一時的な業績悪化は計画と将来得られるリターンを丁寧に説明すれば株主は理解する。非公開化によって外部の声を遮断することは会社にとって有益ではない」といった理由を挙げたほか、利益の配分にも異議を唱えた。

西氏によれば、地中海マグロの漁獲規制の大幅緩和決定を受け、直近でマグロ冷凍運搬事業の業績好転が間違いないのに、「このタイミングでMBOが実施されれば、買収者である5人の取締役がそのリターンを独占することになり、排除される株主との間に、財産分配や利益の配分に大きな不公平が生じる」(同)という。


だが西氏の主張に、東栄RLの経営陣は耳を傾けなかった。そこでジェットエイト側は昨年12月9日、MBOを決めた経営陣5人の解任を議案とする臨時株主総会の開催を会社側に請求。当然会社側は拒否したため、12月25日付で東京地方裁判所に臨時株主総会の招集許可を申し立てた。その後、議案を追加し、1月12日にも東京地裁に追加申し立てを行っている。

株主による総会招集権は会社法に規定されており、審査の対象は、申し立てた株主が「3%以上の議決権を6カ月前から引き続き保有する株主」という資格要件を満たしているかどうかと、総会招集に実益がない、もしくは有害かどうかだ。

東京地裁からジェットエイトに4月13日を開催期限とする臨時株主総会の招集許可が下りたのは3月2日のこと。通常なら即日、もしくは数日中に下りる許可に、数カ月近い期間を要したことになる。「以前本業関連の事件で、弁護士に極めて不本意な処理をされて以来、弁護士を信じられなくなった」(西氏)ため、本人申し立てで臨んだことが影響したようだ。

決定送達受領時点ですでに手遅れ

会社側は、ジェットエイトから臨時株主総会の開催請求を受けたことは昨年12月20日と今年3月1日の2度にわたり開示しているが、法廷闘争に持ち込まれていたことや、3月2日に東京地裁が許可を出したことについては開示していない。

その理由について東栄RLに筆者が問い合わせたところ、「東京証券取引所と弁護士に相談した結果、必要ないという判断になった」(同社総務部)というのみで、理由については回答を得られなかった。

一方の西氏は会社側から、「(決定条件である)4月13日までの開催は困難なのに、情報を開示すると市場を混乱させる可能性がある、だから開示しない、という説明を受けた」という。

裁判所が株主による総会招集に許可を出す場合、通常6週間程度の招集期限が定められることが一般的。本件も3月2日の決定で招集期限が4月13日と、ぴったり6週間だ。基準日は開催日の2週間前まで、基準日設定のための公告期間が2週間とすると、3月30日を基準日とし、そのための公告を3月15日までに出せば間に合う。

とはいえ、東栄RLの公告媒体は同社ホームページもしくは日本経済新聞。3月5日に送達を受領して、10日後に日経に掲載することが可能だったかどうか微妙ではある。

そもそも、2018年3月期の定時総会の基準日がすでに3月30日に決定しており、その前後7営業日は、証券保管振替機構の規定により、別の株主総会の基準日に指定できない。この規定を法律家ではない西氏は知らなかった。


2回目のTOBがもし成立した場合、3月29日に決済が実施され、株主が入れ替わってしまう。この日以前の基準日でなければ総会を開催する意味がない。

4月13日までに総会を開催するには、遅くとも3月19日を基準日、そのための公告を3月4日に出しておかねばならなかった。つまり、ジェットエイトが東京地裁からの送達を受領した3月5日の時点で、既に手遅れだったのだ。

時機を逸して少数株主の抵抗は幻に

臨時総会開催は断念したが、MBOに納得していない西氏はTOBへの応募もしない。10%近くを保有するジェットエイトが応募を見送るということは、オーシャンはTOBで9割以上の議決権を獲得することはまずできない。だが、村上氏が応募を見送った1回目ですら4割を確保していることからすると、3分の2以上の確保はさほど高いハードルではないだろう。

オーシャンが3分の2以上を確保すれば、特別決議をオーシャンが単独で通せるのだから、ジェットエイトの保有株は黙っていてもいずれオーシャンに強制取得される。

会社法は強制取得される少数株主の救済策として、TOB価格に不満がある少数株主に、価格の決定を裁判所に求める権利を認めているが、これもすでに形骸化している。2016年7月、最高裁判所が「一般に公正と認められる手続によって公開買付が行われた場合には、裁判所は買付価格を判断しない」とする判決を出しており、下級審は最高裁判例に従って判断するので、もはや争っても無駄なのだ。

今回MBOに参加する東栄RLの取締役は6人中5人。賛同を決めた取締役会決議は、利害関係者を除外して行われている。つまり、MBOに参加しない1人で決議しているのだが、買収者、会社側ともに第三者機関から株式価値算定書を取得しており、第三者委員会を設置して検討、リーガルアドバイスも得ている。これが一般に公正と認められる手続きではないということを立証するのは相当に困難だろう。

最初から有能な弁護士がつき、臨時株主総会がタイムリーに開催されていたら、ほかの少数株主はどう行動しただろうか。今となっては知るすべもない。