与党の厳しい追求にも顔色一つ変えず官邸を守り抜き、財務省理財局長から国税庁長官に「栄転」した佐川宣寿氏。結局辞任ということになりましたが、その国税庁長官とはどのようなポストなのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では、自身も10年間の国税局勤務の経験がある著者の大村さんがその「正体」を記すとともに、財務省国税庁の知られざる「呆れた関係性」を暴露しています。

国税庁長官って何者?

森友学園の公文書書き換え問題で、ついに国税庁長官の佐川氏が辞任しましたね。それにしても、最近、ニュースでよく耳にする「国税庁長官」って、一体何者なのでしょう。財務省国税庁は違う機関なのに、財務省の幹部だった人が国税庁長官になるのって、少し不思議ではありませんか? なんかその辺の人事関係、省庁の力関係というのは、一般の人にはなかなかわかりづらいですよね。なので、今回は、国税庁長官のポストとは何なのか、ということをご説明したいと思います。

国税庁は、建前の上では、財務省から独立した組織ということになっています。国税庁側は、「国税庁財務省は、独立した緊張関係にあり、決して従属の関係ではない」などと言っています。しかし、これは単なる建前ですね。現実とは程遠い、きれいごとです。というのも、国税庁は実質的に財務省に支配されているのです。

国税庁は、国民に対して警察をしのぐほどの強大な権力を持っています。国税の職員は、税金に関することならば、国民のありとあらゆる事柄について調査する権利を持っています。国民には、それに対する拒否権がありません。見方によっては警察の捜査権よりも、国税庁の税務調査権の方が強力なのです。

国税庁は、そういう強力な権力を持っているわけですから、本来、ほかの省庁などに支配されず独立していなければなりません。そして、建前の上では、国税庁はほかのどこの省庁にも支配されない、ということになっています。

が、実際は残念ながら財務省に支配されているのです。それは、国税庁の幹部を見れば明白です。まず国税庁トップである国税庁長官のポスト、これは財務省のキャリア官僚の指定席なのです。そして、国税庁長官だけではなく、次長、課税部長も財務省キャリアの指定席です。国税庁長官、次長、課税部長の3職は、国税庁のナンバー3とされており、つまり、国税庁ナンバー3はいずれも、財務省のキャリアで占められているのです。他にも、強大な権力を持つ、調査査察部長や、東京、大阪、名古屋など主要国税局の局長も、財務省のキャリアが座っています。

国税庁にとって財務省はGHQのようなものなのです。この人事を見れば、国税庁財務省の言いなりになっていることは、誰が見たって明白です。国税庁長官というのは、会社で言えば、「社長」である。社長の言うことに逆らえる社員などはいないはずです。普通の会社であれば、社長の次の権力者などが派閥をつくって、社長派と反社長派などが拮抗するというようなことも、稀にはあります。しかし、国税庁の場合は、社長だけではなく、トップ3が押さえられているのです。これだと、国税庁財務省に刃向うことなど、絶対にできないはずです。

また現場にいた筆者なども、財務省のキャリア官僚というのは、神のような存在であり、逆らうことなどありえない絶対的な支配者であったことを肌身で知っています。つまり、国税庁財務省の絶対服従の子分なのです。

財務省国税庁を握っているということは、実は財務省の権力のカナメになっているものでもあります。財務省というのは、国家的な強い権限を持っていることは、皆さんご存知の通りです。財務省は、国の予算を握っています。建前の上では、国の予算を決めるのは、国会であり、国会議員たちがその策定をすることになっています。しかし、国会議員のほとんどは、予算の組み方などはわかりません。だから、実質的に、財務省が策定しているのです。これは、自民党政権であっても他の政権であっても変わりはありません。

国家予算を握っているということは、莫大なお金を握っているということです。だからこそ、財務省の権力は大きく、他の省庁や経済界などからも恐れられているのです。そこまでは、世間にも十分に認知されているはずです。

しかし、財務省はもう一つ大きな権限を持っています。場合によっては、こっちの権力の方が国に与える影響は大きいかもしれません。その権力というのが「徴税権」です。財務省は、徴税権を直接握っているわけではありません。しかし、財務省の外局である「国税庁」がそれを持っているのです。そして先に述べましたように国税庁は実質的に、財務省の支配下にあります。「徴税権を持つ」ということは、予算権限を持つのと同等か、それをしのぐような強力な権力です。

これまで述べてきたように、国税庁は、国民全部に対し、「国税に関することはすべて調査する権利」を持っています。国民にはこれを拒否する権利はないのです。このような強大な権利を、予算権を持っている財務省が握っているのです。

実は、これは非常に恐ろしい事でもあります。「予算というエサをばら撒くことで言う事を聞かせる」ということのほかに「徴税検査をちらつかせて言う事を聞かせる」ということができるのです。これでは国民も企業も、財務省の言う事を聞くしかなくなる、ということです。

「予算権」と「徴税権」の両方ともを実質的に一つの組織が持っている国というのは、先進国ではあまりありません。予算をつくる機関と徴税を担う機関は、明確に分けられていることがほとんどなのです。日本の財務省への権力集中は異常なことなのです。

そもそも財務省というのは、以前は大蔵省と称されていましたが、大蔵省にあまりに権力が集中しすぎて、たびたび不祥事を起こしたために解体され、財務省に組織替えしたのです。が、生まれ変わったはずの財務省も、大蔵省の「予算」と「徴税」という主要な権力基盤はそのまま引き継がれているのです。「予算」と「徴税」の両方の権力を握っている限り、財務省の不祥事、不正はなくならないと思います。

ところで国税庁長官というポストは、指定職7号とされるものです。財務省事務次官が指定職8号なので、指定職7号というのは、財務官僚にとってナンバー2ということになります。が、国税庁長官を務めた場合、それ以降は上に行かず、そのまま退職することが慣例になっています。だから、国税庁長官は、最高ポストの事務次官レースからは外れた人ということになります。財務省にとって、あくまで国税庁というのは、「格下の存在」なわけです。

佐川前長官も、財務省の出世レースで先頭を走っていたわけではなく、2番手争いの人だったわけです。それでも財務省でナンバー2の地位ですから、相当の出世であることは間違いありません。

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