以前掲載の「メイド・イン・ジャパンの「戦車」は薄すぎて使いものにならない」という記事では、日本は「硬い鉄」の製造が苦手で、戦車製造には向いていないという意外な事実が大きな話題となりました。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では著者で軍事アナリストの小川和久さんが、航空自衛隊のF-2後継機の国産が悲願であるにも関わらず、なかなか実現化しない理由を記しています。

F-2後継機を国産しない背景

日本の防衛戦略にとって、見過ごすことのできないニュースが飛び込んできました。

防衛省は2030年ごろから退役する航空自衛隊の戦闘機F-2の後継機について、国産開発を断念する方向で最終調整に入った。今週中にも米政府に対し、日本が必要とするF-2後継機の性能に関する情報要求書(RFI)を提出し、米企業からの情報提供を求める。防衛省は今後、国際共同開発を軸に検討を進めるが、米国製の最新鋭ステルス戦闘機F-35Aを追加購入する代替案もある。(後略)

(3月5日付朝日新聞)

これについては正反対の報道もあります。

小野寺五典防衛相は6日の記者会見で、航空自衛隊のF-2戦闘機の後継機に関し、同省が国産開発を断念したとの報道について『現時点でどのような判断を行うかは何ら決まっておらず、国産開発を断念したという事実はない』と述べた。防衛省が米国や英国の企業に行った情報提供依頼(RFI)は『さまざまな情報を収集する一環で、決してこれをもって国内開発を断念したことが決まったわけではない』とも強調した。(後略)

(3月6日付産経新聞)

航空自衛隊はF-4戦闘機の後継機としてF-35A42機の導入を決めていますが、さらにF-15の非改修型110機の後継にF-35A(一部F-35B)が導入される可能性があり、F-2後継90機にもF-35Aを導入した場合、242機がF-35A(一部B)という戦力構成になります。

これによって航空自衛隊の能力は飛躍的に向上することは間違いありませんが、一方、F-2後継機の国産は航空自衛隊にとって悲願でもあります。

そこに立ちはだかるのが、国際水準を満たした戦闘機を国産化できるのかという前提条件です。

朝日新聞の記事は、「財務省は『巨額の開発コストがかかる』として難色を示した。また、三菱重工は子会社による国産ジェット旅客機(MRJ)の開発に苦戦している現状もあり、政府内で『戦闘機の自国開発はリスクが高い』との見方が強まった」と報じていますが、三菱重工が抱える問題だけではありません。

日本の防衛政策には研究開発に明確な思想がない結果、まともな戦闘機が生まれない可能性のほうが高いと言わざるを得ないのです。

関係者にしか知られていないことですが、一例として国産初の超音速機T-2ジェット高等練習機のケースがあります。T-2はカタログデータこそ欧州のジャギュアをしのいでいたものの、デッドコピーだと悪評が立つ側面もありました。トップガンを集めた飛行教導隊でも使用されましたが、パイロットの殉職が相次ぎ、運用開始16年後の1990年4月に予定を早めてF-15DJ(復座型)に機種が変更されたりしているのです。T-2では合計11人のパイロットが殉職しています。

マニアには愛好家が多いF-2戦闘機も、外見からはわからない欠陥の克服に労力が割かれてきました。また、製造コストも1機120億円と、F-15戦闘機に匹敵するほど高くなってしまったのです。

こうした戦闘機や練習機が生まれる根本的な原因は、防衛費における研究開発費の割合が列国に比べて低く(2017年度2.5%)、絶対額も少ないことです。

そこにおいては、外見とカタログデータだけでも国際水準を満たした装備品を開発しようとする点にウエイトがかかり、本当に信頼性の高い兵器を開発することがおざなりになってしまうのは、避けがたいことなのです。

この問題を解決するには、政治のリーダーシップの下、自衛隊の適正規模を国民に問いかけ、自衛隊の規模の適正化と同時に防衛費の適正規模化を図る必要があります。

研究開発の思想、つまり戦略がないところで生まれる国産戦闘機は、マニア的な満足にはつながるかもしれませんが、国防に穴を開ける結果となることを忘れてはなりません。

この現実を理解している関係者は、航空自衛隊は当然として、防衛省にも、そして財務省にも少なからず存在しています。だからこそ、国産断念という財務省の判断を、涙を呑んで受け入れる方向が生まれているのです。

6日になって、読売新聞も関係者に取材した結果として、朝日新聞の後追い記事を出しました。国産断念の方向が一気に動き出した感じです。(小川和久)

image by: WikimediaCommons(z tanuki)

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