伝統の長距離GI天皇賞・春(4月29日/京都・芝3200m)の前哨戦となる、GII阪神大賞典(阪神・芝3000m)が3月18日に行なわれる。

 3000mという底力が問われる距離のうえ、一線級の馬がここをステップにして天皇賞・春を目指すことが多いため、とにかく”堅い”レースとして知られる。昨年も3連単の配当がわずか740円。過去5年を振り返っても、3連単の最高配当が2015年の8090円と、穴党の出番はほとんどないレースとなっている。

 ところが、今年は少し様子が違う。例年であれば、軸となるGI馬が必ず1頭はいるのに、今年はそういう存在がいないのだ。

 その要因としては、このレースと同様に、これまでは天皇賞・春へのステップレースとされていた大阪杯(4月1日/阪神・芝2000m)が昨年からGIに格上げされ、さらに大阪杯の前日にはドバイワールドカップが開催されて、古馬中距離路線の主力となる有力馬のほとんどが、それらのレースに流れてしまっているからだろう。

 そうした状況にあって、目下人気を集めそうなのは、昨年のGI菊花賞(10月22日/京都・芝3000m)で2着に入ったクリンチャー(牡4歳)と、年末のGIIステイヤーズS(12月2日/中山・芝3600m)で3連覇を遂げたアルバート(牡7歳)である。

 とりわけクリンチャーは、今年の初戦となった前走のGII京都記念(1着。2月11日/京都・芝2200m)で、同世代の皐月賞馬アルアインとダービー馬レイデオロを見事に完封。ここに来て「ひと皮むけた」という高い評価を受けて、1、2の支持を集めることは間違いないだろう。

 だが、この2頭で「絶対ではない」とデイリー馬三郎の吉田順一記者は断言する。

「凱旋門賞(フランス・芝2400m)出走を視野に入れて、クリンチャーの鞍上は今回から武豊騎手にスイッチ。話題性もあって、おそらく1番人気に推されるでしょう。

 しかし、2着になった菊花賞はかなりレアな不良馬場での結果。京都記念にしても重馬場でした。2戦とも極端に上がりのかかる舞台であったことは事実。クリンチャーは腹袋が大きくて確かにスタミナは豊富ですが、反応がひと息で、緩急に課題を残しています。

 一方、ステイヤーズSで3連覇を果たしたアルバートも、やや時計がかかる舞台を得意とするタイプ。ステイヤーズSにしても、中山開催の開幕週に行なわれていますが、馬場はエアレーションなどで軟化作業が施されています。明け7歳となってもハイパフォーマンスを維持しているのは立派ですが、瞬発力勝負になった場合はどうか。

 現に、今の阪神は高速馬場ですからね。それぞれ、その舞台に対応できるかどうかは疑問です。加えて、今回は2頭ともテン乗り。武豊騎手にしても、アルバートに騎乗する福永祐一騎手にしても、この先の天皇賞・春を意識するのは当然で、前哨戦のここで消耗することだけは避けたいところでしょう。

 そんな関係者の思惑と、現在の馬場状態を考慮すれば、今回に関しては2頭とも絶対的な信頼は置けません」

 では、現実的に考えて、人気馬2頭が苦手とするような展開、流れとなるのか。日刊スポーツの松田直樹記者はこう語る。

「近年の長距離戦は、スローペースからの切れ味勝負になりがち。2013年以降の3000m超のレース32鞍を例にとっても、そのうち19鞍でメンバー最速の上がりを記録した馬が勝っています。

 もちろん、スタミナ豊富な長距離のスペシャリストたちが活躍することもありますが、多少の距離不安があっても、意外とこなせてしまう設定になっています。瞬発力上位の馬が穴をあけても、特段驚くことはありません」

 実際に速い決め手勝負になった場合、クリンチャーはまさに「危険な人気馬」と指摘するのは、スポーツニッポンの小田哲也記者だ。

「クリンチャーはここに来て力をつけているのは確かですが、京都記念の勝利は、馬場に泣いて、折り合いを欠いたレイデオロの”自爆”があってのもの。極端なヨーイドンの競馬になれば、やはりクリンチャーには疑問符がつきます」

 こうした注意点を踏まえたうえで、松田記者はサトノクロニクル(牡4歳)を一番手に指名した。


決め手勝負になれば、十分に出番があるサトノクロニクル

「サトノクロニクルは、昨年2月の水仙賞(中山・芝2200m)で上がり33秒7という末脚を使って2着に突っ込んできたように、今年のメンバーの中では屈指の決め手を持っています。昨秋の菊花賞こそ10着に敗れましが、特異な不良馬場の競馬でしたから、参考外と考えていいでしょう。

 2走前のチャレンジC(12月2日/阪神・芝2000m)では、3歳ながら古馬を破った素質馬。さすがに前走の有馬記念(12月24日/中山・芝2500m)では、古馬一線級相手に屈したものの、猛威を振るう明け4歳世代の中でも、上位の潜在能力があるはずです。上がり勝負の展開になれば、一発があってもおかしくありません」

 サトノクロニクルについては、吉田記者も推奨する。

「不良馬場の菊花賞は動けず、有馬記念は力負け。陣営も公言しているように、体つきも華奢(きゃしゃ)。古馬になってじわじわと力をつけていくタイプで、完成途上の段階でチャレンジCを制したのは素質の高さでしょう。有馬記念のあと、この3カ月の間でどこまで成長しているのか見ものです。

 ハーツクライ産駒ながら、時計勝負にも対応できるのは心強い限り。有力馬よりも、1、2kg軽い斤量55kgで出走できるのもプラス。得意の阪神で、時計の速い決着になれば、芝3000m戦でも好勝負に持ち込めるのではないでしょうか」

 吉田記者はもう1頭、一昨年の菊花賞2着馬レインボーライン(牡5歳)の名前を挙げた。

「サトノダイヤモンドが勝利した菊花賞の2着馬で、馬場不問で走れるタイプ。後方からいく脚質のため、流れに左右される部分はありますが、上がり勝負になりやすい阪神・芝3000mという舞台設定は向いていると思います。道中は、有力馬のクリンチャーやアルバートを見る形で運べるのもプラスに働きそう。

 一昨年のGII札幌記念(3着。札幌・芝2000m)、昨年のGI天皇賞・秋(3着。東京・芝2000m)など、間隔を空けたときのパフォーマンスのよさは見逃せません。タフな天皇賞・秋の激走から、疲れが残ったその後の2走を度外視すれば、クリンチャーやアルバートと比べても遜色ない実力馬。こちらは、乗り慣れた岩田康誠騎手が手綱を取るのも、大きなアドバンテージになると思います」

 レインボーラインについては、松田記者も同意する。

「レインボーラインは決して瞬発力型ではありませんが、最後までじわじわと脚を伸ばしてきます。勝負根性のある馬で、距離、馬場状態を問わず、相手なりに走れるのが最大の持ち味。軽視は禁物です」

 高速馬場で力を発揮しそうな馬を見出すアプローチは同じながら、松田記者と吉田記者とはまったく異なる結論を導き出したのは、小田記者だ。

「今の阪神のような馬場であれば、面白いのはカレンミロティック(セン10歳)。前走の有馬記念は枠順(15番枠)に泣かされて、惨敗(15着)を喫しましたが、その前のGIIアルゼンチン共和国杯(11月5日/東京・芝2500m)では、アルバートと同タイムの5着とまだまだやれるところを示しています。

 ある程度前にいくクリンチャーであっても、この馬に競りかけるようなことは考えにくく、もしこの馬がうまく前で運ぶ流れになれば、極端な後半勝負にはならないでしょう。カレンミロティックが気持ちよく走って、そのまま粘り込むシーンがあっても不思議ではありません」

 一昨年の天皇賞・春では、あのキタサンブラックをゴールの瞬間まで苦しめたカレンミロティック。その走りが再現されれば、ここでも「十分に勝算が立つ」と小田記者は言う。

 そして、小田記者ももう1頭、推奨馬がいるという。重賞勝ちはないものの、昨年6月の1600万特別・グリーンS(阪神・芝2400m)でレコードタイムを叩き出した、シホウ(牡7歳)である。

「昨秋からの4戦はすべて関東遠征の競馬。長距離輸送の影響は少なからずあったと思います。しかし今回は、輸送の負担が少ない阪神。しかも、同馬にとっては得意の舞台です。重賞の実績は劣りますが、一発の魅力を大いに感じています」

「2強」が力を示して、例年どおり”堅い”決着となるのか。あるいは、GI馬不在という今年は、思わぬ伏兵馬の台頭があるのか。 無論、望むのは後者。ここに挙げた穴馬が、”春の大嵐”を起こすことを期待したい。

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