本田圭佑の復帰は、もちろん歓迎すべきである。パチューカでのプレーからすれば当然だが、15日に発表されたメンバー発表は彼の復帰だけが論点ではないはずだ。

 なぜ、乾貴士は選ばれなかったのだろう。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が想定する乾のポジションは、3トップの左ウイングである。最終予選では原口元気がレギュラー格で、今回は宇佐美貴史と中島翔哉が選ばれた。

 宇佐美は復調気配だ。デュッセルドルフでこのところゴールをあげており、選ばれるべき選手である。

 中島も結果を残している。彼もまた呼ばれるべき選手だ。

 原口を加えると、左ウイングの候補が3人になる。乾をプラスしたら4人だ。2試合で全員を均等にテストすると、ひとり45分になってしまう。さすがにちょっと、人数が多いかもしれない。

 メンバー選考は監督の専任事項だ。個人で局面を打開できるドリブラーとして、原口も、宇佐美も、中島も期待値は高い。チーム結成当初からの選考を振り返れば、宇佐美はハリルホジッチ監督のお気に入りだ。

 それぞれの選手の足元を見てみる。

 乾のリーガ・エスパニョーラが、ブンデスリーガ2部やポルトガルリーグ1部に見劣りするか。そんなことはないだろう。「クラブでの活躍」を選考条件にすれば、彼が外れる理由はない。

 プレーにマイナス要素もない。左サイドからの仕掛けはもちろん、ディフェンスでもハードワークする姿勢は、格上に挑む日本の戦いに重なるところがある。ロシアW杯での戦略にまで考えを広げると、乾を選んでおくべきだったと思うのだ。

 中盤では井手口陽介が外れた。1月に移籍したクラブで、彼は十分なプレー時間を確保できていない。選外はしかたのないところだが、柴崎岳の復帰は注目に値する。

 ヘタフェでのプレータイムは、率直に言って物足りない。それでも期待したいのは、リスタートのキッカーとして、である。

 W杯における日本の戦略として、リスタートの有効活用は欠かせない。かつては中村俊輔が、その後は遠藤保仁と本田がいたことで、日本はリスタートを得点パターンにすることができていた。彼らが国際試合で決めてきた直接FKは、対戦相手への威嚇効果となっていた。

 ハリルホジッチ監督の日本代表はどうだろう?

 本田が復帰せず、井手口もいなければ、果たして誰が直接FKを蹴っていたのか? クラブで蹴っている選手はいる。クラブで決めている選手もいる。ただ、対戦相手に「ペナルティエリア付近でファウルをするのは危険だ」と思わせるようなキッカーは、現在のチームに見当たらない。

 今回のヨーロッパ遠征で、日本はマリとウクライナと対戦する。メンバーが発表された現在の空気感としては、復帰した本田と初招集の中島が注目されるだろう。吉田がいない最終ラインでは、森重のプレーに視線が注がれそうだ。

 彼がどれだけできるのかは、もちろん重要である。ただ、W杯は3か月後に迫っているのだ。ロシアで対戦するコロンビア、セネガル、ポーランドの関係者は、マリ戦とウクライナ戦の映像を取り寄せるだろう。日本の戦いを分析するはずだ。

 相手を戸惑わせるような武器を、ここで見せておきたい。これまで日本が見せてこなかった攻撃のパターンで、得点を奪っておきたい。

 コロンビアも、セネガルも、ポーランドも、最終ラインには人に強いフィジカル自慢のセンターバックがいる。流れのなかで攻略するとなると、どうしても身体能力の劣勢が障害になる。

 それだけに、リスタートは重要になる。得点パターンとしなければならない。

 本田、中島、宇佐美らが個人でゴールを奪ったりすれば、メディアは「W杯出場へのアピール」と騒ぎ立てるに違いない。もちろんそれは悪いことでないのだが、マリとウクライナはW杯に出場しない。ヨーロッパでプレーしている選手も、各国リーグが終盤に差し掛かるこの時期にケガをしたくない。W杯で対戦する国とは、相手の熱量が明らかに違う。

 むしろ欲しいのは、リスタートからのゴールである。乾を押しのけて招集された左ウイングの候補者には、ゴールを直接狙える位置でファウルを獲得してほしい。その直接FKを、本田なり柴崎なりに決めてほしいのである。

 W杯開幕が3か月後に迫り、これから先は情報戦でもある。「マリとウクライナに勝ったからOK」ではなく、どうやって戦い、どうやって勝つのかが重要なのだ。