YouTubeが新しく採用した広告に関するルールは小規模なチャンネルを「マネタイズ解除」している。YouTubeが設定した基準を満たしていないチャンネルに関しては、クリエーターと契約しているネットワークたちも、契約解除せざるを得ない状況になっている。

パートナープログラムに関してYouTubeが1月に発表した新しいルールが、2月20日から施行された。それによると、プログラムに参加するためにチャンネルは少なくとも1000人の登録者数と4000時間の再生時間を過去12カ月間に得ていなくてはいけない。このふたつの条件が満たされたあと、はじめてYouTubeはチャンネルの評価をする。そこでスパムでないか、不適切なコンテンツを含んでいないかといった項目をチェックし、最終的に広告の表示を許可する。これはYouTubeにおけるブランドセーフティ対策の一環だ。

今回の変更がYouTubeにおける広告収益に与えるインパクトはそれほど大きくない、と複数のYouTubeネットワークは述べている。YouTubeの計算によると、影響を受けるチャンネルの約90%は1カ月に2ドル50セント(約265円)以下の収入しか稼いでいなかった。しかし、これらを合計すると月間何万ドルもの収入がクリエーターたちから失われたことになる。

打撃を受けるネットワーク



この変更によって甚大なダメージを受けるネットワークが多く存在していることは明らかだ。50以上のYouTubeネットワークやインフルエンサーマーケティング会社にマネージメント用のツールを提供しているテック会社、パラディン(Paladin)の推測では、これらのネットワークが抱えるチャンネルのうち80%以上が新しい基準に満たないという。

オッター・メディア(Otter Media)が所有するフルスクリーン(Fullscreen)とベント・ピクセルズ(Bent Pixels)は、今回の変更を受けて小規模なチャンネルのクリエイターたちとの契約を解除した。彼らのクリエーターのうち、何人と契約解除をしたかは、フルスクリーンは教えてはくれなかった。ベント・ピクセルズはかつて、2万3000ものチャンネルを抱えていたネットワークだったが、CEOのマイク・プサテーリ氏によると、現在抱えているクリエーターの数は約1100人とのことだ。ジャンルはゲーム、エンターテイメント、ライフスタイルが中心となっている。

「我々はタレントのブランドソリューションに対して、大きくリソースを割いて取り組んでいる。そのための今回の決断だ。また何万人ものクリエーターを効率的にマネージメントしながら、コンテンツを満足がいく形でモニタリングすることは難しく、リスクが高すぎると考えたからだ。これらのガイドラインは今年以降、さらに厳格化されることを我々は予測している」と、プサテーリ氏は語った。

さまざまなサポート体制



フルスクリーンのソーシャルビデオ戦略部門シニア・バイスプレジデントであるジョン・ホルドリッジ氏によると、YouTubeの新しいルールが原因でフルスクリーンが小規模なクリエイターとの契約を解除したのは事実ではあるものの、こういったクリエイターたちを今後もサポートし続ける方法を探っているという。いくつかのクリエーターに対しては、異なるプラットフォームにコンテンツをアップロードして、オーディエンスを拡大させるためのツールやサービスをフルスクリーンは提供している。基準となる値を超えれば、フルスクリーンはまた契約を結ぶと、ホルドリッジ氏は言った。

ホルドリッジ氏によると、新しいルールは2月20日から施行されるということで、それまでに発生した広告収入はチャンネル登録者数や再生時間の基準に満たないクリエーターにも支払われるとのことだ。

「また、マネタイズ解除されてしまったクリエイターたちが今後成長するためのサポートの方法についても探っている。たとえば、これまでのコンテンツの種類とは違う種類を作るのが良いのかとか、継続してオーディエンスを伸ばせるようなオーディエンス開発戦術があるのだろうかといった具合だ」。

契約を続けるネットワークも



とはいっても、小規模なクリエイターたちと契約を解除しているネットワークばかりではない。チャンネル・フレデレーター・ネットワーク(Channel Frederator Network)はアニメーションにフォーカスを据えた3000チャンネル程度のネットワークだ。彼らはマネタイズを解除されてしまったチャンネルにもサービスのすべてを提供すると述べた。フレデレイター・スタジオ(Frederator Studios)のプログラミングネットワーク部門バイスプレジデントであるジェレミー・ローゼン氏によると、今回のYouTubeのルール変更の影響を受けるのはネットワーク全体のうち3分の1程度だ。

YouTubeは新しいルールを発表したときに、ネットワークたちに特別な通知などを送ることはしなかった。しかし、チャンネル・フレデレーター・ネットワークは、それまでの契約を今後も維持するということを素早く決定したと、ローゼン氏は語った。

「契約から去ってしまったのは我々ではない、YouTubeだ。すでに結ばれた契約における基準をYouTubeが変えてしまうからといって、我々が契約を解除してしまって良いとは思えない」と、ローゼン氏は言う。

大手YouTubeネットワークのなかには何万ものチャンネルを抱えるものが存在しているが、チャンネル・フレデレーター・ネットワークはそれよりは小規模でフォーカスが絞られていることが、ここでは長所となっている。もちろんクリエイターとの契約を維持するという彼らの判断は利他的な理由だけではない。彼らが抱えるフレデレーター・スタジオによるビジネスを通じて、ネットワークに所属するクリエーターを使ってアニメーション短編ビデオやその他のビデオシリーズを制作させるというプロジェクトを成功させてきている。

ローゼン氏は「ネットワークは我々にとって、タレントの宝庫ともなっている」と言った。

エコシステムがより健全に



パラディンのCOOであるトーマス・クレイマー氏は、今回のルール変更は大手ネットワークにとって逆にメリットとなる点もあると指摘する。今回の変更によって、彼らがクリエーターに提供している音楽著作権の申請やその他基本的なサービスなど間接費が削減されるからだ。

「それに加えてネットワークたちが主張していた、彼らが抱えるクリエイターの数は多かれ少なかれ水増しされていた。ディズニーに対して『我々はディズニープロダクトをセールスできる5万人のクリエーターを抱えています』と言えることが重要だった。しかし、誰しもが現実を知るようになった。ちゃんとしたインフルエンサーマーケティングキャンペーンであれば、最近は数えるほどのタレントしか起用しない」と、クレーマー氏は述べた。

広告主はYouTubeの今回の変更を喜んでいる。

広告エージェンシー、エピック・シグナル(Epic Signal)のファウンダーであるブレンダン・ガーハン氏は言う。「今回の変更のおかげで、しっかりと確立されたチャンネルが誤ってマネタイズ解除されてしまうといった事態も減るだろう。それによって長期的にはエコシステムがより健全になる。YouTube上でお金を使う広告主にとっても、より高いブランドセーフティが実現されるはず。YouTubeはリソースをより少ないチャネルに割くことができるからだ」。

Sahil Patel(原文 / 訳:塚本 紺)