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瓦、こと古美術の世界における瓦は、それが使われていた時代と、どこの寺院で使われていたものか、つまり由緒正しさ=”伝来”がその価値を大きく左右する。天平瓦などは、由緒正しき瓦の代名詞として挙げられるだろう。いづれにしても、屋根葺きの建材という瓦本来の役割を離れた瓦の鑑賞のされ方は、背後に花を添える瓦花器と呼ばれる形だ。瓦の乾いた質感が花の瑞々しい生命力を引き立てて、一般的な壺や土器、ガラスの花器とは異なった空気を生むことができるのである。

いつ頃、誰の思い付きで瓦に花を生けるという趣向が流行ったのかは定かではない。しかしその楽しみ方は思いの外、奥行きと広がりを持っていたために、今や瓦は花を楽しむ骨董品のひとつとして、古美術の世界でその地位を確立しているのである。




瓦(換気口に使われていたと思われる) 明治時代


今回ご紹介するこの瓦。七宝の華麗な装飾が施されたデザインが目を惹く。よくよくみれば、そのデザインのお陰で隙間が多いのが分かる。鑑みるに、おそらく蔵などの換気口に取り付けられていたものだと推測される。裏側には脚が付いており、瓦の端と端をワイヤーで結んで壁のピクチャーレールにぶら下げてみると、こんな風に絵画的に楽しむ事が出来る。低温で焼成された独特な質感が、堅牢な様と同時に危うさや脆さといった一面をのぞかせている。だからこそというべきか、敢えて花を添えずに楽しんでみたいと思う。この瓦自体が持つデザイン性と、質感の妙が、鑑賞に耐えうる力強い存在感を匂いたたせているからである。

ここで瓦の話から一旦離れてしまうことになるが、私の店に足を運んでくださるお客さんには、デジタル関係の仕事をされている方が多いように思う。携帯電話やパソコンといったデジタル製品が生活の必需品となった現代では、全てが手作りの一点ものの骨董品や焼き物の、偶然の産物で出来上がったようないびつさ、自然の素材が持つぬくもりに人々が心惹かれるのは、ある意味本能的なことと言えるかもしれない。

Macbookの生みの親である故スティーブ・ジョブスは、室町時代の信楽壺のコレクターとして知られていたことをご存じだろうか。彼が来日した際、多忙を極める仕事の合間をぬって古い壺を探し歩いてコレクションされていた姿が、私の記憶にも残っている。デジタルが進めば、人は対極にあるものでバランスを取りたくなるものだ。骨董の愛好家にとって、ものの質感は何よりも心の安らぎと癒しをもたらすひとつの愛すべき基軸なのだ。

ここでひとつ想像してみたい。真っ白な無機質な空間に、Macbookproが並ぶ大きなテーブルがある。壁にはアンディー・ウォーホルやロイ・リキテンシュタインの絵画。一昔前なら、これはこれで完結したクールさだった。でももし仮に、この瓦がひとつ、ぽつねんと同じ空間にぶら下がっていたりしても、それはまた別世界からの使者として現代人の目には新鮮にうつるのではないか。今、骨董品や焼き物が宿すそんな原始的なクールさに共鳴する人が増えていると、確信めいた思いを抱いている今日この頃なのである。



≪ NAVIGATOR プロフィール:坂本大 ≫
1987年生、佐賀県唐津市出身。大学在学中にロンドンへ留学。大学卒業後、現代アートのギャラリー勤務を経て、現在、唐津焼の専門店「一番館」の東京支店にて、好きな焼き物に囲まれながら、GALERIE AZURマネージャーとして勤務している。

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