駅力を数値化することで比較を試みた。ちなみに東京駅は4位(写真:ぱりろく/PIXTA)

「駅力」と聞いてみなさんは何を思い浮かべるだろうか。乗降人数や駅ビルや周辺の商業施設の充実度などを挙げる人は多いだろう。しかし駅力に関しては定性的な情報を基にして評価するものが多く、それらの基盤となるような定量的な数値はあまりない。


東洋経済オンライン「鉄道最前線」は、鉄道にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら。

そこで時刻表を活用し、個人の交通利便性に焦点を当て定量的に駅力を示した「駅力指数」 (SPMI : Station Power Model Index )を開発した。SPMIの算出にあたっては、駅ごとに列車を各駅停車、快速、特急など種別、そして平日・休日に分けて、列車の運行本数とその列車が乗り換えなしに移動可能な駅数を算出し、同一改札内および乗り換えが可能と考えられる半径200m以内にある駅を同一駅としてまとめている。まとめる際に駅名が違う場合は、SPMIが一番大きい駅名で明記している。

上記の算出方法を用いて、2014年度の時刻表を基に1都6県(東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、茨城県、栃木県、群馬県)のJRと地下鉄を含む私鉄全151路線、計2519駅のSPMIを算出し、乗り換えが容易な駅は統合して1866駅にまとめてみた。

千葉県の1位は本八幡駅

1都6県でSPMIが最大となる駅を都県別で見ると東京都が新宿(1都6県順位は1位)、神奈川県が横浜(同9位)、千葉県が本八幡(同52位)、埼玉県が大宮(同50位)、茨城県が守谷(同561位)、群馬県が高崎(同580位)、栃木県が小山(同671位)という結果になった。


乗り換えが容易な駅は統合するので、新宿駅は新線新宿、本八幡は京成八幡を同一駅としてまとめている。1866駅の状況を紹介するにはさすがに誌面が足りないので、今回は4ページ以降に1都3県の上位50駅、下位50駅を紹介しているので、ぜひ参照いただきたい。

なお、SPMIを用いることで、ライバル関係にありそうな駅の駅力を客観的に比較することも可能となる。そこで、いくつかの視点でライバル関係にありそうな駅をピックアップして、SPMIを比較してみた。その結果は以下のとおりだ。

1. 横浜駅VS大宮駅――神奈川と埼玉の拠点駅

東京都の南と北に位置する神奈川県と埼玉県のSPMIが1位の横浜駅(SPMI : 43400, 9位)と大宮駅(SPMI : 18800, 50位)では、両駅のSPMIは乗り入れ路線数が1つしか違わないにもかかわらず24500の差がある。両駅ともにJR京浜東北線、JR成田エクスプレスやJR湘南新宿ラインが乗り入れるが、JR京浜東北線では平日1日上下線合わせて横浜駅発の列車数が277本に対し、大宮発は185本、JR成田エクスプレスは、平日1日上下線合わせて横浜駅発の列車数が40本に対し大宮駅発は2本と発車本数に差がある。また横浜駅でSPMIが一番大きな路線は京急本線の約10400であり、大宮駅ではJR京浜東北線の約6500という結果からも駅力の差が生まれたことがわかる。

2. 川崎駅VS柏駅――京浜東北線が影響


川崎駅は横浜駅に次いで神奈川県第2位(写真:HAKU/PIXTA)

東京都から神奈川県への玄関口として位置し、1日平均乗車人員が神奈川県内で横浜駅に次いで2位の川崎駅(SPMI : 14300, 82位)と学園都市へ変貌した千葉県の柏駅(SPMI : 10700, 147位)はともにプロサッカーチームを保有している共通点がある。乗り入れ路線は川崎駅が3路線、柏駅が細かく分けて3路線と変わりはないが、2つの駅の差を生んでいるのは横浜駅と大宮駅を結ぶJR京浜東北線の影響だ。各駅停車で川崎駅からは最大34駅の移動が可能で、快速等も合わせれば上下線で1日に約460本の列車が発車している。

東京メトロの乗り入れで差が付いた

3. 吉祥寺駅VS自由が丘駅――「住みたい街」の両雄

住みたい街として上位に入る吉祥寺駅(SPMI : 15700, 68位)と自由が丘駅(SPMI : 12600, 110位)のSPMIを比べると吉祥寺駅が3100上回る。吉祥寺駅は、JR中央線やJR成田エクスプレスなど東京都と千葉県を結ぶ路線が細かく分けて7つ乗り入れている。それに対し自由が丘駅は東京都と神奈川県を結ぶ路線が2つ乗り入れている。両駅のSPMIを眺めると、吉祥寺駅のJR中央線関連と京王井の頭線をまとめた値と、自由ヶ丘駅の東急東横線と東急大井町線をまとめた値はほぼ同等であるが、吉祥寺駅には東京メトロ東西線が乗り入れている分SPMIが大きくなっている。

4. 浅草駅VS柴又駅――外国人客が増えてきた両駅

多くの外国人が訪れる浅草駅に対し、近年外国人向け宿泊所や昔ながらの街並みに引かれ外国人客が増えてきている柴又駅を比較してみた。浅草駅(SPMI : 16500, 63位)は、都営浅草線、東京メトロ銀座線と東武伊勢崎線が密集しており、少し離れた場所につくばエクスプレスの浅草駅(SPMI : 2780, 801位)もあり、4路線のSPMI合計は19280だ。それに対し東京都の北東部に位置する柴又駅(SPMI : 168, 1812位)は、京成金町線のみが乗り入れSPMIは168と非常に小さい。浅草駅に比べるとSPMIは100分の1だが、外国人の新たなニーズと観光資源を上手く利用することにより魅力を引き出した1例だ。

5. 秋葉原駅VS池袋駅――男女のアニメ聖地

大型電気量販店が存在しクールジャパンに欠かすことの出来ないアニメの聖地である秋葉原駅(SPMI : 44200, 8位)と池袋駅(SPMI : 50500, 3位)では、池袋駅のSPMIが6300大きい。乗り入れ路線の平均SPMIは秋葉原駅が池袋駅よりも約3200大きい。秋葉原駅に乗り入れている路線が5つに対して池袋駅は9つと乗り入れ路線が多いために池袋駅が大きいという結果となった。

6. 舞浜駅VS豊洲駅――東京駅から所要時間ほぼ同じ

東京駅からほぼ同等の移動時間で、住宅地や商業施設の人気がある舞浜駅(SPMI : 3820, 610位)と豊洲駅(SPMI : 8740, 185位)では、両駅とも乗り入れ路線が2路線と条件が同じであるが、SPMIに4920の差が生まれた。要因として東京メトロ有楽町線の存在は大きく、豊洲駅から乗り換えなく最長で埼玉県の森林公園駅までは40駅移動が可能である。また東京メトロ有楽町線の発車本数は、舞浜駅を走るJR武蔵野線とJR京葉線よりも多く、1路線で舞浜駅のSPMIを超えている。

7. 関内駅VS海浜幕張駅――プロ野球対決


関内駅は海浜幕張駅に圧勝(写真:sunny/PIXTA)

横浜スタジアムの最寄駅である関内駅(SPMI : 11400, 136位)とZOZOマリンスタジアムがある海浜幕張駅(SPMI : 2600, 853位)では、8,800の差がある。その大きな要因としては、JR根岸線とJR京浜東北線が相互乗り入れしているため、移動可能な駅数も多いことが挙げられる。海浜幕張駅は、主に東京湾沿いを走るJR京葉線のみで内陸部と結ぶ路線もないため値が小さくなっている。

8. 新橋駅VS汐留駅――新旧ビジネス街対決

隣接する新旧ビジネス街である新橋駅(SPMI : 46800, 5位)と汐留駅(SPMI : 10300, 153位)の対決は、新橋駅のSPMIが36500大きいことがわかる。乗り入れ路線が新橋駅は7つに対し汐留駅は2つと少なく差が大きくなるのもわかるが、新橋駅は東京都を中心に千葉県、神奈川県、埼玉県に直接乗り入れる路線が走っているため、多くの地域から人を集めることができるという点で優位だ。

地域活性化のきっかけに

SPMIの8番勝負で、当初のイメージと違った部分があっただろうか。乗り換えなしに容易に広範囲に行けることを個人の交通利便性が良いと考えたSPMIだが、逆に考えればSPMIが大きいほど広範囲から人を呼びこめるともいえる。

SPMIの分布はJR山手線を中心に都心部に大きな値が集中しており、郊外に広がった人口分布も利便性を求め都心回帰を起こしていることがわかる。このような中で少子高齢社会や人口減少などによる社会経済問題に対し、SPMIを活用することにより地域および地域間の活性化をはかるきっかけが提供できる。

都市部一極集中ではなく、広範囲で賑わいのある街が戻ることに寄与できれば幸いだ。