携帯電話の「電話」機能について考えてみた!

先日電車に乗っている時、車内に携帯電話の着信音が鳴り響いたことがありました。音の出どころは年配の男性のポケットのあたり。10秒ほども鳴り続けたあたりでようやく男性が気が付き電話に出ると、「あーすまん、今電車の中でな、気が付かんかったわ」と悪びれる様子もなく、また「電車の中だから後で掛け直す」ということもなく、普通に電話を続けていました。

かつては「携帯電話の電磁波が体に悪影響を与える」という理由から電車内での通話や通信を禁じていた鉄道会社の方針は、電磁波の影響が軽微であるという観点から「周囲の利用客の迷惑にならないように」というマナーへと変化していきましたが、今でもそういったマナーをあまり気にせず通話している人は時々見かけます。

みなさんは電話というテクノロジーについて、どういった印象を持っているでしょうか。便利な仕事道具?煩わしいもの?人との大切な繋がり?その利用シーンや状況次第で様々なイメージを持つのではないかと思います。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はそんな「電話」にまつわるお話を少ししたいと思います。


みなさん、最近誰かと通話しましたか?


■若者の電話離れ?数字から読み取る世代間格差
情報サイト「しらべぇ」は2017年11月に、全国20代から60代の会社員の男女481名を対象とした「会社の電話について」の調査を実施しました。その公開したデータによれば、若い世代ほど会社にかかってくる電話の応対が嫌いであるという結果になっています。

また記事には「電話は時間泥棒である」といった意見も取り上げられており、通話相手が一方的に相手に連絡を行うという行為そのものが迷惑がられているといった情報も掲載しています。


どうやら50代や60代あたりに大きな壁がありそうな電話応対問題(しらべぇより引用)


まさに「若者の電話離れ」とゴシップ的なタイトルを付けたくなるような衝撃的な調査結果ですが、実は筆者もこれには心当たりがあります。というのも筆者自身がどちらかと言えば電話嫌いの人間だからです(大変残念ながら若者ではありません)。

前述のように、電話という連絡手段はとても自分勝手なものです。自分が相手に電話をする時、相手の都合は一切考えていません。もちろん深夜や早朝など常識的に電話をかけるべきではない時間は誰でもマナーとして極力利用を控えると思いますが、それ以外のデイタイムなどは「この時間なら大丈夫だろう」と“当たり”をつけて電話をしているに過ぎません。相手がその時間に会議中であったり、席を外していたり、重要な商談の最中であったりなどは知る由もありません。

電話を掛ける側としても、これはあまり良い連絡手段とは言えません。相手が何かの都合で電話に出られない時、無駄な時間を費やすことになります。伝言サービスなどがあるなら多少は無駄も減りますが、通話できないことに苛立ったり何度もかけ直す必要があるなど、リアルタイム性の強い連絡方法のデメリットが強く出てしまうのです。

昔はそれでもあまり不満を感じることはありませんでした。なぜなら電話以上に便利な遠方への連絡手段がなかったからです。しかし現代にはメールやSNS、オンラインチャットなど、様々な連絡手段が豊富に揃っています。もはやリアルタイム性のみにしかメリットがない電話はデメリットばかりが強調される時代となっているのです。


忙しい時にかかってきた電話にイラッとした経験は誰にでもあるだろう


■文字による連絡手段の発展がコミュニケーションの在り方を変えた
こういった現代の「電話」を取り巻く状況を鑑みると、しらべぇによる調査結果にも合点がいくように思えます。50代後半から60代以上の年配層はSNSやチャットアプリといったものに馴染みが薄く、またそういった連絡手段を積極的に活用する世代でもありません。一方で40代以下は携帯電話の普及とともに社会人生活を過ごしてきた世代でもあり、コミュニケーションに関連するテクノロジーの発展を上手く仕事や私生活に活用してきた世代だと捉えて良いでしょう。

当然その傾向は若い世代ほど強まります。メール、SMS、SNS、そしてチャットアプリと、様々な連絡手段を便利なコミュニケーションツールとして用途に応じて使い分け、自分を表現してきた世代だからです。20代の社会人に至っては、LINEやTwitter、Facebook、そしてInstagramを使い分けていない人のほうが少ないかもしれません。

そしてこういった「文字を主体とした連絡手段」には、電話にはないメリットが複数存在します。会話内容をあとで読み返す事ができ、細かな書き間違いや伝え間違いを確認して訂正することも容易です。記憶に頼らないため「言った、言わない」から始まる水掛け論的な言い争いも減ります。非リアルタイム通信であるために相手の都合を邪魔することもありませんし、相手も好きな時に返信できます。また何かトラブルが起きた際に、口頭であれば怒りのままについ口から出てしまうような酷い言葉も、文章であれば一呼吸置いたり一旦書くのをやめて落ち着いてから返信することができるため、トラブルの拡大を防ぐこともできます。


文字による会話には「考える時間」が十分にあることが大きなメリットだろう


もちろん電話にもメリットはあります。相手の都合を考えない連絡手段というものを前向きに捉えるならば、火急な連絡が必要な場合や即時決定が必要な状況などでは「敢えて直接電話をする」ということで事の重大さをアピールできるなど、大きな効果を発揮します(国家間でも未だに電話外交などが行われる背景にはこういった側面がある)。

また「相手の声を直接聞ける」というのは電話の大きなメリットかもしれません。恋人や家族との通話に人々がどれだけ安堵し癒やされるのか、語らずとも誰もが理解できるところでしょう。


言葉と声でなければ伝わらないものもある


■連絡手段のパラダイムシフトが始まっている
電話は1800年代中頃にこの世界に登場し、瞬く間に世界を動かす基幹テクノロジーとして発展してきました。以来100年以上も生活インフラの根幹を成す最大のコミュニケーション手段として利用されてきましたが、21世紀に入りその役目の大部分は終焉を迎えようとしています。

現代社会において、正確性よりも速さや感情が優先される状況はそれほど多くありません。ましてやビジネスシーンともなれば尚更です。多岐に亘る連絡手段を使い分け、適材適所で活用していく時代なのです。かつて携帯電話が普及し始めた当時は、まだ「電話」はその主体となる機能でした。しかし多目的端末とも言えるスマートフォン全盛の今、電話は端末の一機能に過ぎないと言っても過言ではない気がします。


iPhoneのホーム画面にあるDock部分へ電話機能を置いていない人も少なくないのではないだろうか


電車内での通話マナーについて、かつては大きな議論を呼びました。しかし現在それを声高に訴える人はほとんどいません。人々の意識が変わり新たなマナーが定着した証拠です。同じように、様々なテクノロジーが登場し淘汰されていく中で通信技術とそれらによるコミュニケーション手段もまた大きなパラダイムシフトの只中にあるのだと思います。電話という技術がレガシーテクノロジーとなり、しかしその役割を残しつつ新たなテクノロジーと住み分けていく時代が到来しているのです。

そろそろ携帯型通信端末を携帯“電話”やスマート“フォン”と呼ぶのをやめ、スマートデバイスなどと呼ぶべき時期が来ているのかもしれません。


スマートフォンの次に来るモバイルデバイスは、もはや「電話」ではないかもしれない


記事執筆:秋吉 健


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