日本でも患者さんが多い?  難病「ベーチェット病」について

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執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ


「ベーチェット病」は、地中海沿岸から中近東・中国を経て、韓国や日本で多発している難病で、別名「シルクロード病」とも呼ばれます。

EXILEのMATSUさんも高校生の頃この病気を発症し、左目の視力をほとんど失っていると2007年に告白しました。

日本でも患者数が多いとされるベーチェット病とはどのような疾患なのでしょうか?

ベーチェット病の疫学

ベーチェット病は、全身の臓器に急性の炎症性発作を繰り返す「全身性炎症性疾患」です。

1937年にトルコのイスタンブール大学皮膚科ベーチェット教授が、世界的に初めて報告しました。

しかし、古代ギリシアの医聖ヒポクラテスもこの病気らしきものに言及していますし、古代中国の医師張仲景も『傷寒雑病論』において“孤惑病”として記しています。

ですから、この病気の歴史は大変古く、昔から存在する病気だったと考えられています。

シルクロード病とも呼ばれるのは、この疾患が北緯30度から45度付近のシルクロード沿いで多発しているからです。

日本においては北海道や東北に患者が多く、平成25年3月末現在、特定疾患医療受給者数は19,147人です。

年齢で見ると、男女ともに20〜40歳頃の発病が多く30代前半にピークがあるといわれています。

ベーチェット病の原因

現在のところ、発症に遺伝子が関与することは分かってきましたが、遺伝病とは考えられていません。

一方、ドイツのトルコ移民の研究から、環境要因の重要性も指摘されています。

ドイツに移住したトルコ人の発症率はドイツ人より高く、トルコ在住のトルコ人に比べると低いとされています。

厚生労働省難治性疾患政策研究事業「ベーチェット病に関する調査研究班」(※1)によると、原因不明としながらも

「何らかの遺伝素因(体質)が基盤にあって、そこに病原微生物(細菌やウイルス)の感染が関与して、白血球をはじめとした免疫系の異常活性化が生じ、強い炎症が起こって症状の出現に至る」

という見解を、有力な仮説として示しています。

ベーチェット病の診断

日本では「厚労省ベーチェット病診断基準」(2003年改訂)(※2)が一般的に適用され、4つの主症状と5つの副症状の組み合わせにより、「完全型」「不完全型」「疑い例」に分類されています。

主症状

1.口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)

 ほぼすべての患者に見られる、初期症状です。
 口唇、頬の粘膜、舌、歯肉、口蓋粘膜に円形で鮮明な潰瘍ができます。
 口内炎は一般的にもよくある症状ですが、繰り返し現れるという点が特徴です。

2.眼症状

 視力障害や失明の原因になりうる、最も注意が必要な症状です。
 前眼部では虹彩毛様体炎(こうさいもうようたいえん)、眼痛、充血、瞳孔不整(どうこうふせい)、後眼部では網脈絡膜炎(もうみゃくらくまくえん=後部ぶどう膜炎)から視力が低下するなど、発作を繰り返すうちについには失明に至ることもあります。

3.皮膚症状

 下腿伸側(かたいしんそく=下肢の外側)や前腕に紅斑様皮疹(こうはんようひしん:赤くはれた皮膚の病変)ができます。
 また、病変部は赤くなり、皮下に硬いしこりのようなものができて痛みをともないます。

 顔や頸、胸などにニキビに似た皮疹が出ることもあります。
 下腿の皮膚表面の血管に、血栓性静脈炎(けっせんせいじょうみゃくえん)が起こることもあります。

 ほかにも、皮膚が過敏になり、虫刺され、注射、剃毛など、皮膚が刺激を受けると発赤(ほっせき:赤くただれる)や小膿疱(しょうのうほう:うみ)などの症状がみられます。

4.外陰部潰瘍

 男性器や女性の外性器や膣粘膜に痛みをともなう潰瘍がみられます。

副症状

1.関節炎

 肩・ひじ・手首・膝・足首など大きな関節が腫れ、傷みや発熱をともないます。
 手指などの小関節は侵されない点から関節リウマチとは区別されます。

2.血管病変

 動脈では動脈瘤、静脈では深部静脈血栓症がよくみられます。
 圧倒的に男性に多くみられる病型です。

3.消化器病変

 回盲部(小腸と大腸の間の部分)潰瘍に代表される病変で、食道から直腸にいたるまでどこにでも生じます。
 腹痛・下痢・下血などをともない、重症化すると緊急手術が必要になります。

4.神経病変

 髄膜炎や脳幹脳炎などの急性症状と、片麻痺や小脳症状などの神経症状に認知症などの精神症状をきたす慢性進行型に大別されます。
 難治性で男性に多く、慢性型は治療効果も乏しいとされています。

5.副睾丸炎

 睾丸部に圧痛と腫れが起こります。男性患者の約1割にみられます。


なお、副症状のうち、大血管、消化器管、中枢神経に病変が生じると、重篤化し後遺症が残ることがあります。

これらは「特殊病型」として、それぞれ「血管型」「腸管型」「神経型」ベーチェット病と呼ばれています

※1、2 厚生労働省難治性疾患政策研究事業「ベーチェット病に関する調査研究班」(http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~behcet/patient/behcet/care.html)

ベーチェット病の活動期と寛解

ベーチェット病は、突発的に起こる病状の悪い時期(活動期)と、病状が治まっている時期(非活動期)を繰り返します。

非活動期が続いている状態を「寛解(かんかい)」と呼んでいます。

専門医は、寛解期でも油断しないで受診をするよう切望しています。

眼症状や特殊病型でなければ、予後は良好と考えられています。

眼症状とくに眼底に網膜ぶどう膜炎があるときは、視力の予後は悪いといわれていますし、特殊病型は難治性であることが多く、後遺症が残る可能性もあります。

日常生活における注意点

ベーチェット病は、副症状が主体だと診断が難しい病気です。

類似している別の病気との区別、症状の多様さに加え軽症から重症まで個人差があることも診断を困難にしている要因です。

患者さんは全身の休養と保温、ストレスの軽減を心がけてください。

また、口腔内を衛生に保つこと、喫煙は悪化因子になるので禁煙に努めること、バランスの良い食事を摂ることなどに留意するよう求められています。


【参考】
難病医学研究財団/難病情報センター『ベーチェット病(指定難病56)』(http://www.nanbyou.or.jp/entry/187)


<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン

<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供