ファッションのこだわりは「オシャレ」より「生きるため」

2016年に『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演した際には、テレビ初の顔出しということでネットで話題となった。声は聴いていてもその姿を想像しづらいというリスナーも、いまだに多いはず。謎めいたイメージから、やや緊張気味に取材現場へ向かったが、そこにいたのは黒いニットにさらさらのロングヘア、黒ぶちメガネの可愛らしい女性。穏やかな笑顔を浮かべながら、こちらの質問に丁寧に言葉を紡ぐ姿が印象的だった。
以前のインタビューで「服は白か黒しか着ない」と。きょうも黒のニットですね。
最近は白も着なくなってきたくらい、黒がメインになってます。知らず知らずのうちに黒い服を手に取っていたら、クローゼットに黒が増えてきて。同じ黒でも、素材が違うと印象が変わりますしね。
ファッションチェックしたり、お買いものに行ったりするのは、好きなほうですか?
そこまでファッションに取り憑かれているほうではないのですが、季節が変わったりすると、人間としてというか生きものとして(笑)、着るものに気を配らないと、喉に悪いので。
やはり、最初に考えるのは見た目より喉のことなんですね。
そうですね。それこそ散歩してたり、歌を歌っていると、動物として季節の変化に敏感になってくるというか。日が入るのが早くなったなとか、ちょっと寒くなったなとか、その中で着てるものも変えたくなったりしますね。
季節を感じることで、きちんとアジャストできるものを選びたくなるというか。
そう、アジャストです。ファッションというよりはまさに原始人のように(笑)、寒いから着替える、みたいなシンプルなところで。でも本来、服とかって、そういう生きることと結びついているというか。誰かに見せるためにまとうというのもひとつの目的として尊いものだとは思うんですけど、自分が生きるために、その場に適応して浸透したいというか。そのために洋服もすごく大事だなというのを感じています。
今のネイルがピンクなのは、この新曲に合わせてですか?
そうです。おととい、ライブがあって(※取材が行われたのは1月中旬)。ライブのときも衣装は黒とか白が多いので、ネイルは毎回変えています。ちょうどそのライブのタイミングで今回のシングルのアートワークが発表になったのもあって、傘の色にイメージを揃えて、ネイルもピンクにしてみました。
全部同じ色ではなく、爪ごとで違うピンクなのも可愛いですね。
ありがとうございます。今回のジャケット撮影のときも、細かいところですが、足の爪も全部、微妙に違うピンクを塗っているんです。だから、塗っているときにどれがどの色がわからなくなっちゃったりして、大変でした(笑)。
ヨーロッパ最大ともいわれる写真コンペ「PX3」で、過去に2年連続の入選を果たすなど、Aimerのアートワークには定評がある。デビュー時からディレクターを務めるのは、松田 剛氏。本作のジャケ写は、ピンク色の傘がたくさん並んでいる中に、Aimerが佇んでいるというもの。ビニール傘に着色をして、微妙な配置にもこだわりながら撮影したという。
実際に傘を並べて撮影してるんですよね。あまりに美しいので、CG加工も入っているのかと思いました。
アートワークについては、今回もデビューからずっと一緒にやっているチームです。Aimerの世界観をすごくわかってくれているし、すべてのものをアナログでやろうという、なぜか暗黙の了解みたいなものがずっと、最初からありますね。
今までのジャケットもすべて、アナログで撮影を?
そうです。『誰か、海を。』の撮影も、手作業というか人力で、みんなであおいで、風を作ったりしてるんですよ。
大変な撮影ですね……!
でも、そういうのが燃えるんです(笑)。アーティストが歌うために生きているのと似ていて、チームのみんなはその瞬間を撮るために生きている、みたいな感じなんです。エモーショナルな撮影が毎回できるので、それが面白いです。
素敵な取り組みですね。Aimerさんは以前、1曲ごとにダウンロードするという音楽の聴き方ではなく、アルバムが好きだと言ってらしたんですけど。シングルだとしても、そういうパッケージみたいなものへのこだわりが?
ありますね。自分がつくるもの、自分が関わってチームでつくるものについては、筋を通したいというか。コンセプトとして成り立っているものにしたい。そういうこだわりは昔からあります。だから発信するものに対しては、今までAimerを好きで聴いてくれている人も初めて知った人も、そこにAimerの世界観がこういう形で成り立っているんだっていうのを感じてほしいです。

唯一無二の声を維持するには、喉を休ませることも大事

Aimerのファンには有名な話だが、彼女は15歳の頃、歌唱による喉の酷使が原因で声が出なくなったことがある。半年間の沈黙療法を経た末に少しずつ声を取り戻し、喉に負担のかからない歌い方を探った結果が今の歌声だ。多くのアーティストに「唯一無二」と言わしめるこの声を、彼女がいかに大切にしているかは、想像に難くない。
さきほど、喉を守ることが優先というお話が出ましたが、食生活で気をつけていることはありますか?
喉に関するケアは本当に気を遣いますけど、食べものは……普段から全部、神経質になってるわけではないです。基本的にはりんごとか、くだものが好きで、野菜も含めてできる限り旬のものを食べたいというのはあります。それが声につながっているかどうかはわからないですけど(笑)。ただライブ前の数日には、意識してお肉を食べよう、とかはありますね。
それは、エネルギーをつけるために?
そうです。あと、飲みものはハーブティーを飲んでいます。これもそうなんですよ(テーブルの上にある水筒を差す)。
持ち歩いているんですね。
そうなんです。すぐ喉が乾燥しちゃったりするので。このハーブティーは以前、アイスランドに行って歌う機会があって、時差とかで声の調子がすごく不安定だった中で、現地の方が飲ませてくれて。それですごく喉がよくなったので、気に入って日本に帰ってきてからも飲んでいる、ゲン担ぎみたいなものですね。
何のハーブなんですか?
ジンジャーとかのブレンドです。ジンジャー系のものは喉にいいので好きですね。あとは、日本のものだと葛湯も好きです。
喉にいい食べものというと、蜂蜜も思い浮かびますが。
蜂蜜、すごくいっぱい家にあります(笑)。蜂蜜という存在が自分にとってのパワーというか、お守り的な感じです。マヌカハニーも何個もありますし、“希少な蜂蜜”みたいなものも、よくいただいたりして。自分でも買ってしまいますね、どうしても。
喉を休めることは意識されますか?
すごくしますね。ツアー中、本当に喉が疲れたときは、しゃべらないで筆談してます。ジェスチャーでなんとか伝えようとしてみるんですけど、全然うまくならない……。なかなか伝わらないので、あきらめて書いてます(笑)。
2017年11月から2018年2月にかけて開催された「Aimer LIVE TOUR 17/18 “hiver”」は、埼玉県を皮切りに、4ヶ月かけて15の都市を回った。ツアータイトルの「hiver(イヴェール)」はフランス語で冬という意味。冬を基調にしたセットリストと演出で、各会場のファンを魅了した。
Twitterにツアー先で食べた名物の写真を投稿されていますね。
今回のツアーは、それぞれの地方で名物を食べようということをみんなで決めて、どこでも本当においしいものをいただいています。
とくに印象に残っているお食事はありますか?
選ぶのは難しいですけど、新潟で、へぎそばをお店からそのまま楽屋へ持ってきていただいたんです。それは本当においしかったですね。日本にはまだまだ知らないことがあって、ツアーを回っていたらすごく勉強になるというか。
勉強になる、というと?
この地域にはどういう歴史があるんだろう、ということを調べると、こういう出来事や気候があってこの名物が生まれたとか、こういう流れがあるからこういう風習が残っている、みたいなことがわかるので。そういうのも勉強になります。
ツアーをする地域ごとに、そういう情報を調べるんですね。
調べるのが好きなんです。そういうのを見ていると、自分が今、生きているということも、歴史の流れの中にあるんだなと感じたりもして。それぞれの土地で歌うことに対する気持ちが、またそこで変わったりするんですよね。

自分の歌で、聴く人が「生きていること」を肯定したい

AimerのTwitterには、とくにライブの後は、「忘れられない夜になった」「Aimerさんの歌に救われた」などファンからポジティブな言葉が寄せられている。Aimer自身もまた、これまでのインタビューでファンの存在によって「生きる意味をもらった」と語っている。この幸せな関係性が、Aimerの音楽や表現を支え、進化させる原動力になっているのだろう。
多くの人に憧れられるAimerさんの声ですが、ご自身が憧れる声というと、どういう方が思い浮かびますか?
スピッツの草野マサムネさん。大好きです。自分の声がハスキーなので、透き通った声への憧れがあるんですよね。また、日本語の歌詞で歌うというのがこんなに素晴らしいんだということを、スピッツさんから学びました。
以前、ある歌い手の方が「ボーカリストには、ステージで自分が歌っていて気持ちよくなってしまうタイプと、正確に美しい歌を届けることに注力するタイプと、2種類いる」とお話されていて。Aimerさんはご自身をどちらのタイプだと思われますか?
自分でもすごく考えるんですけど。私の場合はもともと声が弱くて、気持ちよく感情的に歌うともう、声が出なくなっちゃうので。感情に100%捕らわれて歌うことが、最初からできないんです。だから、理屈で考えたいい声で歌うというのが、自分の声帯にとっても一番いいことで。正直、ライブのときはそのことしか考えてないですね。
ライブの時間のあいだ、声帯をいかにいい状態に保つか。
自分の気持ちよさも考えてないし、自分の声帯で可能な限り一番いい歌を歌うということしか考えていません。でもそれが結果的に自分にとっていいことだし、聴いてくれる方にとっても、いいものとして届いているといいなと思います。
デビューから1〜2年目のインタビューで「受け取ってくれる存在がいることがわかって、外向きになってきた」とおっしゃっていました。
聴いてくれている方に対しては本当に、理解してくれているというか、お互いにわかる部分があるというか、そういう感じがしていて。思い込みかもしれないけど、幻の中でもすごく信頼関係が生まれているというか。音楽をやる意味というか、歌を歌う意味がそこにあるというか。だから今は自分のために歌うよりも、誰かのために歌うほうが大きくなっているかもしれないです。
最初の頃は、自分のために歌うという部分が大きかったのでしょうか?
そうですね。今も表現においては、根本的な部分は自分のエゴだなと思うんですけど。そんなの誰もわからないよ、という部分を何回も録り直したりして。ただライブで歌ったりとか、ひとつの作品として発信すること自体は、聴いてくれている人のためだけにやっています。そこの思いは、強いです。
思いの強さは、聴く人の心に伝わっていると思います。実際、Aimerさんの声や音楽に救われた、というファンの方のコメントもよく目にしますが、Aimerさんご自身が音楽に救われた経験はありますか?
ありますね。歌詞に救われたこともあるし、言葉がわからなくても、旋律とか声の感じとかで美しくて涙が出てくるような音楽に救われた経験もあります。自分の中で何回も聴いている音楽って、その音楽の世界に自分の一部が住みついているような感じがあって。だからすごく懐かしくなったりとか。なんていうか……実際の曲以上にその曲が自分の中でふくらんでいて、そこに、ある意味逃げられるというか。
大好きな音楽が作る世界の中に逃避する感覚というのは、すごくわかります。その逃げ場所があることが、日常を生きる支えになったり。
音楽が生まれたこと自体が、人が生きていくためなんだなと改めて感じたんです。だから自分が歌える限り、誰かが生きるために歌えたら、それだけで私が生きている意味があるんだと思います。
以前も発言されていましたが、やはりAimerさんにとっては、ファンの方の存在が生きる意味をくれた、という感覚なんですね。
そうですね、本当に。生まれてきたことの意味をみなさんにもらっているし、だから私も、聴いている人が「生きている」ということを歌で肯定したい。そうやって恩返しをしていきたいです。
Aimer(エメ)
2011年から音楽活動を本格化させ、同年9月にシングル『六等星の夜 / 悲しみはオーロラに / TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR』でメジャーデビューを果たす。以降、『夏雪ランデブー』『機動戦士ガンダムUC』といったアニメ作品のテーマソングを担当。2017年8月に初の東京・日本武道館単独公演を行い、1万3000人を動員した。今年3月からはアジア3都市 2マンツアー“amazarashi × Aimer Asia Tour 2018”がスタート。4月5日には東京追加公演が決定している。

CD情報

14thシングル『Ref:rain/眩いばかり』
2月21日(水)リリース!

左から初回限定盤、通常盤、期間限定盤

【初回限定盤・期間限定盤】(CD+DVD)
1,500円+税
【通常盤】(CD)
1,250円+税

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