東京都大田区の町工場が中心となって、冬季五輪のボブスレー競技に自作のソリを出場させようと取り組んでいる「下町ボブスレー」プロジェクトに、厳しい通告が突き付けられました。かねてよりソリを無償提供し、平昌五輪で下町ボブスレーに乗ってもらおうとしていたジャマイカ代表チームから、五輪本番では下町ボブスレーを使用しないとの通告が寄せられたのです。

ジャマイカ代表チーム側は、ワールドカップで使用したラトビア製のソリで好成績をあげていることなどから、五輪本番でもラトビア製ソリを使用することに決めたもよう。両者は五輪本番での下町ボブスレー使用を約束した契約書を取り交わしているとされ、下町ボブスレープロジェクト側では違約金として6800万円を求めるとしています。

確かに約束は約束なのでしょう。悲願の五輪出場がかなわなかった辛さは理解できます。しかし、ここで違約金を求めることは、下町ボブスレーの未来をも絶つ決定打となるのではないでしょうか。

同プロジェクトは2014年ソチ大会では日本代表チームから採用を見送られ、平昌への再チャレンジを目指した2015年時点にも再び日本代表チームから採用を見送られています。今回のジャマイカ代表チームとあわせて都合三度の「不採用」を突き付けられたわけですが、その不採用はいずれも「ヨソのソリのほうが速い」という根本的な部分を指摘されてのものでした。

下町ボブスレー側にも夢があるように、選手たちにも五輪で活躍したいという夢があります。どちらの夢が優先されるかと言えば、それは選手の夢であるのが当たり前。「速いソリを使いたい」「一番でなくても戦える程度のものを使いたい」のは選手なら誰しもが思うことでしょう。アスリートファーストという大原則を忘れてはいけないのです。

そもそも、五輪に出場することを夢としている時点で、このプロジェクトは実現性が低いものと言えるでしょう。

ボブスレーは「氷上のF1」とも称され、あのソリは流体力学などモータースポーツと同様の知見を活用して製作されています。もちろん下町ボブスレーでも、モータースポーツの車体製造で実績のある童夢や、流体力学の計算ソフトを販売する会社などの協力をあおいでいるわけですが、他国でソリ製造を手掛けるのはフェラリーやBMWなどその道の世界的大企業たち。開発能力やノウハウの蓄積で遠く及ばないのは、避けようもない「現実」です。

今回、ジャマイカ代表チームが使用するというラトビア製のソリは、自らもボブスレーの強豪国でありつつ、1980年代からソ連代表チームなどへの提供を経て、知見とノウハウを蓄積してきた国だからこそ製造できたもの。性能面での選手たちからの評価も高く、しかもフェラーリやBMW製のソリを入手できない国でも使用できる「市販品」です。お隣の韓国でも、平昌五輪を見据えて支援を続けてきた現代自動車製ソリの採用を見送り、ラトビア製のソリを使うと決めたほど。

こうした先行者に追いつき追い越していくには、できるだけ多くのチームに使用してもらい、実戦によるデータ収集と改良を加えていくほかありません。それは代表チームだけに狙いを定めて「五輪」を一本釣りするような近道ではなく、ボブスレー競技そのものの普及に貢献し、ボブスレーを志す若者に「多少遅いかもしれないが、下町ボブスレーならソリを買えなくても練習できる」という形で裾野を広げていかなければ達成できないことでしょう。

今は遅いかもしれないけれど、先行者に追いつくためにたくさんの選手に使ってほしい。ボブスレー自体が盛んになって、よりたくさんの選手が生まれ、よりたくさん使ってもらう機会を作りたい。そうした「あるべき王道」と、違約金で相手を縛りつける行為とは、相反するものなのではないでしょうか。「タダより高いものはない」と言うように、これでは今後ほかのチームも下町ボブスレーの採用には二の足を踏むでしょう。

下町ボブスレーが五輪に登場したとき、そこで得られるものは何なのか。自分たちの技術自慢で気持ちよくなるだけなら、苦労のしがいもありません。ボブスレーを踏み台にするのではなく、逆に自分たちが踏み台になって競技の普及・発展を目指す。未来を作る気概がなければ、五輪に出ても一時の自己満足が得られるだけです。自己満足のために、自分たちも苦労し、選手たちにも不満足な結果をもたらすなら、まったくやりがいのない話です。

日本では、長野五輪の会場として使われたボブスレー・リュージュの競技会場「スパイラル」が、維持費用の多さ・利用者の少なさといった問題から、2018年度限りで運営休止となります。国内で滑る場所もなく、ボブスレーを志す若者を育てる術もないなかで、ソリだけ一生懸命作るというのは、何か大事なボタンが掛け違っているのではないでしょうか。

滑る人がいなければ、ソリは必要ないのです。

製品よりも「需要」を作るのが先なのです。(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/)