宇宙誕生の謎を紐解くSuperKEKB加速器が、この春、いよいよ実験開始
- SuperKEKB加速器とは? 現代物理学の知識を更新する -
高エネルギー加速器研究機構(KEK)が開発を進めてきた粒子加速器「SuperKEKB(スーパーケックビー)」が4月から実験を開始する予定だ。
東京霞が関の文部科学省エントランスでは、加速器の一部や測定器の模型が展示された。
さらに、関連イベントの一貫として「SuperKEKBが何をもたらすのか」
狙いと可能性を研究者自らが語るイベントが行われた。
登壇は、山内正則機構長。
加速器研究施設・赤井和憲教授(講演タイトル「未踏のルミノシティを切り開くSuperKEKB加速器」)、素粒子原子核研究所・谷口七重助教(講演タイトル「Belle?実験で期待される発見」)。
物理学というと、多くの人は高校時代で学びが止まっているのではないか。
著者もその一人で、嫌いなほうではなかったものの専門に学ぶほどではなかったので、基本的に古典力学の世界で止まっていた。
しかしながら、当然、物理学の世界の進化は日進月歩で進んでいるわけで、現代物理学の最先端、その一端にでも触れるべく、話を聞いてきた。
◎宇宙誕生の謎を解く
そもそも加速器とは何かというところからになるのだが、電子や分子などの「粒子」を加速する装置のことだ。
加速器は、加速することで高エネルギー状態を作り出す。
すると粒子の運動は活発化し、衝突が起こる。
この状態はいわゆるビッグバン(≒宇宙が誕生した状態)に近いとされている。
1930年に米のローレンスが発明し、その後1950年以降、加速器によって新しい粒子が発見されるようになる。
たとえば、衝突型加速器の場合は、
大量の陽子と電子をそれぞれリング状のビームパイプ中に蓄積し、回転により光の速さまで加速し交差点で衝突させる。衝突の様子を測定することで、新しい粒子や標準理論を超えた新しい物理法則を発見しようというもの。
それには宇宙の謎、宇宙の誕生を紐解こうという大きなテーマも含まれている。
宇宙の物質のうち、私たちが知っているのは5%程度という。
つまり、95%はわかっていない暗黒物質(ダークマター)なのだ。その謎に解明に必須なのが加速器といえる。
ちなみに、加速器はこうした物理学の研究(宇宙の謎を解くため)だけでなく、医療(加速器BNCTシステム)や工業用にも活用されている。
◎KEKB加速器からSuperKEKB加速器への改良
SuperKEKB加速器の前身となるKEKB加速器は1999年に実験開始している。
なお、このKEKB加速器のほかにも、米のフェルミ国立加速器研究所、CERNなどいくつか存在する。
KEKB加速器とBelle測定器(赤井氏のスライドより)
KEKB加速器とBelle測定器は2008年度のノーベル賞を受賞した小林誠氏・益川敏英氏の「CP対称性の破れ」に関する検証に貢献したことでも知られている。
実験により「何からしい」と導き出すには大量のデータが必要となる。
それには非常に多くの衝突を起こす必要がある。衝突を起こす性能を「ルミノシティ」と言うのだが、さらにデータを得るためにはより高いルミノシティが求められる。
2010年に運転を停止したKEKB加速器の40倍のルミノシティを目指すプロジェクトがSuperKEKB加速器なのだ。
具体的には、
・ビームパイプに蓄積する粒子の数を増やす
・ビームを細く絞る(従来よりも20分の1)
というアイデアだ。
もちろん、ハードウェア的な障壁はある。蓄積する粒子を増やし、高エネルギー化を進めるには大電流に耐えうるシステムにアップデートする必要がある。
ビームには新しいナノビーム方式を採用する。ただ、その際、砂時計効果により安定しにくかったり、電子雲が発生したりする問題がある。それらを1つ1つ解消し、やっと実験を開始できる段階まできた。
4月から開始される予定の実験フェーズはまずはビームの調整だという。
ビームの性能は目標の数字が出るのか、
それにより衝突は起こりやすくなるのか。
それが8月くらいまでかかるのではないかとする。
Belle II測定器を使った実験はその後、ということになる。
Belle II実験には、現在25カ国、106の機関から791人が参加しているそう。
実験開始から数年で、何か決定的な結果がいくつか出るのではないかという。
今回のように、研究者が一般向けに研究について語ってくれる機会はなかなか少ない。
とはいえ、全くないわけではないので、目についたら参加してみることをおすすめする。
止まっていた知識が更新されていく楽しみがある。
測定器の模型および動作イメージデモ
測定器の模型および動作イメージデモ
測定器の模型および動作イメージデモ
アンテチェンバー(ビームパイプ)の模型および動作イメージデモ
アンテチェンバー(ビームパイプ)の模型および動作イメージデモ
SuperKEKB加速器に関していえば、4月の実験開始(予定)の前後にまたこのような機会があるかもしれない。
文部科学省エントランスでのKEKの企画展示は2月9日まで。
大内孝子
高エネルギー加速器研究機構(KEK)が開発を進めてきた粒子加速器「SuperKEKB(スーパーケックビー)」が4月から実験を開始する予定だ。
東京霞が関の文部科学省エントランスでは、加速器の一部や測定器の模型が展示された。
さらに、関連イベントの一貫として「SuperKEKBが何をもたらすのか」
狙いと可能性を研究者自らが語るイベントが行われた。
登壇は、山内正則機構長。
加速器研究施設・赤井和憲教授(講演タイトル「未踏のルミノシティを切り開くSuperKEKB加速器」)、素粒子原子核研究所・谷口七重助教(講演タイトル「Belle?実験で期待される発見」)。
物理学というと、多くの人は高校時代で学びが止まっているのではないか。
著者もその一人で、嫌いなほうではなかったものの専門に学ぶほどではなかったので、基本的に古典力学の世界で止まっていた。
しかしながら、当然、物理学の世界の進化は日進月歩で進んでいるわけで、現代物理学の最先端、その一端にでも触れるべく、話を聞いてきた。
◎宇宙誕生の謎を解く
そもそも加速器とは何かというところからになるのだが、電子や分子などの「粒子」を加速する装置のことだ。
加速器は、加速することで高エネルギー状態を作り出す。
すると粒子の運動は活発化し、衝突が起こる。
この状態はいわゆるビッグバン(≒宇宙が誕生した状態)に近いとされている。
1930年に米のローレンスが発明し、その後1950年以降、加速器によって新しい粒子が発見されるようになる。
たとえば、衝突型加速器の場合は、
大量の陽子と電子をそれぞれリング状のビームパイプ中に蓄積し、回転により光の速さまで加速し交差点で衝突させる。衝突の様子を測定することで、新しい粒子や標準理論を超えた新しい物理法則を発見しようというもの。
それには宇宙の謎、宇宙の誕生を紐解こうという大きなテーマも含まれている。
宇宙の物質のうち、私たちが知っているのは5%程度という。
つまり、95%はわかっていない暗黒物質(ダークマター)なのだ。その謎に解明に必須なのが加速器といえる。
ちなみに、加速器はこうした物理学の研究(宇宙の謎を解くため)だけでなく、医療(加速器BNCTシステム)や工業用にも活用されている。
◎KEKB加速器からSuperKEKB加速器への改良
SuperKEKB加速器の前身となるKEKB加速器は1999年に実験開始している。
なお、このKEKB加速器のほかにも、米のフェルミ国立加速器研究所、CERNなどいくつか存在する。
KEKB加速器とBelle測定器(赤井氏のスライドより)
KEKB加速器とBelle測定器は2008年度のノーベル賞を受賞した小林誠氏・益川敏英氏の「CP対称性の破れ」に関する検証に貢献したことでも知られている。
実験により「何からしい」と導き出すには大量のデータが必要となる。
それには非常に多くの衝突を起こす必要がある。衝突を起こす性能を「ルミノシティ」と言うのだが、さらにデータを得るためにはより高いルミノシティが求められる。
2010年に運転を停止したKEKB加速器の40倍のルミノシティを目指すプロジェクトがSuperKEKB加速器なのだ。
具体的には、
・ビームパイプに蓄積する粒子の数を増やす
・ビームを細く絞る(従来よりも20分の1)
というアイデアだ。
もちろん、ハードウェア的な障壁はある。蓄積する粒子を増やし、高エネルギー化を進めるには大電流に耐えうるシステムにアップデートする必要がある。
ビームには新しいナノビーム方式を採用する。ただ、その際、砂時計効果により安定しにくかったり、電子雲が発生したりする問題がある。それらを1つ1つ解消し、やっと実験を開始できる段階まできた。
4月から開始される予定の実験フェーズはまずはビームの調整だという。
ビームの性能は目標の数字が出るのか、
それにより衝突は起こりやすくなるのか。
それが8月くらいまでかかるのではないかとする。
Belle II測定器を使った実験はその後、ということになる。
Belle II実験には、現在25カ国、106の機関から791人が参加しているそう。
実験開始から数年で、何か決定的な結果がいくつか出るのではないかという。
今回のように、研究者が一般向けに研究について語ってくれる機会はなかなか少ない。
とはいえ、全くないわけではないので、目についたら参加してみることをおすすめする。
止まっていた知識が更新されていく楽しみがある。
測定器の模型および動作イメージデモ
測定器の模型および動作イメージデモ
測定器の模型および動作イメージデモ
アンテチェンバー(ビームパイプ)の模型および動作イメージデモ
アンテチェンバー(ビームパイプ)の模型および動作イメージデモ
SuperKEKB加速器に関していえば、4月の実験開始(予定)の前後にまたこのような機会があるかもしれない。
文部科学省エントランスでのKEKの企画展示は2月9日まで。
大内孝子