藤田菜七子インタビュー2018 前編

 早くもデビュー3年目を迎えた藤田菜七子騎手。中央競馬唯一の女性騎手という立場に変わりはないが、2年目の2017年は14勝(中央競馬のみを対象)を挙げて、女性騎手としての中央競馬の年間最多勝記録を更新し、デビューイヤーとは異なる存在感を示し始めた。2018年も幸先よく1週目から勝利を挙げて好調をアピール。3年目の藤田騎手の視線の先には何が見えているのか。


2018年、好スタートを切った藤田菜七子ジョッキー

――年明け1週目にして今年の初勝利おめでとうございます。

「ひとつ早めに勝てたことは気持ちの面ですごく楽になりますね。昨年が1勝目まで少し時間がかかってしまい(2月25日)、焦らないようにとは思いながらも、気持ちの余裕がなくなっていたので。1年をいい形で始められそうです」

――それも騎乗していた馬が、昨年最後に勝った馬と同じビックリシタナモーで、しかも1着同着でした。

「毎レース、終(しま)いの脚は確実に使ってくれる馬ですし、最後まで頑張ってくれる馬なので、もうそこは馬のおかげです」

――さらに、同じ日にはさっそく重賞(フェアリーS)にも騎乗。しかも、欽ちゃんこと萩本欽一さんの馬のジョブックコメンでした。

「最初お話をいただいたときはすごくびっくりしました。こうした機会を作ってくださった、小檜山(悟)調教師とオーナーの萩本欽一さんには感謝しています」

――結果は9着。序盤でちょっと接触する場面があって、それで思ったような競馬ができなかったかな、と思いましたが。

「前めの位置を取りにいきたかったんで、出していったぶん馬もやる気になっていて、そこで横の馬と少し当たってから、チグハグになってしまったのもあってもったいなかったです。もっとこうすれば、という部分はあるんですが、これを次に活かすことが乗せてくださったことへのお礼になると思います」

――今のお話の中にもその姿勢が伺えましたが、デビュー年と比べて、昨年からの藤田騎手の騎乗にアグレッシブさを感じます。もちろん、最初から意識していたとは思いますが。

「まず、自分のアドバンテージとして3kgの減量があるので、これを(見習い騎手のネガティブな格付けとしてではなく)メリットとして前向きにとらえて、もっと積極的に競馬の中で動くべきという意識はデビューした年よりもありますし、その意識を具体的に騎乗でも表すようになっているとは思います」

――そういう意味では、レースの中でも”チャレンジしている”と見ている側にも伝わってきます。印象的だったのが昨年1月にマカオの招待競走で遠征した際に、日本ではそれまであまり見せなかったような、インを狙って突いて、着順をひとつでも押し上げにいったシーンで、進路取りひとつをとっても”攻めよう”という姿勢を感じました。

「私の中では、レースごとに馬の全能力を出し切るように心掛けているので、進路がなくなって脚を余して負けるのが一番イヤだなと思っています。そうなると、インを突くということ自体はリスクがありますし、馬を伸び伸び走らせてあげるためにも、(差し、追い込み策で)後ろから行くときは外に出したいと思っていたんです。けれど、インでも進路を見つけておけば、詰まったりはしませんし、そういう意味でも”挑戦”という気持ちは持つようになりました。

――昨年は固め撃ちの時期があったり、逆に勝利まで間が空くときもあったりしながら、最終的にはJRAの女性騎手として年間最多勝である12勝を10月に更新、そこからさらに2勝を上積みしました。記録を更新してからは勝つごとに藤田騎手が”新記録”を更新することになったわけですが。

「女性騎手の年間最多勝ということ自体は、私自身はあまり気にしていなくて、記録そのものにはまったく満足というものはなく、もっと勝っている同期や後輩がいるので、もっともっと勝たなければ、という思いの方が強いです。

 とはいえ、先輩の女性騎手の方々がいて、今の私があるので、先輩に感謝しつつ、最多勝という部分はひとつの通過点として、これはもっと更新していくのが当たり前になるようにしたいです。そのためには、去年より今年、今年よりも来年、どんどん積み重ねていけるようにしていきたいと思います」

――他のインタビューでもよく発言されていますが、「女性騎手としてではなく、ひとりの騎手として」認められたいという思いに繋がるところですね。

「そうですね」

――1年目は久々の女性騎手という扱いが中心でしたが、最近は追える3kg減の騎手のひとりと見られていると思うんです。記録を達成したレースでも、「巧い!」という意味で強く印象に残っています。進路を探りながら、馬も微妙なところでコントロールして抜け出したところに、正直唸らされました。デビュー当時よりも周りがすごく見えているなと思ったんですが、ご自身としてはどうですか?

「そう言ってもらえるとうれしいです。確かにデビュー時と比べると、少しずつレースの中で冷静に周りが見えてきたのかなという実感はあります」

――見えているからこそ、進路取りでもいくつか選択肢を用意して乗れていますよね。

「そうですね」

――昨年のインタビューのときに、「自分の引き出しを増やして、必要な引き出しをとっさに判別して、すぐに開け閉めできるように」というお話をされていました。見ていると、実際にその引き出しも増えて、それに対応するフィジカルも身についたように思えます。

「ありがとうございます。去年もたくさんの馬に乗せていただき、たくさんの経験をさせていただいて、引き出しという面は増えたかなと感じています。フィジカルの部分では、去年の初めからトレーナーをつけて、それより前までは自分だけでやっていたことが、まだまだ足りない中でも、少しずつよくなってきたかな、と思います。具体的な筋肉量とかは測っていないんですけど」

――効果として、動きがよくなったとか、癖がなくなったなど実感はありますか?

「私は右利きなので右のほうが強かったんですけど、トレーナーさんに見てもらって、身体の傾きなどを指摘してもらいながらトレーニングをしていたので、バランスがよくなってきているのかなと思います。自分のフォームでも、デビュー当時と今と意識の面では変わらないのですが、その中でも少しずつ姿勢は変わっているのかなと思いますし、よくしていこうとも思っています」

――デビュー年より、差し・追い込みがきれいに決まることが多くなったように感じます。それも周りが見えるようになったこと、フィジカルが強くなったことと無関係ではないのでは?

「『この馬に何が一番いいのか』というのを意識した結果で、後ろからという競馬があってだとは思いますし、展開がはまったというのもあります。減量を活かしつつ、馬の特性を考えて活かしてあげられればいいなと思っています」

――藤田騎手の身体的な強みのひとつに、手足が長いことがあると思います。デビュー当時はそれが活かしきれていなかったのが、最近はきれいに使い切れているし、特にパトロールフィルムなどで正面から見ると、すごく格好よくなったなという印象を受けます。同時に、以前はひと目で「藤田騎手だ」と判ってしまう、言い方は悪いですが「浮いて」見えていたんですが、最近はそれがなくなって、いい意味でどれが藤田騎手かちょっと判りにくくなってきた気がします。

「何人かの方からも同じようなことを言っていただいて、そう言っていただけるのは、成長できて『いっぱし』になっているのかなと思えてありがたいです。次のステップとしては、『あのジョッキー巧いな』と思われるぐらいに技術を上げていきたいですし、そういう乗り方をできたらいいなと」

――以前お話を聞いたときは、横山典弘騎手の乗り方を格好いいとおっしゃってました。

「横山騎手だけにこだわるのではなく、どの騎手もすごいなと思ったりすることがあるので、いいところをいろいろ取り入れていきたいですね。

最近、シンプルにすごいなと思ったのが、昨年の東京大賞典でのコパノリッキーの田辺(裕信)騎手ですね。スタートから(気合いをつけて)ゲートを出していってハナに立ったんですけど、私だったら『逃げるなら少しでもペースを落として楽をしたい』と思ってガッツリと抑えてしまうところを、すーっと結構楽に乗っていて、しかもそのまま強い競馬で勝ってしまうというのがすごいな、と。抑えるのではなく、馬のリズムで走らせてあげることで、馬も最後まで頑張れるというのがこういうことなんだなと」

――単に馬の好きに走らせていたら暴走にもなるところを、そうさせずに気持ちよく。

「なかなか真似できることではないですし、取り入れたいんですけど、実際にどうやっているのか判らないですし難しいです。実際に田辺先輩に聞いてみて、『こうだよ』と言われたところで、じゃあ簡単にできるかというと、頭でわかってもできないこともありますし、馬によって違うところもありますので、難しいですよね」

――馬によってということでいくと、最近の好きな脚質はありますか?

「私はとくにこだわりはなく、私が、というよりは、馬の走りやすさに合わせるものだと思っています」

――生々しい話ですが、馬券を買う側としても、「普通に馬券のお金を託せるジョッキー」いう評価が出てきています。なかなかグリグリ1番人気の馬に乗ることはまだ少ないなか、昨年8月の新潟の500万条件(ダート1800m)で1番人気のコパノビジンで勝ちましたが、そういう馬でも安心して見ていられましたし、ものすごく自信を持って乗れているようにも見えました。

「いやあ(笑)。あの馬は頑張り屋さんの面があって、頑張りすぎて、いきたがるんです。あのレースでも道中いきたがってしまって、最初はガッチリ抑えていたんですけど、むしろこれはいかせた方が落ち着くのかなと考えを切り替えて、ハナにいかせました。なので、結果として馬が強くて、馬に助けてもらっての勝利でした」

――でも、馬が強いだけでも勝てませんし、以前だったら無理に抑えて、良さを削いでしまっていたかもしれません。「そうした『引き出し』が増えたことも、たくさんの馬に乗せていただいたからで、オーナーや調教師さんなどへの感謝に尽きます」

(つづく)

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