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アーシュラ・K・ル=グウィンはその生涯にわたり、生活のために「未来」に思いを馳せてきた。しかし彼女の最も予見的な言葉はその著作ではなく、2014年11月に全米図書賞を受賞した際のスピーチで述べられたものかもしれない。

彼女は「困難な時代が訪れようとしています」と切り出したあとに、こう続けた。「わたしたちの現在の生活に変わる何かを想像し、恐怖に押しつぶされた社会と脅迫的なまでのテクノロジーを通じてほかの生き方を見ることができる作家。そしてそこに希望の礎すら見出だせる作家。こうした人たちの声が求められるようになる、そんな時代なのです」

あれから3年が経ち、さまざまな変化があった。カレンダーで日を数えればそれほど遠い昔のことではないだろうが、文化的な変化やテクノロジーの進化、政治の混乱といった視点から見ればどうだろう? 年月こそ、ル=グウィンが天才であったと気づかせるものだ。平穏で無関心すら漂っていた時代に、彼女は立ち止まり、水晶のような目で水平線のはるか彼方にある嵐を見据えていたのだ。

そしてそれこそが彼女の才能だった。1月23日(米国時間)に88歳で亡くなったル=グウィンは、ものを見通す力をもっていた。代表作の『ゲド戦記』を知っている人は多いだろう。シリーズ1作目の『影との戦い』は、学院で魔法を学んでいた少年が禁じられた術で呼び出してしまった「影」に立ち向かう物語で、1968年に出版された。

『ハリー・ポッター』にも影響を及ぼした

30年後に『ハリー・ポッターと賢者の石』が世に出たとき、J・K・ローリングはル=グウィンの名にはまったく触れなかったが、ファンは心のなかで「ル=グウィンが最初にやったんじゃないか!」と叫んだことだろう。影の巧みな比喩を生み出したのは、ル=グウィンだ。

彼女は『ハリー・ポッター』に影響を与えただけでなく、ジェンダーなどのテーマも扱ったし、物語の主人公も白人ばかりではなかった。ファンタジーを愛するほかの偉大な者たちがそうしてきたように、彼女も約束を果たした。スペキュレイティヴ・フィクションと呼ばれるジャンルでは、創造力の源は自由にある。現在という時代からの自由、社会規範からの自由、抑圧からの自由だ。ル=グウィンは自由をおおいに利用しただけでなく、自らの究極のテーマとした。

以下の動画のスピーチを知らなければ、ぜひ全体を聞いてみてほしい。文学関連のセレモニーで、最も多くシェアされた動画のひとつだ。

ル=グウィンは高潔であることについて語っている。ジョークだって言う。個人的に好きなのは、彼女がある決まり文句を言う瞬間だ。

「アメリカ文学が見捨てられる(sold down the river)のは絶対に見たくありません」。彼女が一言一言区切ってこの言葉を口にする様子を見ていると、それはもはや陳腐な定型句ではなくなる。まるで彼女が新しい表現をつくり出したかのようだ。

たぶん、そうなのだろう。ル=グウィンは常に真実を、そして驚くべき独創性を与えてくれた。

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