映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ショーン・ベイカー監督“夢の国”外に住む貧困母子家庭を描く

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映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』が、2018年5月12日(土)より全国公開される。第90回アカデミー賞&第75回ゴールデン・グローブ賞をはじめ、107の映画賞にノミネート57受賞されている話題作。メガホンをとるのは、全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』('15)が記憶に新しい“鬼才”ショーン・ベイカー監督だ。

世界最大の夢の国「ディズニー・ワールド」
その隣には職なし・家なしの家族が住んでいた

物語の舞台は、世界屈指の観光地「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」があるアメリカ・フロリダ。鮮やかなブルーの空、カラフルなギフトショップ。どこか現実離れした “夢の国”の近くには、その煌びやかさとは裏腹に、普通のアパートに入居することができない人々が暮らす安モーテル街があった。

主人公は、その日暮らしを送る6歳の少女・ムーニーとシングルマザーのヘイリー。一泊約40米ドルで宿泊可能な安モーテルは、永住の住まいを確保できない彼女たちにとって避難所のような存在だ。職なし、家なしの状態で必死に生きる“たった2人の家族”を中心に、ひと夏の物語が描かれる。

社会の片隅で生きる人々をカラフルに描く、ショーン・ベイカー監督

監督・脚本はショーン・ベイカー。トランスジェンダーの女性たちを全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』で、サンフランシスコ映画批評家協会賞・脚本賞をはじめ、22受賞33ノミネートを果たした才能あふれるクリエーターだ。

ショーンがデビュー当時から据えるのは、社会の片隅で生きる人々。過去には、違法移民の中国人、路上でブランドのコピー商品を売って生活している人物なども、題材として取り上げている。

彼の作品の面白さは、ユニークな映画の作り方にある。「僕らはいつも同じやり方で映画を始めるんだ。この企画に参加したいかどうかを地元の人たちに尋ねるんだよ。」と話す通り、物語の舞台=つまり現場をリサーチするところから始める。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は約3年に渡ってリサーチ旅行を繰り返し、実際にモーテルにも何度も宿泊して構成を完成させた。

キャスティングも実験的なことが多く、ストリートキャスティング、ソーシャルメディアを使ったスカウトなども実施。映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』では、シングルマザー・ヘイリー役のブリア・ヴィネイトをインスタグラムで発掘。また、主人公ムーニーの友人役を、撮影現場近くの量販店で声をかけてオーディションに呼んだという。

ショーン・ベイカー監督にインタビュー

日本公開に先駆け、ショーン・ベイカー監督が来日。“斬新なストリーテーラー”との異名を持つほど、リアルな現実をドラマティックに描く彼に、作品製作のこだわりについて話を聞いた。

“夢の国”の近くの安モーテルを舞台に選んだ理由は何ですか。

“皮肉な場所”ですよね。子供たちにとって、マジカルで幸せな場所といわれているテーマパークの真隣には、貧困で住む家がなく、モーテルに住まざるおえない子供たちがいる。“最高の夢の国”の近くで、子どもたちがカツカツの生活をさせられているという悲しい皮肉。これが同居しているところが印象的だったんです。

初めてこのエリアのことを知ったのは、共同で脚本を執筆し、製作を担当しているクリス・バゴーシュに、安モーテルに関する新聞記事を教えてもらってから。その後、彼からテーマパーク近くのハイウェイ脇で子どもたちがいたという話を聞いたんです。

そこからリサーチを始めたのでしょうか。

リサーチ旅行は、フロリダ州キシミーを中心にスタートさせました。そこで初めて、「隠れたホームレス」というアメリカの現実に触れました。永住できない人たちにとって安モーテルが最後の避難所となっている。これは、アメリカ全土で起きていると言われているのですけど、私自身は、ここで初めて触れたのを覚えています。

リサーチ旅行を通して様々な人に出会ったと思いますが、その中で母子家庭を中心キャラクターに決めた理由は?

色々な家庭の方にお会いして、まず「隠れホームレス」の中の41%が家族連れであることを知りました。そして、シングルファミリーとなると、そのほとんどが母親とその子供という家庭であることに気付いたんです。

もちろん世界的に考えても、シングルファミリーといえばシングルマザーというイメージが強いと思うのですが、アメリカでは片親しかいない場合、75%がシングルマザーなんです。それを無視できないなと思いました。

また、作品の舞台が「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」の近くってことを考えたときに、ディズニー作品は母親が不在であったり亡くなっていたり…そういう設定が多いなって。主人公がパーフェクトじゃない母親像というところも立地とリンクして、今回は母子家庭を物語に中心にしました。

監督がここで撮りたい、この人を撮りたいと思う決め手は何ですか。

ダイナミックなものがないといけない。キャラクターであれ、ロケーションであれ、何でも。もちろん映画は、作品によって入口が変わってくるので、そのダイナミックさのポイントは異なります。

前作の『タンジェリン』は、「ドーナツタイム」というドーナツ屋とロサンゼルスの交差点でどうしても撮影したいという気持ちがありました。今回は、ニュース記事から全てがスタートしていたので、記事で書かれたこのスポットでなくてはいけなかった。

ロケーションもキャラクターも何か強いものがないとダメですね。それが演劇と映画との違いだと思います。白い壁に役者さんが立っているだけでは、映画としては50%の完成度にしかなりませんから。

絶対ここで撮りたいと思わせた、フロリダ州キシミーの魅力は?

ビジュアル的にカラフルで面白い。作品に度々登場する国道・192号線は、すべてのお店がテーマパークのお客さんをターゲットに商売をしている。だからディズニー的なデザイン要素、色彩を取り入れているんです。なので、撮影現場とするには、視覚的にもユニークなスポットでした。

最高の撮影スポットを見つけ、3年ものリサーチ旅行を繰り返して、時間と手間をかけているのに、なぜドキュメンタリー作品として撮らず、さらに手間を加えたストーリータッチで作品を描くのでしょうか。

僕は、元々劇作家からスタートしているので、作品作りをする上で、物語を綴っていきたいという気持ちを大切にしています。フィクションで描くからこそ、より多くの人に届くと考える部分もあると思うので。

物語性を持たせることで、映画にどんなものが生まれるのでしょうか。

映画は、観客にとって逃避させてくれる娯楽であると思うんです。僕は、社会問題に焦点を当てながらも娯楽としてのバランスを取りながら、映画を作りたいと考えています。僕が見る立場であっても、見終わった後に何かを考えさせてくれたり、ディスカッションしたくなるような作品が好きなので。

観ていただいた方には、映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を通じて色々感じて欲しいけれども。個人的には「隠れたホームレス」という社会問題に光を当てたいという気持ちがあったので、物語を通して、そういうのが届いていればいいなって思っています。

娯楽的な側面がみなさんの心を捉えて、でも映画が終わった時には、色々と考えているようなそういう作品になっていたらいいなって。

作品に思いを込めて、きちんと物語を構成しているのに、なぜ素人をキャスティングするのですか。経験ある俳優に任せた方が、自分の作りたい形が出来上がるのではないでしょうか。

正直な話をすると、僕がフレッシュな顔ぶれを大きなスクリーンで観たい気持ちが一番大きいんだと思います。

例えば、貧困家庭のシングルマザーのようにキャラクターの濃い役。これをベテラン俳優や他の作品に出ている役者が演じると、どうしても過去の役柄と重なってしまう。観客はその役にすんなり入っていけない可能性がありますし、場合によっては「この人がこの役…?」って信じられないかもしれない。でも、フレッシュな人が演じるとそれはない。観客はスッと登場人物に入っていけますし、作品自体も多面的になるメリットを感じます。

他の人の作品を見るときも、フレッシュなキャスティングに好感を持ちますか。

もちろん。スーパーヒーローものなどいわゆる「商業作品」と呼ばれる映画に出演する役者さんは、もちろん素晴らしい演技を観せてくれるとは思うのですが、ワクワクはしないんですよね。実は、本作では6人の映画役者が並んだ映画用ビルボードを劇中で登場させて、僕のキャスティングに対するこういった意見を反映させているんです。

そんな中でも、名優のウィレム・デフォーを迎えています。彼は本作でアカデミー賞にノミネートされました。

ウィレムは、モーテルの管理人役。住む人々を見守る存在なのですが、彼が登場するシーンの多くは、演技経験のない俳優が相手。その中で、彼は自分を変身させることができるから、皆が作る空気感に見事はまってくれた。色々な役者をミックスしてキャスティングしたからこそ、生まれた面白さだと思います。ウィレムと仕事ができたのは、本当に幸運でした。

映画作りでショーン監督にとって重要なことは?

初めから終わりまで「新しい」という感覚。僕は革新的な作品、フレッシュなものの見方をしている作品が好き。作品を作るために、他の作品をコピーすることに全く興味がないので、いわゆる“雇われ監督”と呼ばれるような大型の商業作品を撮る映画監督とは、感覚がちょっと違うんだと思います。

子どもの視点で捉えた冒険ストーリー

住んでいるところは安モーテル、遊び場所は寂れたギフトショップの周辺。モーテルの家賃を捻出するのにいっぱいいっぱいの母親。作品の中には厳しい現実がたくさん転がっているが、すべて6歳の少女・ムーニーの視点から切り取られているため、作品全体にはワクワクとさせるムードが広がっている。

また、ショーン監督の名前を愛称にした「ベイカー・レインボー」と呼ばれる独特の色彩感覚。フロリダの青空、モーテルのピンクやパープルなど、35mmフィルムを使って捉えられた色鮮やかな世界も、本作の魅力となっている。

“第2のダコタ・ファニング”天才子役の誕生

主人公ムーニー役には、“第2のダコタ・ファニング”と評される子役、ブルックリン・キンバリー・プリンス。「ブルックリンは、僕がこれまで会ったあらゆる年齢層の俳優の中も、最も優れた一人だね」とショーン監督が評した彼女は、既に『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』で数々のブレイクスルー賞を受賞している。

ムーニーの母親ヘイリー役には、映画初出演となるブリア・ヴィネイト。何千ものインスタグラマーから探し出してスカウトした人物に「僕らがヘイリーというキャラクターに思い描いていた特徴をすべて兼ね備えていたんだ。」とショーン監督はコメント。テンションが高くて気楽で面白いという、彼女のパーソナリティが生き生きと作品に反映されている。

そしてムーニーやモーテルで暮らすみんなの父親のような存在である管理人ボビーは、『スパイダーマン』シリーズ1作目のグリーン・ゴブリン役や『セブン・シスターズ』のウィレム・デフォーが担当。

ムーニーの親友ジャンシーには、撮影現場近くの量販店でショーン監督が見つけ、オーディションに招いたヴァレリア・コット。そして、実際に192号線のモーテルに家族と住んでいた少年クリストファー・リヴェラも、ムーニーの友人・スクーティに抜擢されている。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』あらすじ

6歳のムーニーと母親のヘイリーは定住する家を失い、フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテルでその日暮らしの生活を送っている。周りの大人たちは厳しい現実に苦しむも、ムーニーはモーテルに住む子供たちと冒険に満ちた毎日を過ごし、そんな子供たちをモーテルの管理人ボビーはいつも厳しくも優しく見守っている。しかし、ある出来事がきっかけとなり、いつまでも続くと思っていたムーニーの夢のような日々に現実が影を落としていく―。

詳細

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
公開日: 2018年5月12日(土) 新宿バルト9ほか全国ロードショー
出演:ブルックリン・キンバリー・プリンス、ブリア・ヴィネイト、ウィレム・デフォー他
監督・共同脚本・編集:ショーン・ベイカー
配給:クロックワークス


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