中国系EVベンチャー「BYTON(バイトン)」のコンセプトEV(電気自動車)。共同創業者のダニエル・キルヒャート氏は自信たっぷりにお披露目した(写真:BYTON)

車に乗り込むと、顔認証システムが運転手を識別する。運転中は、5Gの超高速通信を活用した完全自動運転に身を任せ、ダッシュボードを覆う1メートル超の巨大スクリーンで友人とのビデオ通話や動画鑑賞を楽しむ。さらに健康状態の測定までできる。車内機器は、アマゾンのAI(人工知能)アシスタント「アレクサ」やジェスチャーで自由自在に操作できる――。

最新テクノロジーを”全部乗せ”したといっても過言ではないEV(電気自動車)のコンセプトカーが、1月9日から米ラスベガスで開かれた見本市「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」でお披露目された。

このSUV(スポーツ多目的車)タイプの車を手掛けたのが、中国系EVベンチャーのBYTON(バイトン)。同社のブースには超ハイテク車を一目見ようと、連日来場者が押し寄せた。カーステン・ブライトフェルドCEOは、「これは単なる乗り物ではなく、スマートデバイスだ。運転手ですらドライブ中に自分の時間を楽しむことができる」とそのコンセプトを語る。

中国政府の支援でベンチャーが続々登場


BYTONブランドの車には、1メートル超の巨大スクリーンがダッシュボードに搭載されている(写真:BYTON)

現在中国ではEV市場の拡大を目指す政府の支援を受け、EVベンチャーが次々勃興している。南京に本社を置くバイトンも、2016年に元独BMW幹部の2人によって設立されたばかり。政府の支援のほか、これまで民間企業からの資金調達にも成功してきた。これまでIT企業のテンセント、台湾EMSの鴻海(ホンハイ)科技集団などから、累計で約350億円もの金額を調達した。

豊富な資金を後ろ盾に持つためか、各部門の責任者には豪華な顔ぶれが揃う。BMWのプラグインハイブリット車「i8」に携わったメンバーを大量に引き抜き、さらにはEVのトップメーカー、米テスラの出身者を生産部門のトップに据えた。ソフトウエア開発関連部門には米アップルやグーグルの出身者もいる。

車の開発・生産拠点こそ中国だが、その実態は、独・米・中という3つの国をまたぐ水平分業体制と表現したほうが正確だ。車体のデザインはBMW出身のデザイナーが率いる独ミュンヘン、スマートカーのソフトウエア開発は米シリコンバレーが拠点となる。さらに部品の調達にあたっては、自動車部品大手の独ボッシュや仏フォーレシアと戦略的提携を結んだ。

2017年9月からは、南京の特区内に17億ドル(約1900億円)をかけて工場を建設中。2019年末までに中国市場で販売が始まる予定だ。2020年には米国や欧州への投入も予定している。

航続距離は最大520キロメートルで、まずは、限定的な条件・環境下でシステムが稼働する「レベル3」の自動運転機能が搭載される予定。販売価格は4万5000ドル(約500万円)からで、同社がベンチマークとするテスラ「モデルX」と大きく変わらない性能ながら、価格は約半分だ。


車内に取り付けられたカメラで人の動きを検知(記者撮影)

ある日本の大手自動車メーカー幹部は、「機能の目新しさもさることながら、他の中国EVベンチャーとは異なり車体のデザインが洗練されている。この車が本当に量産化されれば、無視はできないだろう」と語る。

ただバイトンが掲げるロードマップを実現させるためには、今後いくつもの高いハードルを突破する必要がある。

中国政府の生産許可がなかなか下りない

最初の難関は、中国政府からの車体生産の認証がなかなか取得できない点にある。南京の工場建設こそ許可されたものの、「生産開始および販売のライセンスはまだ取れていない」(共同創業者のダニエル・キルチャート氏)。CESで披露された試作車は、ドイツで製造されたものだという。


共同創業者のダニエル・キルヒャート氏(左)とカーステン・ブライトフェルド氏(右)。2人とも独BMWの出身だ(記者撮影)

中国のEV事情に詳しい現代文化研究所の呉保寧・上席主任研究員によれば、中国でEV事業に新規参入するためには、投資プロセスに関する認証を取ることが必須。ただ、その条件は非常に厳しく、試作車の数、工場設備の充実度、研究開発施設の設置などで一定の基準を満たす必要がある。

「現在数多くの会社がEVに新規参入する中で、この認証を取得できたのはたった15社のみ。しかも既存の自動車メーカーや自動車部品メーカーばかりが占めており、一から事業を始めるスタートアップ企業が認証された例はない」(呉氏)。

ここ数年バブルが続いてきた中国EVベンチャーへの投資環境がトーンダウンしていることも、バイトンには逆風だ。華々しくデビューしてきた中国のEVベンチャーのうち複数が、量産にこぎ着ける前に空中分解してきたからだ。

相次ぎつまずく中国発ベンチャー

一時はテスラのライバルとも持てはやされたベンチャーのファラデー・フューチャーは、重役の離職や技術的なトラブルに加え、資金繰りが悪化。2017年10月には米ネバダ州に10億ドルをかけて建設中だった工場の建設を取りやめた。さらに、ネット分野からEVに参入したLeEco(ル・エコ)も、資金面の悪化でトップが辞任する事態に見舞われている。こうした惨状を指して、「パワーポイント上だけで車作りをしている」と揶揄する声もある。

さらに、世界最大のEV市場となる中国を目掛け、日欧の大手自動車メーカーも一気にアクセルを踏み始めた。米紙の報道によれば、テスラが上海市の特区に工場を建設することで政府と合意。バイトンは、まずは年間10万台、将来的には30万台の量産計画を掲げるが、テスラですら米国での量産に苦戦している状況だ。ここに太刀打ちするのは容易ではない。

ただ前出の呉氏によれば、中国でEVベンチャーが生き残る唯一の方法として「現地企業と組んで合弁会社を作るべき」と主張する。たとえば、「NIO」というブランドでスーパーカーを作るNextEVは、地場の自動車メーカーJAC(安徽江淮汽車)と手を組んで生産を委託する予定だという。

バイトンが作った未来の車が、本当に道を走る日は来るのか。それとも、他のEVベンチャー同様、絵に描いた餅で終わるのか。本当の正念場はこれからだ。